壮年期 10

…その後。



拠点内にいる団員達に指示を出して拠点外に出ている団員達には国境への集合、または途中合流するよう伝令を送る事に。



「…私達は行かなくて良かったんですか?」


「行きたいならお姉さんみたいに一緒に行けば良かったのに」


「ヘレネーと私とでは役割が違いますし…それに坊ちゃんが送ってくれるのであればその時間を研究に費やせますからね」



自室でお姉さんが確認するように尋ねてくるので俺がもう一人の嫁である女性を引き合いに出して返すと、お姉さんは若干困ったような感じで笑って拒否るように言う。



「多分一週間後ぐらいかな?俺らが行くとしたら。まあ俺らが行く意味は無いけどたまには参加しないと真剣にやらない兵とかも出てきそうだし…」


「一週間ぐらいは様子見た方が良いかもしれませんね。私もたまには動かないと…」


「ははは、先生が動いたら他の団員達が暇するでしょ」


「たまには良いんじゃないですか?いつも頑張ってもらってますし」



俺の予想にお姉さんが意外な事を言い出し、俺が笑ってツッコミを入れるように返すとお姉さんは部隊の団員達を労うような感じで返した。




それから6日後。




そろそろ団員達が国境付近の村に着くだろうと予想して分身の俺はお姉さんを連れて先回りするように移動する。



「…ん?良く考えたら今回は分身しなくても良いんだ?」


「ヘレネーも直接出向いてますし…それに今回は私も動くつもりなので流石に半分の半分だと、ちょっと…」



分身の俺が村の中に入ってふとした疑問を聞くとお姉さんは今回は分身をお願いしなかった理由を話す。



「そう?とりあえず明日には着くだろうし…宿屋にでも泊まって待っとこうか」


「はい」



分身の俺は適当な感じで返した後に宿屋を探して歩く。



…翌日。



「…お。早かったね」


「なんだ、もう来てたのかい?もしかして昨日の内に?」


「ん」



朝早くに猟兵隊が村に到着するので分身の俺が予想よりも少し早かったな…と思いながら出迎えると嫁である女性が意外そうに確認し、分身の俺は肯定した。



「…相変わらず団長の方が先に着いてるのか…」


「僕らとは別の方向から来たにしても早すぎない…?」


「昼夜馬を走らせたにしては疲れが見えないし…」



隊長達は微妙な顔で不思議そうに話し合うが分身の俺はあえて聞こえない振りをする。



「じゃあ一時間ぐらい休憩してから国境まで送ろうか」


「そうだな」


「分かった」


「護衛ならば団長一人でも問題ないと思うが、まあ念の為一部隊いれば十分だろう。残りは設営に回る」


「オッケー。お願い」



分身の俺が指示を出すと隊長達は馬から降りながら了承し、隊長の一人が事前の計画を話してくるので許可を出す。



「…あ。え?いつの間に…!」


「昨日着いたばっかだよ。一応ほら、共同演習するから」



馬車から降りて来た姫が分身の俺に気づいて驚き、分身の俺はこの村に来た理由を軽く話した。



「…なるほど」


「あとコレ。弟からお土産だって」


「ありがたくいただきます」


「…怪しい物は入ってないだろうな?」



納得する姫に三日前に弟に渡された袋を渡すと護衛の騎士が怪訝そうな顔で警戒した様子を見せながら聞く。



「中身はクッキーしか入ってないけど…怪しいと思うなら毒味してみたら?」


「ナサリィ姫。確認のためにお一ついただけませんか?」


「全く…心配性もそこまでくると相手に失礼だというのに…」



分身の俺が中身を告げて適当な感じで言うと騎士が人差し指を立てながら要求し、姫は呆れたように呟きながらも袋を開けてクッキーを一枚渡す。



「これも姫様の御身を思ってのことでございます」


「クライン辺境伯自身であれば姫様に危害を加えぬという信用や信頼がございますが、その他の人物が間に入るとなると話は別になります」


「では失礼して」



他の騎士達が姫の身を案じるように言うとクッキーを受け取った騎士が姫に会釈して一口かじる。



「…!ほう…口の中で溶けるような食感、なんとも上質な…!」


「コレは妹から」


「では私が毒味を」



騎士は驚いたような反応をして一枚全部食べ切ると感想を言うので分身の俺が別の袋を取り出して渡すと…



別の騎士が確認するように言い、姫はため息を吐いて袋の中からサブレを一枚渡した。



「…!…なるほど、サクサクと小気味よい食感かと思えば直ぐに溶けてしまう…それでいてバターの風味や絶妙な甘さが…」


「んで、コレは俺から」


「姫様。ソレは私が」



騎士の感想を聞いて最後に俺が作ったクッキーの入った袋を渡すとまた別の騎士が毒味役を志願する。



「…あなた達、ただ食べたいだけでは…?」


「な、何をおっしゃいますか姫様!我々はただ、姫様の健康を気遣って何か怪しいものが入っていないかと万が一の事を考えて確認するために…!」


「食べたいんだったらまだあるよ。コレはみんなで食べて」


「「「ありがたく!」」」


「…はぁ…」



姫がジト目のように若干睨むような目を向けながら言うと騎士の一人が慌てた様子で否定するので、 分身の俺が空間魔法の施されたポーチから更にクッキーの入った袋を三つ取り出して渡すと騎士達は喜び、姫は呆れながらため息を吐く。

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