壮年期 11

…姫を国境に送り届けてから二日後。



「だ、団長!大変な事が…!」



太陽が真上にある昼の時間帯に団員の一人が慌てた様子で分身の俺が泊まってる宿屋の部屋に駆け込んで来た。



「どうした、何があった?ライツが攻めて来たのか?」


「いや、ライツの王女が賊の襲撃に遭ったらしい!」


「…マジ?いつの話?」



分身の俺が逆立ちの腕立てをやめて確認するように聞くと団員は否定して予想外の事態を告げ、分身の俺は驚きながら問う。



「国境で聞いた行商人の話では今日の朝に聞いたらしいから、多分襲撃に遭ったのは昨日の夕方から夜にかけてだと思う」


「…マジか。ライツの治安の悪さよ…それにしても自国の王女を拐うか?普通」


「どうする?助けに行くか?」



団員の報告と予想に分身の俺が呆れながら返すと団員は指示を確認するように尋ねる。



「ん。今のタイミング的にこのままじゃ罪をなすりつけられて俺らのせいにされかねんし…でも俺一人で行く。もしかしたら猟兵隊を潰すための罠って可能性もあるから」



分身の俺は肯定した後に自分が動く事を告げてその理由を話す。



「…なるほど。俺達を誘き寄せるための餌として賊に見せかけて王女を拐った、と」


「俺ならそうする。いくら盗賊とはいえ、まさか身代金目的で自国の王女を拐うなんて恥知らずで命知らずな事はしないだろうからね」


「…確かに。金目当てで王女を拐ったとしても絶対に逃げ切れるハズが無い」



団員が理解して納得しながら言うので分身の俺が常識的な考えを告げると団員は同意して返した。



「あとは俺がなんとかするから国境の防衛に戻っていいよ。報告ありがとう」


「分かった」



分身の俺は団員に持ち場に戻るよう告げ、お姉さんや女性…隊長達に話を通すために部屋を出る。




「…お。いたいた…ちょっと良い?」


「…どうかしたんですか?」



村の外に設営された宿営地に行くと運動会とかで使われてるテントの下でお姉さんが椅子に座って本を読んでいたので、分身の俺が声をかけると顔を上げて不思議そうに用件を尋ねてきた。



「ライツの王女が賊の襲撃にあって拐われたんだって」


「えっ!?」


「んで。まあ罠の可能性もあるかもしれないからとりあえず俺が様子を見に行く事にした」


「…私も行きましょうか?」



分身の俺が軽い感じで問題が発生した事を告げると当然お姉さんが驚き、報告するように言うとお姉さんは本を閉じて同行を申し出る。



「いや、確かについて来てくれた方が助かるしありがたいではあるけど…万が一の事態に備えて国境の防衛をお願い」


「分かりました。ヘレネーやみんなにも伝えて来ます」


「ありがとう。でも演習は続けといてね」


「はい。相手側に動きを悟られないよう対策を講じておきます」



分身の俺は断った後に代理として猟兵隊の指揮を任せる事を告げるとお姉さんが女性や隊長達に報告に行こうとするので、必要無いとは思いつつも一応指示を出すがお姉さんは理解しているように返して歩いて行く。



「…さて、行くか」



襲撃に遭った場所は聞いていないが、現場には多分馬車の残骸や誰かしらの死体が残ってるだろう…と考えながら分身の俺は変化魔法を使って両手をハーピーとドラゴンの翼に並行変化させ、まずは現場の捜索をする事にした。





ーーーー





「…ん?ココか」



そこそこ速いぐらいのスピードで飛行する事、約20分ぐらいで馬車とその周りに倒れている人達を発見。



「…護衛の騎士達の姿は無い、か…」



誰か生存者は居ないものか…と地面に降りて確認するも既に息絶えてる死体達に見知った顔は居らず、分身の俺はちょっと安堵しながら呟く。



「…騎士達も拐われたのか近くの村か町に行ったのか…」



全く手がかりが得られず困りながらもおそらく生存しているかもしれないと想定して行き先を予想し、分身の俺も近くの村か町へと向かう事に。




「…すみません、この近くでなんか賊の襲撃があったって話を聞いたんですが…」


「ああ、詳しくは分からないが盗賊団にどこぞの貴族が襲われたんだってな。良い気味だ」



分身の俺が近くの村に行って適当な人に声をかけて話を聞くと男は楽しそうに笑いながら言う。



「盗賊団…?野盗の仕業って聞いたんですが…」


「貴族を襲えるほどだ、どう考えても盗賊団の仕業だろう」


「…確かに」


「ここら辺は西の砦を住処にしてる盗賊団の縄張りらしいから犯人はきっとソコの盗賊達に決まってる。まあなんにせよこれからも俺達みたいな貧乏人じゃなくて金をいっぱい持ってる貴族だけを狙ってくれるとありがたいんだがな」



分身の俺の嘘を吐きながらの確認に男は予想を話し、分身の俺が納得したような演技をして返すと犯人を勝手に決めつけ上流階級についての皮肉や嫌味を言い始める。



「全くですね。義賊のように悪どく稼いでる金持ちから奪ってみんなに配ってくれれば尚ありがたいのですが…」


「ははは!そんなに良い奴なら盗賊でも許せるな!」


「では、自分はこれで」



分身の俺が適当に同意して冗談を言うと男は笑って賛同し、会話を終わらせるにはちょうど良いので会釈して村から出た。

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