壮年期 12

そして分身の俺はとりあえず盗賊団の住処になってるらしい西にある砦へと向かう。



「…お。砦ってアレか…なるほど、放棄だか放置されてる砦を修繕してアジトにしてるわけか」



川の近くにある結構古い感じの建物を見つけ、旋回しながら呟いて少し離れた所で地面に降りる。



「…おっと。早速歓迎か」



砦…というよりも打ち捨てられた様子から見て『砦跡』とか『廃墟』に近い場所へと近づくと矢が飛んできた。



「誰だ!」


「何の用だ?」


「ココは観光地じゃねぇぞ」



分身の俺が矢を余裕でキャッチしながら近づくと柄の悪い男達が警戒した様子でナイフや棍棒、長い棒を構えながら出て来る。



「仕事の依頼に来た」


「…なんだと?」


「仕事…?」



分身の俺の適当な嘘による用件を聞いて男達は怪訝そうな表情になって臨戦態勢を解くように武器を下ろす。



「そうそう。とある貴族の使いでね。誰に話せば良い?」


「…とある貴族だと?誰だ」


「ソレは今はまだ内緒。流石にこんなところに来るぐらいだから察してよ、情報が漏れたら大変でしょ?」


「チッ、ついて来い。お頭に会わせてやる」



分身の俺は嘘を重ねて肯定し、男の問いにはぐらかすように答えると別の男が舌打ちして案内してくれた。



「…ん?ソイツは誰だ?」


「貴族の使いだとよ。お頭に仕事を依頼したいとか言ってやがる」


「おい、ソイツは誰だ?」


「貴族の使いだと」


「なんだなんだ?見ない顔じゃねぇか。新入りか?」


「貴族の使いっ走りらしいぜ」



…ボロボロになっている砦内を歩いているとあちこちから声をかけられ、案内役の男は雑な説明で返していく。



「…お頭。俺らに仕事の依頼をしたい、っていう貴族の犬が来てる」


「仕事の依頼だと?お前か?」



砦の中の一室…まあまあ雨風は凌そうな空間に着くと用件を告げ、椅子に座っていた結構体格のがっしりした厳つい顔の男性が怪訝そうに立ち上がる。



「はい。その前に確認があるのですが…」


「…確認だと?」



分身の俺の発言に男性は不機嫌そうな顔をした。



「姫…いえ、王女が誘拐されたと聞きましたがまだ生きてますか?」


「拐ったのは俺達じゃない。俺達は頼まれたから手伝っただけだ」


「そうですか…あの王女を拐える程の盗賊団といえばココしか無い、と聞いたのですが…」



分身の俺が本題を尋ねると男性は否定するので分身の俺は居場所を聞き出すために残念そうな感じでガッカリした演技をしながら呟く。



「ふん、今回成功したのも俺達が手伝ったからだ。奴らだけでは失敗しただろうな」


「現場を見た人達からの話を聞いてココに来たんですが…どうやら無駄足になってしまったようで」


「その王女とやらが目的か?」



男性は得意気な顔で自慢するように言い、分身の俺がため息を吐いて返すと男性が確認するように聞く。



「はい。実は…ここだけの話、当主…依頼主は王女を殺してラスタに罪を被せ、戦争の火種にしよう…と考えてまして…」


「なんだと!?」


「自分は『どうせ殺すのであれば首だけ差し出して貰えば良いのでは?』と提案しましたが、『万が一王女が生き延びていると計画が失敗する』と拒否されてしまい…猜疑心が強くて疑い深いのでどうしても目の前で首を切りたいらしく、『綺麗な身体で連れて来い』との命を受けました」



分身の俺が小声で嘘を告げると男性が驚き、いかにも悪役が考えそうな目的を適当にでっち上げて姫の身柄を欲しがる理由を話す。



「…なるほどな。依頼主はスキュリュ伯爵かシャリャン伯爵といったところか…」


「ところで本当に王女はココには居ないんですか?伯しゃ…とある貴族はかなりの額を用意してると仰ってましたが」


「残念だが拐って行ったのは北東の奴らだ。おそらくどっちか片方の依頼だろう…奴らも伯爵からの依頼とか言っていたからな」



男性は心当たりがあるのか何故か納得したように呟いて予想の貴族の名前を挙げ、分身の俺が再度確認するも首を振って否定された。



「…はぁ…今度は北東ですか…北東まで行かないといけないとは…」


「『綺麗な身体』で『無傷のまま』王女を手に入れたいんなら急いだ方が良いぞ。アジトである廃村に着けば伯爵に引き渡す前に遊ぶだろうからな」



分身の俺の面倒くさがっての呟きに男性は意外にも注意するようにアドバイスをくれる。



「まあ自分としてはどうせ殺すのであれば生きてさえいればソレで良いと思うのですが…状態を気にするなんて面倒ですし」


「ふん、おおかた殺す前に楽しむためだろう。どっちの伯爵も『殺して下さい』と懇願させてから殺す良い趣味をお持ちのようだからな」



分身の俺が疑われないよう話を合わせて言うと男性は面白くなさそうに鼻を鳴らして予想を返し、嫌味や皮肉を交えて伯爵達の評判を口にする。



「…全く。奔走される我々の身にもなって欲しいものです…コレを」


「…残念だが今回は奴ら盗賊団から王女を奪う依頼は受けれん。一度手伝った以上これでも筋を通す必要がある」



分身の俺はため息を吐いて呟き、共通金貨を10枚差し出すと男性は微妙な顔で受け取り拒否して理由を話した。



「いえ、口止め料です。今日はココに誰も来てないし、あなたは誰とも会っていない…当然話は何も聞いておらず、何も知らない…ですよね?」


「…そういう事か。そうだな、俺は今日誰とも会っていない。そしてココに貴族の使いは来なかった」


「素晴らしい。では自分はコレで失礼します」


「出口まで送ってやる」



分身の俺が悪どい顔をしながら金を渡す目的を話して釘を刺すと男性もニヤリと笑って同意して金を受け取り…



そのまま帰ろうとすると金を受け取った手前上、一応砦跡から出るまでの安全は確保してくれるらしい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る