学生期 弐 16

…そして4日後。



「はあー…面倒くせぇ…」


「まあまあ、どうせ予選で負けるでしょ。兄さんが何もしないなら実質一人分のハンデを背負ってるワケだし」



世界戦の開催国へと移動する日の朝に俺がため息を吐きながら呟くと弟がフォローするように返して笑う。



「…それもそうか。とりあえずいつもの修行場所に分身の俺を置いて行くからなんかあったら頼れよ」


「…大丈夫なの?」


「アッチは滅多に人が来ないし…一応テント張ってあるからソコで寝れば多分大丈夫。お前ら以外が来たら離れるか隠れるし」



保険や鍛錬、修行要員として分身の俺を残しておく事を教えると弟が確認するように聞くので対策を話す。



「んじゃ、行ってくるわ。お土産いっぱい買ってくるからな」


「あはは、期待してるよ」


「お兄様お気をつけて」



集合場所には待ち合わせ時間よりも早く着いておきたいので俺は時間を見ながら部屋を出た。




「…あれ、坊ちゃん早いですね」


「まあね」



…集合場所で待つ事10分ほどして治療要員として一緒について来る事になったお姉さんがやって来る。



「まだあと15分もあるのに…」


「遅刻したらシャレにならないから30分ぐらい前から待っとかないと」


「あー、確かに…早く来てないと文句言って来そうですもんね」



腕時計を見ながら呟くお姉さんに理由を話すと、お姉さんはこれから集まる貴族の坊ちゃん達を思い浮かべるように同意した。



「でもこの学校から4人も選ばれるなんて多過ぎません?他の学校なんてほとんど一人…多くて二人なのに」


「一応対抗戦で優勝したからじゃない?それで推薦の枠が多く貰えたとか」


「あー…」



お姉さんの疑問に俺が予想で返すと納得したように呟く。



それから時間になり、代表者や引率の教師達が集まり…



飛行船を乗り継いで二日ほどで開催国へと到着。



そこで現地集合だった代表者達と一旦集まったものの、大した話し合いをする事もなく顔合わせだけで終わって解散する事に。




その翌日。




ついに世界戦が開催され…二時間ほどの開会式という名のお祭りのようなイベントを終えて俺らは会場へと移動を始める。



「…世界戦ともなれば国内戦のように観客がつき、魔法中継もされる。無様な負け方だけは避けねばな」


「ゼルハイト、貴様に戦果は求めん。ただし無様にやられるような事になれば許さんぞ」


「大丈夫です。俺一人残ったら即降参するので」


「…それで良い。負ける時は潔くの方が印象は悪くならんからな」



…移動中の馬車の中で先輩達に圧をかけられたが俺には関係ないので流すように対応した。



「だがまあ…せっかくの世界戦だ。グループ戦で三試合もあるとなれば一度ぐらいは後輩を立てても良かろう」


「…そうだな。おい、ゼルハイト。初戦に限り貴様の指示に従おう。引率の時と同様に指示をしろ」


「ただし、結果が残せなければ…次の試合からは好きにさせてもらうぞ」



先輩の一人…侯爵家の跡取りが意外な提案をすると同じく侯爵家の次男が賛同し、伯爵家の跡取りが釘を刺してくる。



「うーん…それならあと一人欲しいですね。4人一組なら遊撃、強襲、伏兵と使い易いんですが」


「チッ、生意気な後輩が…しょうがない、誰を部隊に引き込む?」


「ウィローなんてどうだ?魔法の腕はもちろん剣の腕もそこそこ立つ」


「ウィロー…敵対派閥の伯爵家出身ですが、そんな事を言ってる場合ではありませんね」



俺の意見に先輩達は嫌そうな顔をしつつも他の学校の代表者から候補を挙げ、伯爵家の跡取りが困ったように笑う。





ーーーーーー





杭とロープで仕切られた平原地帯の会場に着くと先輩達が真っ先に馬車から降り、代表者達を集めて話し合いを始めた。



「…ゼルハイト。話し合いの結果、みな初戦は貴様の指示に従うそうだ」


「もし万が一でも無様な内容になれば分かってるだろうな?」



先輩の報告にウィロー伯爵家の跡取りが睨みながら脅してくる。



「相手が自分達よりも圧倒的に強くない限りは善戦ぐらいは出来ると思います。もし弱ければ力押しでそのまま勝てますし、多少の差なら作戦次第ではひっくり返せるかと」


「ふん、対抗戦で何もしなかった置物が作戦を語るか」


「無能な指揮に頼るぐらいなら個人の考えで動いた方がマシというものだがな」



俺が笑いながら説明するが他の学校の代表者達は面白くなさそうに嫌味を言うも、侯爵家の跡取りである先輩には逆らえないのか一応4人と3人のグループに分かれた。



「では、先輩達は二手に分かれて左右の端の方から相手の本陣へと向かって貰えますか?」


「…更に二人ずつに分かれろと?」


「はい。相手が同じ人数、もしくは3人で迎撃に向かってくるようなら交戦を。4人以上なら陽動で引きつけてくれたらありがたいです」


「もし向かって来ない場合は相手本陣を後ろから回り込み、もしくは左右からの挟み撃ちか?」


「その通りです」



…流石に先輩達は一般クラスでの試合内容を知ってるからか俺の作戦の意図を理解したかのように確認する。



「…そして本陣で相手を攻める作戦か。…なんとも単純で簡単、お粗末なモノだな」


「そうですね。対策が簡単で何通りもある分、少しでも対応が遅れたら一気に劣勢になる棒銀みたいなモノですよ」


「ぼうぎん…?」



他の代表者の呆れたような発言に俺は内心お前らに難しい作戦は無理だろうが…と、毒を吐きながら将棋に例えた説明をするもみんな不思議そうな顔をした。



「…もし相手が守備陣形を組んで移動したらどうする?」


「後ろに下がるか前に出てくれれば通常通りでも包囲出来ますが…西側の端や東側の端で待機されると厄介ですね」


「なぜだ?」


「包囲する範囲が狭まります。そしておそらく次に浮いた駒から狩る作戦を取ると思うので、真っ先にどちらかの先輩達が狙われるでしょう…その場合は本隊到着まで距離を取って待機していた方が…」


「…時間か」



…まだ俺達は作戦会議中だと言うのに時間がきたのか、ピー!という開始の合図の笛が音が鳴り響く。



「まあそういうワケです。危ないと思ったら深追いせずに距離を取り、本隊と合流して下さい」


「分かった。では行くぞ」


「はい」


「こちらも出る」


「はい!」



俺は作戦会議を途中で切り上げて適当な指示を出すと先輩達は二手に分かれて先に行動を始める。

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