青年期 270

…その翌日。



昼前に今度は辺境伯が何故か妹二人と一緒に拠点に来たので…



昼飯に昨日の侯爵と同じパンを使ったメニューを出してお帰りいただいた。



「…今日は辺境伯ですか…」


「ライツの王女の事とリーゼの事を話しに来たみたい。でも正直どうやってハメられたとか学校でどんな扱いを受けてた、とか今更言われてもなぁ…って思う」



…辺境伯を見送って自室に戻るとお姉さんがソファに座ったまま呟くので俺は辺境伯との会話の内容を簡単に教え、微妙な顔をしながら言う。



「既に終わった事ですからね…本当に今更そんな事を言われても…」


「どうせなら事が起きる前に教えて欲しかったよね。まあ知った所で何が出来たか分からんけど」


「…確かに」



お姉さんも困ったように笑いながら同意し、俺がため息を吐きながら返して予想を話すと賛同するように頷いた。



「…さて、またパンを焼かないとな…ケーキも作らないと…」


「あ。そういえばマーリン様が来るらしいですよ?」


「…え?」


「坊ちゃんの料理を食べに来る、って手紙が届きました。ほら」



俺が仕込みの事を考えながら予定を立てるとお姉さんが思い出したように報告し、驚きながら聞き返すとお姉さんは手紙を差し出してくる。



「…ほんとだ。日付的にココに着くのは明後日ぐらいか…」



俺は手紙を読んだ後に今は既にラスタに到着してる頃だろう…と予想を呟く。



「魔法協会の代表者が私用でわざわざ出向いてくるなんて凄い事ですよ?流石坊ちゃん」


「…帰りは送れって言われそうだが…まあいっか。とりあえず時間はいっぱいあるし、凝った料理も作れそうだ」


「あ、じゃあ久しぶりにクレープのミルフィーユが食べたいです!」



お姉さんの褒め言葉に俺が嫌な想定をしながらも、もてなしの料理を考えるとお姉さんがデザートのリクエストをしてきた。



「ええ…アレ面倒くさいんだよな…でもまあオヤツの時間にでも用意しとくよ」


「やったー!」



俺が面倒くさがりながらも了承するとお姉さんは両手を上げて喜ぶ。



「とりあえずはパンから先に作っとかないと…」


「手伝います?」


「お。じゃあお願い」



俺は忘れる前に…と空間魔法の施されたポーチから材料を取り出しながら呟くとお姉さんがありがたい提案をしてくるので、言葉に甘えて申し出を受ける事に。



「…この小麦って生地に砂糖とか甘くなるものを一切入れてないのに焼き上がったものは甘くなるなんて不思議です…」


「まあ上質な小麦ってのはそういうもんなんじゃない?それか化学反応を起こして甘味が出るとか」


「…でも甘くならない作り方もあるんですよね?」



ボウルの中でパンの生地を混ぜながら不思議そうに呟くお姉さんに俺が適当に返すと確認するように聞いてくる。



「ん。パンズにする時とか粉物の料理を作る時とかはそういうやり方で作る」


「『料理は錬金術』って言葉を本で見た事ありますけど…坊ちゃんの話を聞いてるとソレも本当だと思えて来ます」


「『調合』という意味ではほぼ一緒と言って良いし」



俺が肯定するとお姉さんは感心した様子で思い出すように言い、俺は肯定するように返す。



「…団長。今いいか?」


「ん?どうかした?」



生地を寝かせている間に報告書を読んでいるとドアがノックされ、隊長の一人がドアを開けながら確認してきた。



「さっきライツの王女の件を聞いたんだが…領都周辺の警備とかを固めなくて平気なのか?」


「大丈夫大丈夫。コッチが下手に動くと悟られるから放って置いてもいいよ」


「…ライツに拐われたりしないか?」


「拐われたとしても国境まで急いで三日はかかる距離だし、代行達が足止めの手を打つからいざと言う時は俺らが間に合う」



隊長の提案に俺が楽観的な感じで返すと最悪の事態を想定しながら聞くので対策は既に取っている事を告げる。



「流石に猟兵隊が国内に居る限りはライツも無茶な事はしないと思いますよ?」


「…それもそうか。だが、ライツの王女達が工作員として潜り込んでいる可能性は?諜報活動や確証の無い噂をばら撒かれると厄介だと思うが…」



お姉さんもライツの動きを予想するように言うと隊長は納得した後に別の不安要素を話した。



「諜報活動は別にされても問題無いかな…噂の方も代行の居る前でそんな事できるわけ無いから大丈夫。なんかあったら直ぐに俺に報せが来るだろうし」


「坊ちゃん戦いでは力でねじ伏せるやり方を得意としてる上に戦場での主な作戦は隊長達が現場で決めたりしますもんね…諜報してもあまり意味は無いと思いますよ」



王女が仮に工作員だったところであまり成果は持ち帰れないであろう事を話すとお姉さんも賛同するように言う。



「そうか。じゃあ大丈夫だな」


「一応何か引っかかるようなことがあったらまたお願い。敵が頭を使ってくるかもしれないし」


「ああ、分かった」



不安が払拭され安心した様子を見せる隊長に俺は万が一のために少しは警戒するよう促すと隊長は了承して部屋から出ていく。



「…それにしても工作員、ですか…考えつきもしませんでした」


「そう?敵の善意につけ込むってのは計略として良くある事だからなぁ…国境付近の村とかが扇動されて寝返られたら困るから理由を付けて管理下の町のどっかに移動させたんだけど」


「…普通そこまで考えつきませんって。坊ちゃん人が良い割に疑い深すぎません?」


「そりゃあ守るものがある立場だからね。何も無ければそれが一番だよ」



お姉さんの意外そうな呟きに俺が前世の記憶による戦争ゲームを思い出しながら言うと、お姉さんは困ったように笑って弄るように返すので俺は適当な感じで返す。

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