青年期 269

「…ではまず突き出し…というか前菜ですね。一口サンドです」



俺はスライスした食パンに生ハム、スライスチーズ、トマトの薄切り、レタスを乗せてマヨネーズをかけた後に上からまたスライスした食パンを乗せて挟み…



ソレを一口大に切った物を紙皿の上に数個乗せてからテーブルの上に置く。



「パンの前菜とは面白い」


「本当に。それに味の方も絶品ですね」


「…ただいま料理を作りに行きますので少々お時間を頂きます」



おっさんと女の子が珍しそうに見て喜びながら食べるので俺はピザパンを作るために一旦退室する。






ーーーーー






「…お待たせしました。こちら『ホットサンド』になります」


「ほう?」



…俺が卵に浸した二枚のパンにベーコンとチーズを挟んで焼いた料理の乗った皿をテーブルの上に置くと、おっさんは珍しそうに料理を見てナイフとフォークを手に取った。



「「…美味い!」」


「パンの甘味と、中に挟まれている具材の塩味のバランスが素晴らしいです!」


「…コレは…ベーコンだな?さっきはハムだったか…魔物素材で作ったパンに同じく魔物素材で作った加工肉を挟むとは…」



おっさんと青年は料理を一口食べての感想が被り、女の子も感想を言うとおっさんがもう一口食べて具材を予想するように確認してきた。



「…次はこちら。ピザパンになります」


「『ピザパン』?」



おっさん達が食べ終わった後に次の品を出すと女の子が不思議そうに尋ねる。



「ピザをパンで代用した料理です」


「…なるほど。どうりで既視感があると思ったら…あのピザを真似た物か」


「なるほど」



俺の説明におっさんが納得しながら言うと女の子も納得するが…



「それならば普通にピザを作った方が良いんじゃないか?わざわざパンで代用など…」


「アンドリュー。食べる前から余計な口を挟むな」


「…申し訳ございません」



青年は若干納得いかなそうに疑問を聞くように言うが、おっさんの睨みながらの威圧的な言葉にすぐさま軽く頭を下げて謝罪した。



「ゼルハイト卿にはゼルハイト卿の考えがある。まさかそれをわざわざ指摘されないと分からないほど未熟なわけではあるまい?」


「今のは失言でした」


「…申し訳ございません、冷める前の美味しい時に食べた方がよろしいかと…」


「そうですね」


「…そうだな」



おっさんが説教をするかのように言うと青年は非を認めるように返し、俺は雰囲気を変えるために食事を促したら女の子も同意しておっさんも賛同した。



「…!パンがサクッとしたかと思えばもちっとした柔らかい食感…!チーズの濃厚さとソースの組み合わせが素晴らしい…!」


「うむ。ピザとはまた違った美味さだ。パンだからこその仕上がりだな」


「…美味い…!」


「…今までお父様から何不自由なく育ててもらい、料理においてもこれ以上に無い環境で生きてきた、と思っていましたが…まさかこれほどの料理を知らないまま生きていたとは…なんと不幸な事か…!!」



女の子の感想におっさんが同意すると青年も驚くような反応を見せ、何故か女の子が自慢するような事を言い始めた…と思えば急に自虐的な感じになる。



「…リーゼちゃんも同じものを作れるのですか?」


「はい。流石にクオリティは俺には少し劣りますが…舌の肥えていない人にとっては違いが分からない誤差みたいなものです」


「なるほど…そこまで…」



女の子はまだ半分も残ってるのにナイフとフォークを紙皿の上に置いて確認するように尋ね、俺の返答を聞いて納得したように呟く。



「…ふう。美味かったぞ」


「ではデザートとして小倉…アズキトーストをどうぞ」


「「…アズキ…?」」


「コレは…こし餡か」



三人全員がピザパンを食べ終わるのを確認して小倉トーストを出して名称を言い換えると青年と女の子が不思議そうに呟き、おっさんはアンコの状態を見て確認した。



「はい。今回はトーストしたパンの食感を味わってもらうために粒あんではなく、こし餡にしています」


「…美味い!ホットケーキのようにこの上に乗ったバターの塩味がこし餡やパンの甘さを引き立てている!」


「…美味しい!お父様の言う通り、このバターが絶妙に…!」



俺の説明を聞いておっさんは手づかみでトーストを持ち上げてかじりつき、感想を言うと女の子はナイフとフォークで上品に切り分けて食べて同意する。



「…最後に…パンのケーキ仕立てをどうぞ」


「…パンのケーキ仕立て…?」


「はい。薄切りにしたパンにホイップクリームを塗って薄切りしたフルーツを乗せ、また薄切りにしたパンを乗せてホイップクリームでコーティングしたものです」


「ほう…これはまた変わった趣向だな」



俺が最後のデザートを出すと女の子が不思議そうに見ながら聞くので作り方を簡単に話すとおっさんは意外そうに呟く。



「…美味しい!パンの柔らかさがまるでスポンジケーキのような…!」


「しかもコレはミルフィーユ仕立てではないか…あんな短時間で良くこんな手間のかかる料理を作れたものだ」


「いえ、元々前に作って保管していたものを提供しただけなので先ほど作ったわけではありませんよ」


「なるほど…いやしかしさっきのは『甘じょっぱい』でコレは『甘酸っぱい』か。相変わらず味の組み合わせに関してずば抜けたセンスを持つものだ」


「ありがとうございます」



おっさんの驚いたような感想に俺が否定するように返すと納得した後に褒めてきて、俺は適当に流す感じでお礼を言う。

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