青年期 271
…翌日。
「…団長、ちょうど良い所に」
「困った事になった」
朝食前の鍛錬を終えて自室に戻ろうとしてると本部の建物の前で隊長達4人が走って来て声をかけてきた。
「何があった?」
「トーリン子爵が来てる」
「…トーリン子爵?って…あの?」
「ああ。今ガストン子爵と武力衝突してるあのトーリン子爵だ」
「団長に話があると兵を1000人近く引き連れて来てるが…」
俺の問いに隊長の一人が面識の無い貴族の訪問を告げ、俺が確認すると別の隊長が肯定して他の隊長が面倒な状況を説明する。
「…ココに兵を率いて来るとか喧嘩売ってんのか?まあいいや、俺が対応するよ。ありがとう」
「…大丈夫か?」
俺がイラッとしながらも気持ちを切り替えてそう返してお礼を言うと隊長の一人が戦闘を視野に入れた確認をして来た。
「多分大丈夫じゃない?でも一応みんなには心構えをしておくよう伝えといて」
「分かった」
「気をつけて」
俺は隊長達に指示を出して子爵の下へと向かう。
「…やーやー、兵を率いて何の用?もしかしてウチに喧嘩でも売りに来た?」
「これはクライン辺境伯。自らのお出迎え感謝いたします…それと誤解を招いてしまった事に謝罪を申し上げます」
門の外に出て俺が不機嫌さを隠さずに挨拶して用件を問うと40代ぐらいのおじさんが馬から降りて頭を下げながら申し訳なさそうに返す。
「誤解?」
「この兵達は私の親衛隊でして…決して辺境伯に牙を剥く目的ではございません。ただの護衛でございます」
「…リデック。久しぶりだな」
「卒業以来…か?」
俺の問いにおじさんは頭を下げながら説明すると…兵士達の中から二人が出て来て兜を取りながら馴れ馴れしく話しかけてきた。
「ん?…おお。久しぶりだな、まだ生きてたか」
「いや勝手に殺すな」
「そう簡単に死ぬかよ」
二人の顔を見て俺は学生時代のクラスメイトだった事を思い出し、ボケるように言うと二人はツッコミを入れるように返してくる。
「ははは。こんな時勢だからな、まあでもそういや卒業後にクラスメイトと会うのも初めてだな」
「そうなのか?ハンターになった奴らとかとは会ってないのか?傭兵団はハンターばっかりなんだろ?」
「いや…ギルドとかでも会ってないな」
俺が笑って重ねるように冗談を言い、意外に思いながら告げると一人が不思議そうに確認するので俺は否定した。
「騎士団とか治安部隊になった奴らともか?」
「何人か遠目で見た事はあるが、その時には俺もアッチもそんな暇が無くて会って話すって事は無かった」
「そうなのか…」
「俺達もそう頻繁に会うわけじゃないしな…」
もう一人の確認にも否定すると学生時代のクラスメイト二人は微妙な顔で呟く。
「しっかしそう考えたらアレか。内戦とかだと下手したら元クラスメイト同士で争う事になる可能性も出て来るわけか。…まあ俺は内戦には干渉しない事にしてるから関係無いが」
「俺はまだそんな事態になった事は無い」
「俺もだ。戦場に見知った顔は居なかった」
「へー、そりゃ幸いだ」
「…これで我々に敵意が無い事はご理解いただけたでしょうか?」
俺が嫌な想定と予想しながらも自分はそうならないよう対策を取ってる事を話すと二人は思い出すように返し…
わざわざ俺らの会話が落ち着くまで空気を読んで待っててくれたおじさんが確認する。
「あ、はい。早まった考えで誤解してしまい、申し訳ございませんでした」
「いえ、それで…ですね…クライン辺境伯に保護を求めたいのですが…」
「保護…ですか?」
俺が肯定して軽く頭を下げながら謝罪するとおじさんは言いづらそうな感じで用件を告げ、内容が不明瞭なので俺は不思議に思いながら聞き返した。
「恥ずかしい話になりますが…敗勢の状態で退路を断たれてしまい、近場で頼りになる人がクライン辺境伯以外に思いつきませんでしたので…」
「匿う事については構わないですが…子爵の住まいや食事が団員達と同様になる事と、兵達には拠点内で野営してもらう事が条件になりますよ?」
おじさんはココに来た経緯や保護を求めた理由を話し、俺は了承するにあたっての条件を伝えて確認する。
「ありがとうございます!雨風凌げる場所に匿って貰えるのならばどこでも構いません!」
「…では我々は引き続き任務にあたります」
「待て。辺境伯と知り合いの二人は私の護衛として残れ」
「「はっ!」」
おじさんが嬉しそうに頭を下げてお礼を言うと部隊長っぽい兵士が報告し、おじさんが指示を変えるような事を言うと…
その場に20数名ほどの兵士を残して他の兵士達はどこかへと移動して行った。
「…ではこれから子爵の住まいとなる部屋に案内いたします」
「助かります」
少しして俺が門を開け、おじさんがしばらくの間住む事になる場所へと案内するために歩き出すとおじさんや兵達も後ろからついて来る。
「あとから臨時許可証を配布しますので…この拠点内では必ず周りから見えるように持ち歩いて下さい。でないと不審者だと疑われてしまうので」
「分かりました。…分かったな?」
「「「「はっ!」」」」
俺の歩きながらの注意事項を聞いておじさんは了承した後に兵達にも確認を取ると、兵達は一斉に手を胸まで上げるポーズを取って返事した。
「…団長」
「ああ、大丈夫だった。警戒態勢は解いていいよ」
「分かった。じゃあみんなに伝えてくる」
「お願い」
宿舎に向かって歩いていたら団員が子爵達を見ながら駆け寄って来るので俺が楽観的な感じで指示を出すと、団員はホッとした様子を見せて小走りで他の団員達へと伝令に向かう。
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