学生期 6

…翌日。



「…兄さん、また午前中の授業受けなかったの?」


「必要ないからな」



昼食の時間になると弟が修行場所に来て呆れたように言うので俺は手刀でコーン、コーンと薪割りしながら返す。



「お兄様、授業はちゃんと受けないとダメですよ」


「午後の授業はちゃんと受けるよ」


「…それにしても…昨日の倒木がもう輪切りみたいにされてる…」



何故か妹も一緒に来てたらしく、注意されてしまったので俺が言い訳すると弟は周りを見て呟いた。



「…お兄様。ソレ、楽しそうですわね。私にもやらせて下さい」


「ダメ。危ないから。この斧を使うならいいよ」



俺が折りたたみの椅子に座りながら腕を振り下ろして堅い木を割って薪にしてると…



その様子を見ていた妹が同じ事をしようとするので俺は止めた後に子供用の小さな手斧を渡す。



「分かりました」


「はい」


「えいっ!」



妹が斧を受け取るので目の前に薪を立てて置くと、妹は両手で持った斧を振り上げてから振り下ろし…薪にガッ!と斧が刺さる。



「もう一回」


「えいっ!」


「あと一回」


「えーい!」



俺の指示に妹は刺さった薪ごと振り上げて振り下ろすとガッ…!と薪の半分近くまで刃が食い込むので、もう一度同じ事をやらせると今度こそ薪が真っ二つになった。



「…お兄様は簡単にやってましたけど…実際にやると難しい…」


「僕もやっていい?」


「ああ。はい」



妹が斧を置きながら呟くと弟がその斧を持って確認するので俺は目の前に薪を置く。



「えいっ!」


「お」


「…えいっ!」



弟は斧の一振りで薪の半分近くまで刃を食い込ませ、次の二振り目で真っ二つにする。



「…やっぱり兄さんみたいには上手くいかないな…」


「まあ薪割りはコツがいるからな。コツさえ掴めばどんなヤツでも一発で割れるようになるよ」



弟が落ち込んだように呟くので俺はフォローするように返した。



「コツ?」


「例えばこの薪。力を加えれば簡単に割れる弱点のような場所がある」



コレはココだ。と、俺は妹に説明するように薪を見せてとある一点を指を示し、その部分に貫手のように人差し指を刺して薪を縦真っ二つに割って見せる。



「「凄い!!」」


「流石にこれは普通の人には無理だから…この線に刃先を当てると簡単に割れるよ」



驚きながら喜ぶように褒める二人に俺は薪に黒いマジックで線を引いて説明しながら地面に立てた。



「じゃあやってみる!」



弟は手斧を拾うと俺が引いた線めがけて斧を振り下ろし…



「「あ!」」



見事なコントロールで線を引いた所に斧が当たって薪が一撃で真っ二つになる。



「次私!次私!」


「えーっと…コレはココだな。あとリーゼは腕力が足りないから構え方と振り下ろし方を変えようか」



妹が興奮したように斧を手に取るので俺は薪にマジックで線を引き、妹の後ろに移動して手取り足取り基礎を教えることにした。



「…こんな感じで全身の力を使えばリーゼの力でも割れると思う」


「…せーの!!」



斧を振り下ろす動作を教えた後に俺がそう言って離れると妹はかけ声を上げて振り上げた斧を振り下ろす。



「できた!見た?見た!?私にもできた!」



…これまた見事なコントロールで黒い線ドンピシャに斧の刃先が当たると薪は真っ二つに割れ、妹が嬉しそうに喜びながらはしゃぐ。



「おっとヤバイ。そろそろ飯を作らないと」


「あ。あと50分しかない」



時計を見ると薪割りだけで20分ちかくかかってたらしく、俺は急いで焚き火を点けてキャンプ飯を作る事に。



「…よし」



…俺は鍋で肉を焼いた後に昨日あらかじめ仕込んで用意してた材料をぶち込んで水を入れ、ルーを溶かし…わずか10分でカレーが完成。



「…はい、リーゼの分」


「ありがとうございます」


「コレがエーデルの分」


「ありがと」



タッパーに入れてた白米を紙皿へと移して上からカレーをかけて妹と弟に渡す。



「…うーん…肉が美味しい…」


「コレって昨日食べなかったグリーズベアーの?」


「そうそう。熊肉カレーだな」


「お兄様は料理も上手なのが卑怯です!」


「…いや、コレは材料の問題で俺の技術が高いワケじゃ…」


「おかわり!」



弟の問いに答えながら食べると妹が嫉妬するような感じで怒るので俺が否定しながら返すと空になった紙皿を差し出された。



「はいはい」


「リーゼ、あまりたくさん食べると午後の授業中に眠くなるよ」


「だって学食より美味しいんですもの」



俺がおかわりを入れると弟が注意するように言うも妹は二杯目のカレーを食べながら反抗的に返す。



「まあ…材料の質が違うから…どんなに雑な作り方でも全然違うでしょ。あ!もちろん良い意味でだよ!」


「…バーベキューとか網焼きとか串焼きとか大雑把で雑な方が美味い事もあるからな。『漢飯』ってやつだ」



弟は俺を馬鹿にするように言うもすぐに否定的にフォローするので俺は特に追及せずに流した。



「…ふう、ご馳走さま。じゃあそろそろ戻ろうか」


「はい。お兄様、ご馳走さまでした」


「はいよ」



…昼食を食べ終わると弟が妹を連れて戻って行くので俺も片付けと火の始末をしてから教室へと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る