学生期 5
…その翌朝。
「おはよう」
「おはよう。一人だけ別の部屋だ、って聞いたけど…どうだった?」
まだ始業の一時間前だというのに教室の中には既に何人か来ていて、俺が挨拶しながら入ると隣の席の男子生徒が話しかけてくる。
「広い部屋で、しかも一人部屋だーって喜んでたら実は相部屋だった」
「なんだって!?そりゃ大変だったな…」
「まあしょうがないんだけど」
俺の話を聞いて男子生徒が驚きながら同情するように言うので流すように返す。
「相部屋なら事前に言って欲しいよなー」
「全くだ。…じゃ俺は午前中の授業はサボるつもりだから、場所を聞かれたら『裏山で寝てる』って伝言お願い」
「二日目にしてそっこーでサボるのかよ!」
雑談のように話を続けてくる男子生徒に俺が席を立ちながらお願いするとツッコむように返してくるが、俺は手を上げて返して外へと向かう。
「…どこがいいかなー…」
俺は校舎から離れ、森の中を歩いて呟きながらどこか良い修行場所がないかを探す。
「…ここらでいっか」
30分ほど森の中を歩き回ると背の高い木に囲まれた空間を発見したので、周りを見渡しながらココを修行場所に決める。
「……寮から直線距離で10分ぐらいか」
俺は木に登って校舎や寮などの建物を見下ろしながら距離と時間を予想して木から降りた。
「…よし!始めよう!」
周りの木を見ながら適当に一本の木に近づいて気合いを入れるように声を上げながら鍛錬を開始する事に。
「…ていっ!ていっ!ていっ!…よしっ!」
木を伐採するように蹴りと手刀で受け口を削り、その反対側を蹴りながら削っていくと木がメキメキ…!と音を立てながら倒れる。
そして倒木から邪魔な枝を手刀や蹴りで切り落としていく。
「…こんなもんか」
全ての枝を落とし終える頃にはちょうど昼前になっていたので…
俺は不要な枝を燃やして焚き火にし、キャンプ飯を作る事にした。
「…兄さん。こんな所で一体何を?」
「お、エーデル。よくココが分かったな」
俺が焚き火で肉を焼いてると弟が呆れた様子でやって来るので俺は意外に思いながら尋ねる。
「昼食を一緒に食べようとクラスの人に聞いたら朝から居ないって…『裏山にいる』って言われて見たら煙が上がってたから直ぐに分かったよ」
「担任に心配をかけまいと場所を教えたんだが…まあ他にも役に立って良かったよ。食うか?」
「うん」
弟の話を聞いて俺は納得しながら焼き終わった肉を乗せた紙皿とフォークを渡す。
「あっ、美味しい…もしかしてコレ『ブルボア』の肉?」
「お。よく分かったな。流石に日頃から高級料理を食べてるだけあって良い舌してる」
「…でもコレ…この肉、多分ココの食堂でも食べられないと思う。多分値段も一、二を争うんじゃ…」
弟は一口食べただけで何の肉かを当てるので俺が嬉しくなって褒めると、二口目はちょっと遠慮するかのように呟く。
「猪より熊の方が良いか?それとも鹿?馬もあるぞ」
「『グリーズベアー』『アラジカ』『カースホース』…兄さんなんでそんな危険度の高い魔物の最高級の肉をいっぱい持ってるのさ。いや、このブルボアの肉だけで十分だけど」
「そうか?」
もしかして口に合わなかったかな?と思いながら他の魔物の肉を取り出して見せたら、弟が驚きながらも呆れたように言って食べ始めるので俺は他の肉を片付けた。
「そんな事より…こんな場所で昼寝してたの?」
「まさか。ソレは適当に考えた嘘だし」
「じゃあ…もしかして、この木は兄さんが?」
飯を食べながら周りを見て聞いてきた弟に否定して返すと倒木を見ながら確認してくる。
「よく分かったな」
「こんな大きな木を切り倒すなんて…まさか…!いくらなんでも素手じゃないよね?流石に斧とかで、でしょ?」
「…ん。斧で」
弟の驚きながらの確認に、俺は空気を読んで嘘をついて肯定した。
「…兄さん…なんでそんな直ぐバレるような嘘を…」
「え。いや…そう答えて欲しいのかな、って」
が、速攻で嘘がバレて呆れられてしまったので俺は言い訳のように嘘をついた理由を話す。
「でも信じられないな…こんな大きな木を道具も使わずに素手で倒すなんて…」
「人間の五体を鍛える…部位鍛錬を極めると手足が刃物にも鈍器にもなるんだ。それを足すと今回のように斧のような手刀や蹴りを使えるようになる」
俺はまだ『極み』にまでは到達してないけども。と、弟に説明しながら謙遜するようにまだまだ修行中の身である事を伝える。
「まだ上があるって事か…でも兄さんはなんでその『部位鍛錬』ってやつを始めたの?どんなキッカケで?」
「…『剣』を極めると『拳』になる。『刀』を極めると『無刀』に至る…っていう先人達のありがたい至言があってな。『武器が無くなった時、最後に残る武器は己が肉体。最終的に究極の武器は最も信頼出来る自分の五体のみ』ってのを聞いたから」
弟の疑問に『前世の記憶に残ってた漫画やアニメに触発、影響されたから…』とは口が裂けても言えないので、俺は適当な理由をでっち上げてそれっぽく話してごまかそうとした。
「…確かに。魔法を使える僕らとは違って兄さんは適性が無いから…」
「いや、別に適性が無くても使えるぞ。魔力の消費効率が悪くて詠唱が長引くのに威力が8割しか出ないって欠点はあるけど」
弟が哀れむような目を向けながら誤解するかのように言うので俺は否定するように反論する。
「じゃあ兄さんも変化魔法なんて選ばずに属性魔法を選べば良かったのに」
「適性の無い魔法を頑張って使うよりも適性に関係の無い魔法を使う方が楽だし」
「それはそうだけど…あ、そろそろ行かなきゃ」
「もうそんな時間か」
弟の呆れたような助言に俺が適当な感じで言うと呆れたまま呟き、腕時計を見て立ち上がった。
「じゃあ僕は行くから」
「頑張って来いよ~。…俺も行くか」
俺は弟を見送って焚き火に砂をかけて消火し、午後の授業に出るために教室へと向かう。
「…あれ?午後の授業は出るのか?」
「まあ、流石に丸一日サボるの良くない。午前中眠い」
「なんで片言?」
午後の授業が始まる前に教室に戻り、自分の席に座ると隣の男子生徒が話しかけてきたので、俺が適当な理由を話すと笑いながら返してくる。
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