学生期 4

「…おおー…中々の値段だな…」



寮の食堂へと行くとまるでレストランのような内装になっていて、メニュー表を見ると一番安い物でさえ昼に食べたのとは値段が倍以上も違う。



「そう?こんなもんじゃない?」


「そういえばお兄様は一般クラスでしたっけ?やはり違うものですか?」


「まあ一般庶民からすれば安くて量が多ければあんまり味にはこだわらないからな…流石に不味いのは無理だし美味いに越した事はないが大抵『食えれば良い』って感じだ」



弟が不思議そうに言うと妹が興味を持ったように聞いてくるので俺は一般の食事情を説明する。



「それでは食事は楽しめないのでは?」


「うーん…多分俺とリーゼとでは男女の性別による考えの差もあるかもしれない…やっぱ『腹一杯になればいい』ってのが男らしい考えだし。な?エーデル」


「そうなのですか?兄様」



妹の疑問に俺が弟を巻き込みながら自論を話すと妹も不思議そうに弟に確認した。



「まあ…考えは理解できるけど、いざ実際に実行できるかと言われると…」


「別に無理に実行する必要は無いだろ。リーゼの言う通り食事を楽しむのが人生を楽しく生きる上で必要になる事だからな」


「流石お兄様。理解してくださるのですね」



困ったように呟く弟に俺がそう返すと妹が嬉しそうに褒めるような事を言う。



「と、いうわけで俺はパンとジャムを」


「…お兄様…そんな安上がりな…」



話の流れで夕飯を決めると流石に一番値段が安い物を選んだからかリーゼはガッカリしたように呟く。



「おや?エーデル君じゃないか。こんな所で夕飯かい?」


「はい。今日からこの寮に住む事になりましたので、これからよろしくお願いします」


「そうか!高等部に上がった時の事を見据えて…かな?…ん?彼はもしや…」



俺らが夕飯を食べてると通りすがりの生徒に声をかけられ、弟が対応してると俺を見て不思議そうに聞いた。



「兄です」


「兄!ではやはり彼が噂の…しかし一般クラスごときがこんな所に食事に来れるなんて素晴らしいメンタルの持ち主だ。いやはや、是非とも見習いたいものだね」



弟の紹介に生徒は俺を盛大に馬鹿にしながら皮肉と嫌味を言い出す。



「初めまして、ゼルハイト家の長男君。僕は『スリズ・タンダリン』だ」


「…はあ…初めまして?」


「一般クラスごときが僕と顔見知りになれた事…弟のエーデル君に感謝することだね」



ははは。と、男子生徒は嫌味と皮肉たっぷりで言いたい事だけ言って笑いながら去って行く。



「…なんだったんだ?アイツ」


「タンダリン侯爵家の跡取りだよ。ああ見えて小さい頃から領地の経営に携わって結果を出してるほどの天才なんだ」


「へー…人は見かけによらないものだ」



俺の問いに弟が説明してくれるので俺は意外に思いながら返す。



…そしてまた誰かに絡まれる前に…と、弟と妹は気持ち急いで食べて自室へと戻った。



「兄さん、もうすぐ学校生活の初日が終わるけど…初めての授業はどうだった?」


「もの凄く退屈だった。午前中なんかは特に」



リビングでソファに座ってリラックスしてると弟が尋ねてくるので俺はありのままの感想を言う。



「午前中はなんの授業でしたの?」


「『魔物学』と『魔法学』。俺がリーゼの歳ぐらいに家庭教師達から教わった事をこの歳になって基本も基本…一から学び直すなんて時間の無駄が過ぎる」


「…意外。お兄様もちゃんと勉学に励んでいたのですね。いつも『鍛錬』とか『修行』とか勉学に一切関係の無い話しかしませんでしたのに」



妹の問いに俺が呆れながら答えると驚きながら返される。



「ははは。そういえばエーデルやリーゼには部位鍛錬や柔術の話しかしてなかったな」


「変化魔法の話も聞いたよ。『ゴブリンの爪だと物を持つのに便利で器用だ』とか『グリーズベアーの爪は強いけど物は掴めない』だとか」



俺が笑いながら返すと弟は他に聞いた話を思い出すように告げた。



「そっか。そういえば世間話以外にも結構話してたか」


「…そう考えるとお兄様もダンジョンで活動なさってるのですから、同年代の人達と比べて魔法や魔物に知識があるのも納得できる気がします」


「確か兄さんはリーゼと同じ歳の頃には既にダンジョンに行ってたんだったよね?その時はどうだったの?」



妹の納得したような発言に弟は思い出したかのように好奇心を出しながら当時の事を聞いてくる。



「…どうもこうも修行の一環だったから『やるぞ!』って意気込みで入ってったよ。あの時はすっげー痛い思いもしたし、なんだかんだ怖い思いもしたなぁ…」



俺は初めてダンジョンに挑んだ時の事を思い出しながら懐かしむようにスライムに腕を突っ込んだ時と、グリーズベアーに貫手がまるで通じなくて諦めかけた時の事を話す。



「…そうなんだ…やっぱりダンジョンって危険なんだね」


「回復魔法を使える人がいるかどうかで難易度が大きく変わると思う。俺の場合は先生がいたからどんな無茶でも出来たわけだし」



弟の再認識したような言葉に俺は実体験を基にした経験談を教えて回復魔法の重要性を説く。



「…こう言ったらお兄様に失礼だと思いますが…今のお兄様はまるで教師のように見えます」


「ははっ、そうだね。兄さんの話は実体験や経験談からくる生きた情報だからとてもためになるよ」



妹が少し考えてそう言うと弟も笑いながら賛同した。

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