青年期 207

…翌朝。



日が昇る少し前から兵士達に陣営の撤去作業を開始させ、敵に気付かれる前に急いで撤退する事に。



「…うーん…これは…」



兵士達はみんな急いで作業してくれているように思うが…



連日の戦いによる疲労や怪我の影響からか、予想外に時間がかかりそうで下手したら敵軍が来るまでに間に合わないかもしれない。



「…しょうがない。ちょっと俺、敵軍の足留めしてくる」


「…大丈夫かい?」


「大丈夫大丈夫、危なくなったら逃げて撹乱すれば良いし。じゃあ後はよろしく」



敵軍が動き出す前に分身の俺が判断して告げると分身の女性が心配したように確認し、分身の俺は楽観的に返して馬を一頭貰って戦場へと向かう。



「…お」



昨日両軍がぶつかっていた場所よりも更に先に行った所で敵の軍勢が出撃準備を整えているのが確認出来たので…



分身の俺はそのまま馬を走らせて敵の下へと向かう。



するとある程度近づいた所で偵察だか哨兵だかに気づかれたらしく敵軍の動きが少し慌ただしくなったように感じた。



「誰だ!ニャルガッズの兵か!何用だ!」



分身の俺が更に近づくと敵軍は完全に戦闘態勢を整えており、兵の一人が大声で警戒するように素性と用件を尋ねてくる。



「いやー、みんなご苦労さん。俺はニャルガッズの兵じゃないよ?ニャルガッズ側だけど」


「なに?」


「なんだと…?」


「何用で来た?」



分身の俺は手を上げて挨拶するように敵兵達を労って素性を軽く話すと、軍勢の最前列の弓兵達が怪訝そうな顔をして一番前にいる指揮官みたいな人が警戒した様子で再度用件を問う。



「ちょっと強い人と戦ってみたくてね。一騎打ちをするために来た」


「一騎打ちだと…?頭は確かか?」



分身の俺が軽い感じで一騎打ちの申し入れをすると指揮官の男は分身の俺の正気を疑うような馬鹿にする感じで聞き返す。



「んで俺が勝ったら今日のところはみんな出撃せずに休養してくれ。俺が負けたら今日はもう邪魔しないから今撤退作業をしている兵達を襲いに行けば良いよ」


「撤退作業中だと…!?それは確かか!」


「そうそう。だから俺は足止めをしたいんだ」


「馬鹿が!簡単に敵に作戦を漏らしおって…無能が味方にいるとはニャルガッズも哀れなものよ」



分身の俺の勝敗時の約束を聞いて男は驚くように確認するので、肯定して目的を話したら男が拒否るように今戦争中のニャルガッズに同情するような事を言う。



「…一応分かってると思うけど…今のこの距離ならあんたを簡単に捕らえられるから下手な事は言わない方が良いよ」


「下手な脅しだ。そんなものは言う前に行動に移すのだ、この未熟者の青二歳が」



分身の俺が確認するように脅すと男は突っぱねるように煽り返して軍勢の中に戻って紛れようとした。



「へぇ?面白い。俺に喧嘩を売るか」


「出撃前にこの愚か者の首を取る。みな!準備はいいか!」


「「「「おおー!!」」」」



あえて見逃しながら分身の俺が余裕の態度を見せて笑うと男は軍勢の真ん中ほどで号令をかけ、兵達が呼応して声を上げる。



「んじゃ…やーやー!我こそはラスタの元傭兵団で現私兵団である猟兵隊を率いる団長なり!一騎打ちを拒否すると言うのならばこちらもそれなりの対応を取らせてもらう!返事はいかに!」


「ラスタ…!」

「ラスタだと…!?」

「りょ、猟兵隊って…!まさか…!」

「もしかしてあの猟兵隊か…!?」



敵軍が動く前に分身の俺がいつものように名乗りを上げてから再度一騎打ちを申し入れて脅すと、兵達は動揺したようにざわつき始めた。



「狼狽えるな!敵の言葉を信じて騙される馬鹿がどこにいる!」


「嘘だ!奴は嘘をついている!」


「ラスタの者がこんな所の最前線にいるわけがない!」


「ラスタが援軍を派遣したという情報はまだ無い!奴の嘘を信じるな!」



男を始めとした現場指揮官達がなんとか兵達を鎮めようとするが…



「どう考えても噂通りじゃないか…!」


「単騎でこんな所に来れる奴が嘘なわけ…!」


「噂通り名乗りを上げているんだぞ!」



どうやらソレが逆効果になって兵達が反発するように悪化して混乱状態に陥り始める。



「ははは。最初に一騎打ちを受けておけば良かったものを…聞け!今退却するのなら見逃してやる!我らの突撃の威力…噂通りかどうか身をもって確かめてみるか!」


「あの猟兵隊も来てるのか…!」


「団長がいると言う事は近くに…!」


「こんな場所じゃ逃げ場も無い!」


「こんな固まってると良い的じゃ…!逃げないと!」


「あっ…!待て!貴様ら!勝手に動くな!持ち場から離れるんじゃ…!」



分身の俺が笑って兵達に脅しをかけると今度はパニックになったように右往左往して逃げ出すように兵達がその場から離れていく。



「ふふふ…意外と効果あるもんだなぁ…」


「ちぃ!聞け!兵共よ!聞けぇ!これより一騎打ちを受けて奴を倒す!頭が居なくなればいかに猟兵隊といえど退却せざるを得ん!」



そんな敵兵達の様子を見て得意げに笑って呟くと指揮官の男が逃げようとしている兵達を引き留めるべく、さっきの一騎打ちの申し出を受ける事を宣言した。



「おっとぉ?じゃあ条件を変えるよ。こっちが有利になったからね」


「なんとでも抜かせ!貴様を倒せばそれで終わりだ!」


「おっと。マジか」



分身の俺が交渉を仕掛けるも男は馬に乗っていきなり一騎打ちを仕掛けて来た。

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