壮年期 20
「…しかしギロチン刑はともかくとして、よくもまあ絞首刑に耐えられたものだ」
「実は首に油を塗ってました。実際は油よりももっとヌルヌルと滑る液体ですが」
「…なるほど!だから縄が締まる前に滑り落ちたのか…!」
おっさんは自室のソファに座って意外そうに疑問を聞くので俺が適当な嘘を話すと驚きながら納得する。
「正直火刑になると危なかったです。が…まあ直ぐに準備出来るようなものでは無いので、そうなったらなったで保険として用意していた別の仕込みを使えば良いだけでしたけど」
「…もし教会騎士による斬首刑だった場合はどうしていた?」
「ギロチンと一緒で首の裏側に薄い鉄板を仕込むだけです。斧が刃こぼれすれば何回振ろうとも首は切れないので失敗扱いになるでしょうし」
「ははは!流石だな。処刑を耐えたのは『神の加護』などではなく『人の知恵』か」
俺がちょっとした弱音を吐くように嘘を吐くとおっさんは仮定した上での確認をしてくるので…
俺はあたかも実際にやってたかのような感じで嘘を重ねて返したらおっさんが笑って俺を褒めた。
「自分は神なんて信仰してませんので。本当に神の加護があるのなら何かしらの才能や魔法の適性が欲しいものですよ」
「ははは!考えの違いだな。神は試練を与え、それを乗り越えた者を成長させるという。それに…ゼルハイト卿には料理の才能があるではないか」
俺が問題発言をした後に呆れたような感じで理由を告げるとおっさんは笑って自分の考えを話し、反論するように指摘する。
「…自分に料理の才能があるというのであれば、自分よりも遥かに要領の良い弟や妹は間違いなく天才だと言い切れると思います」
「なるほど。ゼルハイト卿のソレらは才能ではなく積み重ねた努力の結果という事か」
俺の微妙な感じでの笑いながらの自虐におっさんは少し気まずそうに訂正した。
「未だに自分のオリジナルの料理や技法なんて生み出せていませんから。他人の技術を真似して少しアレンジして作ってるだけで、味の方も材料が最高級なだけ…流石にコレを才能というには少し違う気が」
「…確かにそうだ」
更に笑いながら自虐的に言うとおっさんがなんともいえないような顔で賛同する。
「ただまあ…そんな自分でも人より特別な部分がある事については自覚していますので、ソレを『神の加護』と言えなくもないですが…なにしろ自分は現実主義者でして。正直に言うと神なんて居ても居なくてもどうでもいいんです」
「ふ、ははは!面白い考えだな。神に興味が無いとは…そのような人間が生まれてくるのもまた宗教の歪みゆえか…神の教えを悪用した奴らの責任は重いものだな」
少し暗くなった雰囲気を変えようと自分の考えをおどけながら話すとおっさんはまたしても声を上げて笑い、好意的に受け入れてくれたかと思えば飲み物を一口飲んだ後にやらかした聖職者達を責めるように呟いた。
…翌日。
朝早くから城に呼び出され『アーデン』という同盟国に救援に行って欲しいという要請をされる。
なんでもガリー子爵とやらが一月半ほど前に救援に行ってると聞いたが…
あまり役に立ってないのか戦況が思わしくない らしく、今度は神の加護を受けてるであろう俺に白羽の矢が立ったとの事。
当然適当な理由を作って断ったけども提示された見返りが中々良かった上にヴェリュー領の隣の領地もくれるらしいので、仕方なく了承した。
ーーー
「朝、城に呼び出されてたみたいだけど…用件はなんだったんだい?」
昼飯の時間になって嫁の一人である女性が自室に来ると世間話のように疑問を尋ねてくる。
「ああ、なんか同盟国の救援に行けって」
「またですか?」「またかい?」
俺が飯の準備をしながら教えるとお姉さんと女性の軽く驚いたような返答が被りかけた。
「本当はもっと早く要請したかったらしいけど教会が俺を異端者認定したせいで出来なかったんだと」
「…なるほど。政府による調査や結果報告が迅速に行われたのは坊ちゃんを直ぐにでも同盟国に援軍として派遣したかったから、だったんですね」
「ああ。なるほど」
この国の軍事総司令であるトゥール侯爵から聞いた事を話すとお姉さんが納得したように疑問が解消された事を言い、女性も理解したような反応をする。
「本来なら一つ一つ精査しないといけないだろうから数ヶ月から半年ぐらいの期間がかかるハズだったのに、めちゃくちゃ早く終わってたからなぁ」
「まあ政府も処刑については反対の立場を表明してましたし…結局何も出来ませんでしたけど」
「相手が教会なら仕方ないさ。信徒を扇動して反乱を起こす可能性だってあるんだ」
俺の思い出しながらの発言にお姉さんが政府の対応について嫌味を言うが女性は庇うように一定の理解を示す。
「…オッケー。持ってっていいよ」
「分かりました。ありがとうございます」
俺が料理を入れたタッパーのような容器を4つ、テーブルの上に置くとお姉さんは空間魔法の施されたポーチにしまいながらお礼を言う。
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