壮年期 21

その一週間後。



俺の助命嘆願書が受け入れられて捕まった元聖職者の奴らは死刑が撤回されて終身刑へと減刑され…



反教会の人達が少し騒いだものの政府側が減刑に至った理由を公表すると直ぐに収まり、ようやく国内が落ち着きを取り戻した。



なので俺はトラトラットの南西側にある国を一つ跨いだ先にある『アーデン』へと分身を行かせる事に。





ーーーーー





「…結構遠いな…軍を動かしたら早くても一月はかかりそうだ」


「ラスタから国二つ移動してますから。猟兵隊のように全騎兵でもない限りはもっと時間かかると思います」


「それに関所や国境での足止めもあるからね。まあ空からの移動では関係無い事だけど」



アーデンの首都の近くに降りた分身の俺が移動距離や時間について呟くと分身のお姉さんは仮定の予想を話し、分身の女性は肯定するように返して微妙な顔をする。



「…あ。コレ」



分身の俺はアーデンの首都に向かい、出入りする人をチェックしてる守兵に何か言われる前に先に証明書の入った封筒を見せた。



「…ラスタから来られた方達ですか…どうぞ」


「ご苦労さん」


「ご苦労様」


「ご苦労様です」



兵が封筒の印とかを確認した後に他の兵に回して確認させ、封筒を返却して通行を許可するので分身の俺らは労いの言葉をかけて首都へと入る。



「さて…とりあえず城か王宮に行かないと」


「そういえば先に現場を見に行かなくても良かったのかい?」


「あ。忘れてた…昨日から観光する事しか考えてなかったから」


「ええ…」


「まあ坊ちゃんは突撃を繰り返して一騎討ちに持ち込めば勝てますし…」



分身の俺は首都の中心部にある王城っぽい城に向かう事を呟くと分身の女性が不思議そうに尋ね、うっかりしていた事を告げると分身の女性は微妙な顔で呟いて分身のお姉さんがフォローするように返す。



「まあ戦場の状況の把握は明日でも問題無いし…さっさと報告を済ませて今日はこの首都を観光しよう」


「そうですね」


「そうだね」



分身の俺が切り替えるように言うと分身の二人も賛同するので、そのまま城へと向かって歩く。



「…しかし市場といい大通りといい、国の首都ともなれば活気に溢れてて景気も良さそうだ」


「国の中心ですから。首都や王都でさえも静まり返っていたらその国は重大な危機に直面してる…っていう可能性が高いでしょうし」


「…確かに。あたしが昔に旅していた頃はどこの国も首都は賑やかなもんだったからなぁ…首都でさえ静まり返ってるところなんてまだ一度も見た事無いよ」



城に向かってる最中に周りを見渡しながら感想を言うと分身のお姉さんは笑って世間話的な感じで揚げ足を取るかのように予想を告げ、分身の女性が納得して自身の体験談を話す。



「…ん?何用だ?」


「コレ」


「…ラスタの方々ですか?何用でしょうか?」



…城に行くと城門の外を巡回していた兵が分身の俺らに気付いて近づいてくるので封筒を見せると受け取った後に確認し、態度を変えて尋ねてきた。



「救援として追加で派遣されて来たんだけど…誰に会えば良い?」


「救援…少々お待ちください。確認して参ります」


「お願い」



分身の俺が用件を言った後に確認すると兵は封筒を返却して城門の前に立っている兵達と話して城の中へと入って行く。



…そして城門の前で待つ事、約10分後。



「お待たせいたしました。部屋へと案内いたします」


「よろしく」



さっきの兵が走って戻って来ると入城の許可が降りたらしく、分身の俺らは兵の後について行って城の中へと入る。



「…こちらの部屋です。失礼します、客人をお連れしました」



兵に案内されるがままついて行くと、とある部屋の前で止まり…兵はドアをノックして報告した。



「入れ」



部屋の中から声が聞こえ、入室許可が出ると兵はドアを開けて分身の俺らを中に入れてくれ…



「…では、これより持ち場に戻ります」


「ご苦労」



役割を終えたのか敬礼してそう告げると部屋の中に居た長髪の男が労いの言葉をかける。



「…女連れか。しかも二人とは…随分と良い身分のようだな。誰の使いだ?」



兵が去ると男は分身の俺らを見て初っ端から嫌味をかまし、勘違いしながら確認してきた。



「クライン辺境伯」


「ほう…?まさかあの噂に名高い辺境伯をよこしてくれるとは…ありがたい限りだな」



分身の自己紹介のような返事に男は意外そうに驚いたような反応を見せながら満足気に呟く。



「それで?クライン辺境伯は今どこに滞在しているのだ?早急に歓迎の意を示さねば…」


「俺」


「…は?」


「今目の前にいる俺がラスタの貴族、クライン辺境伯を名乗ってる」


「なっ…!?」



男の問いに分身の俺が答えるも男は理解出来ないような反応になり、再度自己紹介をすると男が驚愕する。



「こ、これは大変な失礼を…!兵からはラスタからの使いが来た、としか聞いておらず、まさか噂でよく耳にするあの辺境伯がこのような平民…いえ、庶民的な装いとは想定外で予想もつかず…!大変失礼な言動を…!」


「とりあえずコレ」



男は立ち上がって謝罪した後に言い訳してくるが分身の俺はシカトして封筒をテーブルの上に置く。

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