青年期 78

それから二日後。



空気中の魔素の濃度が上がるという気象現象『降魔』の時期が俺らの滞在してる町にも到来する。



「んじゃ、何かあったら頼むぞ」


「おう」


「頑張ってね~」


「うん。出来る事があるかどうか分からないけど…」



俺がダンジョンに移動する前に分身の俺に有事の際の対応について任せると、お姉さんが分身の自分を応援するように手を振り…



分身のお姉さんは困ったように笑いながら不安そうに返す。



「さて…」



出かける事を他の団員達にバレないように俺と分身のお姉さんは仮面を付けてフードを目深に被って急ぎ足で町から出た。



「…行くよ」


「はい」



そして俺は変化魔法でダチョウに変身し、並行変化させたスレイプニルの脚力で速度を上げて目当てのダンジョンへと急ぐ。



「ギシャー!」

「カアァ!」

「ヒャー!」



…ダンジョンの周りには中から出て来たゴブリンやコボルトなどの魔物が大量にいたが、今は見慣れた雑魚になど用は無いので無視してダンジョンの中へと入る。



「…さーて、珍しい魔物はいるかなー?」


「どうでしょう?」



降魔の時期のダンジョン内での最優先目標は『初見の魔物を探す事』なので、最初は魔物とは極力戦わずにダンジョンを下層まで進んで行く。






ーーーーーー






「…はぁ…金ピカのゴーレムしか居なかった…」


「純金のゴーレムって上位種ですよ?十分珍しいと思いますけど…」



…急いで最下層まで進んだ結果、最下層に上位種の魔物がいた…程度だったので俺がガッカリしながら呟くと分身のお姉さんは困ったように笑う。



「まあそうだけど…」


「それに魔石なんてまるっきり金の延べ棒みたいだったじゃないですか。紫と金色の混ざった光り方なんて初めて見ました」



俺の微妙な顔での呟きに分身のお姉さんは励ますような言い方で感想を告げた。



「うーん…俺はあんまり魔石に興味が無いからなぁ…それより魔法威力軽減の特性の方がありがたかったかな?」


「金色ゴーレムは下位種の普通のゴーレムとは逆に物理に弱いみたいですからね」


「しかも金だから火の属性魔法にも弱いけど…そこはしょうがないか」



俺が分身のお姉さんとは別の収穫あり的な事を言うと分身のお姉さんは魔物の情報を話し、俺はその欠点に目を瞑るように呟く。



「ミスリルのゴーレムなら魔法を無効化する特性を持ってるらしいですよ」


「…ミスリルか…明日行く予定の上級者向けのダンジョンにいるといいんだけど…」


「そうですね」



分身のお姉さんの情報に俺は明日の事を思い浮かべながら呟いていつも通りの修行をしながらダンジョンを戻る事に。




…その翌日。




俺は昨日より予定通り分身のお姉さんと上級者向けのダンジョンへと向かった。



「…ココにミスリルのゴーレムがいてくれたら良いんだけどなぁ…」


「…どうでしょう?ミスリルのゴーレムって希少みたいですから…」



とりあえず町から一番近いダンジョンに入りながら俺が呟くと分身のお姉さんは困ったように笑いながら難しそうな感じで返す。



「…おっ!」


「あれは…」



…上級者向けのダンジョンを急いで降りていると第五階層でオーガがコボルトを捕食するという珍しい光景に遭遇。



魔物同士の『共食い』は降魔の時期でも中々お目にかかれない激レアな現象なので、俺と分身のお姉さんはその場に留まってオーガの行動を見守る。



「グフッグフッ」


「おおっ!」


「あの光は…!」



周辺のコボルトを5体ほど食い荒らしたオーガの身体が光り…



身体が一回り大きく、角や腕も太くなって肌の色も赤から赤黒く変化して上位種に進化した。



「魔物の進化なんて久しぶりに見た…」


「『オーグル』になってますね。『ハイオーガ』とも言われてますが」


「…このまま放って置けばグランドまでいくかな…?…あ」



俺の呟きに分身のお姉さんは魔物の名前を告げてきて、俺が最上種まで進化させようかと悩んでいると魔物がコッチに気づく。



「ガアアア!!」


「…しょうがない。逃げながら待つのも面倒だし、倒すか」


「ああ…もったいない…」



魔物が大声で吠えながらコッチに近づいてくるので俺がため息を吐いて決断すると分身のお姉さんは未練がましく呟いた。



「もしかしたら下層にもいるかもしれないよ?」


「…そうですね…」



俺のフォローに分身のお姉さんは諦めるように呟いて返す。



「ガファ!」


「おっと」


「グ…!グ…!」



魔物が力士のぶちかましのように角を突き刺そうとするタックルをかましてくるので俺は角を両手で掴んで止める。



「…この体勢だとブレーンバスターとかプロレス技を仕掛けたくなるが…っと。…えい」


「グ、ガッ…!」



俺はボソッと呟いてジャンプし、魔物の角に振り上げられるように背後に回って背中から心臓抜きをして魔物を倒した。



「さーて、次行こうか」


「はい」



…降魔の時期のおかげで普段よりも大きくて質の高い魔石を分身のお姉さんに渡し、俺はダンジョンの最下層に向かって進む。

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