青年期 112

「…えーと……あ、無理だ。よく分からん」


「『契約紋』を起点に『召喚術』を発動して現れた『魔法陣』へと魔力を注入し、『精霊』を『現世』に『顕現』させる…でしたっけ?」


「そうそう。契約紋がどこにあるのかは見えないけど場所は覚えてる…けど、この『召喚術』ってどうやるんだ?」



俺は本を読みながら実践しようとするも直ぐに諦め、内容を暗唱して確認してくるお姉さんに肯定して不思議に思いながら首を傾げた。



「さあ…?とりあえず契約紋があるのならソレに関連した記述とかを追ってみれば何か分かるのでは?」


「おおー、流石先生。契約紋、契約紋…」



お姉さんもよく分かってないような感じで呟き、アドバイスをくれたので俺は感心しながら褒めて返して早速本の記述を探す。



「…『精霊と契約した際に証として付けられる』か…」


「坊ちゃんはどこに契約紋があるんですか?」



俺が契約紋についての説明が書かれた記述を読み上げながら役に立たたねー…と思っていると、お姉さんが興味を持ったように聞いてくる。



「確か腹と胸と顔と…全身?」


「…契約紋って一つのはずですよね?もしかして複数の精霊と契約した、とかですか?」


「そうそう、7体…8体か。8体の精霊と契約してる」


「はっ…!?…流石は坊ちゃん…規格外ですね…」



俺の思い出しながらの返答にお姉さんが考えるように確認し、俺が肯定して数を教えたらお姉さんは驚いた後に呆れたように呟いた。



「まあほら、契約出来る時に契約してた方が後から敵に回さずに済むじゃん?例えこのままずっと精霊術や精霊達を使えなかったとしても、ソレだけで十分魔石を対価にした価値はあるよ」


「…なるほど… 逆転の発想ですね。確かに…」



後から何か言われる前に先手を取って俺が言い訳するように理由を話すとお姉さんは少し考えて納得して理解を示してくれる。



「でも契約期間を延長したいのに呼び出せないのはなぁ…どうしたものか…」



他の『契約紋』の記述を探すも見当たらず、結局精霊関連の記述の中にはヒントも何も見つからなかった。



…俺は精霊について書かれている他の魔導書も調べたがほとんど応用しか書かれておらず、基礎的な事が一切載っていない。



「ぬおお…!数式とかの応用だけあってもしょうがねーだろーが!足し算掛け算とかの基礎をよこせ基礎を!」


「…ちょっとお茶しません?」



8冊目の古くさい魔導書を読み終えた後に俺が算数に例えて怒りながら床に本を叩きつけるとお姉さんが配慮するように休憩を提案してくる。



「…そだね。…くっそー…ハイレベルな魔導書ばっかで全然理解できん…」


「…確かに難しい内容ばかりでしたね」



俺が了承して本を拾いながら呟くとお姉さんも本の中身を思い出すように同意した。



…そんなこんな精霊を召喚する方法を探す事、一週間後。



『そろそろ準備できたかえ?』


『妾は待ちくたびれたぞ』


「お」「え!?」



昼食を食べてる最中に急に胸元の空いた水色のドレスを着た女性と和服を着崩し、胸や脚を大胆に露出している格好の妖艶な美女が現れる。



「ソッチから来てくれるとはありがたい。物自体は一週間前ぐらいにもっと早く準備出来てたんだけど…いかんせん召喚が出来なくて」


『…そのような簡単な…当たり前の事すら出来ぬくせに妾らと契約を結ぶとはな…まあいい。で?物はどこじゃ?』



俺の言い訳に美女は呆れながら見下して蔑視するように呟くと態度と表情を変えて尋ねてきた。



「その前に他の精霊達も呼んで来てくれない?この魔石あげるから」


『…ソレは欲しいが対価が大きすぎて受け取れん。忌々しい限りだが今回はこき使われてやろう。ありがたく思え』



俺がゴブリンの魔石を取り出して見せながらお願いすると美女はプライドだかポリシー的な事を言って受け取りを拒否し…



殺気に満ちた目で俺を睨みながらも一応お願いは受けてくれるらしい。



『対価が用意できたというのは本当か?』


『あれほどの物をこうも直ぐに揃えられるとはにわかには信じがたいが…』


『早く見せてー!』



精霊王を除く精霊達が魔法陣も無しに急に出て来ると鬼や小人が疑うように聞き、少女が催促する。



「今回はみんな魔法陣とか召喚陣だっけ?からは出て来ないんだ?」


『…本当に最低限の知識すらも無いとは…何のための契約紋だと思ってる?僕らは契約紋を通じて往来する事が出来る。分かった?理解した?理解出来た?』



俺の疑問に美人さんも呆れながら呟き、見下すような冷めた目を向けて半ギレ状態ながらも一応仕組みを教えてくれた。



「ありがとう。ちゃんと教えてくれて助かるわー、なんせ本とかで色々調べてもそういう知りたい事がほとんど載ってないからね」



俺はお礼を言った後に皮肉で返しつつもちゃんと感謝はしてる事を告げる。



『…そのモノを知らぬ無知さ加減でよく我々と契約しようと思ったものだ…』


『本当だよね。恥とか知らないんじゃない?』


『失礼だとか迷惑をかけるとかで普通は踏み止まりそうなものだが…』



鬼の呆れたような呟きに少年が思いっきり馬鹿にしながら賛同し、小人も見下したように同意しながら呟いた。



「…はいはい悪ぅござんしたね…コレで契約の延長したら用件は終わりでしょ。サッサとやって」



俺は諦めながら呟いてドラゴンの魔石を取り出し、暗に早く帰れという含みを持たせながら指示を出す。



『…しょうがない、ソレで此度の無礼は水に流してやろう』


『あっ!ズルい!』


『…数はあるのだから急ぐ必要もあるまいて』



美女が我先にと俺に指をさすと少女も俺に指をさし…女性はのんびりしたように俺に向かって指を差した。



すると他の精霊達も次々と俺に指をさし、腹や胸…顔の前に魔法陣が重なるように複数現れては直ぐに消え、床の上に置いた7個の魔石が一斉に粒子状になって消える。

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