青年期 87

「あたしは護衛のヘレネー。よろしくな」


「護衛?」


「気を悪くしないでくれ。君を疑っているのでなく、この場に誰かが襲撃してくるかもしれない…という万が一に備えての事だ」



後から入って来た俺と同じぐらいかもしれない結構背の高い女性が軽く手を上げて挨拶し、俺は女が…?と不思議に思いながら聞くと王様が言い訳でもするように理由を話した。



「一人ですか?」


「城の中ならあたし一人で十分だ。ほんの少し守っていれば直ぐに兵が駆けつけてくるからね」


「なるほど…」


「彼女はこの国でも屈指の強化魔法の使い手だ。実力はかなり高い」


「ははっ、陛下にお褒めいただき光栄だね」



お姉さんの確認に女性が理由を話すとお姉さんは納得して王様が評価するように話すと女性は軽口のように笑って返す。



「女性で強化魔法の使い手とは珍しい。大抵ちょろっと最低限の強化をするだけで属性魔法や回復魔法の使い手になるのに」


「あたしにはたまたま強化魔法の才能が他よりもあっただけさ。その代わり回復魔法は一切使えないけどね」



俺が意外に思いながら言うと女性は笑いながら理由を答える。



「あたしもあんたの噂は色々と聞いてるけど…悪いが実物を見ると全部嘘かデタラメだと思うよ」


「だろうね」



女性の若干失礼な発言にも俺はソレを意図しているので軽く流すように肯定しながら返した。



「…彼女の失礼を許してくれ。彼女は雇われの傭兵のようなもので騎士や近衛兵のような高度な教育は受けていないのだ」


「いえいえ、とんでもない。逆に舐めてくれた方がありがたいですよ、戦場ではその方が手加減や油断してくれるので便利ですし」



王様がなんか申し訳なさそうに女性を貶めるような感じで言い出し、俺は気にしてない事を告げる。



「なるほど。どうやら本当に強いらしい」


「まあ俺が強いか弱いかなんてのはどうでもいいでしょ、いずれ戦場で会う事になれば分かる事だし」


「ははは!あたしの経験上余裕のある態度を崩さない奴は大概自分の強さに自信を持ってる奴だ」



お姉さんのニヤリとした笑いながらの言葉に俺が適当に流すと声を上げて笑う。



「…お互いに挨拶は済んだようだな。ところで頼みがあるのだが…」



王様が会話に入ってくると俺を見ながら言いづらそうに話す。



「頼み…ですか?」


「そうだ。またとない機会だからな…今回を逃せば次がいつあるか…もしかしたら二度と無いやもしれん」


「なんでしょう?」


「魔石を譲ってくれ。大魔導師が同席しているこの場ならば密約には反しないはすだ」



俺の確認に王様は回りくどい事を言い出し、俺が内容を促すように尋ねると…



王様は本題を話した後によく分からない予防線を張るような言い方をする。



「密約?」


「いや気にしないでくれ、コッチの話だ。どうだ?」


「特に問題は無いかと。坊ちゃんが応じるのなら…ですが」



俺が不思議に思いながら聞くと王座ははぐらかすように言ってお姉さんを見ながら確認し、お姉さんは俺の判断に委ねてきた。



「俺は別に構わないけど…あ、そういや時期の時に取ったヤツはまだ売ってないんだっけ?アレは除いといた方が良いかな?」


「…そうですね。坊ちゃんが個人的に所有している物の中で売っても良いと思われる物を売却した方が良いと思います」



その方が密約に触れずに面倒な事態も問題も起きないでしょうし…と、お姉さんは俺の適当な確認に考えながら答える。



「では!」


「その前に少しお時間よろしいでしょうか?」


「…何か用事があるのか?」



すると王様が喜んだように身を乗り出すので俺が確認すると王様は焦れたような表情で尋ねた。



「いえ…さっきから出てる『密約』ってなに?」


「あ、それはあたしも気になってた」



俺がお姉さんに疑問を聞くと護衛の女性もこれ幸いと乗ってくる。



「…大丈夫ですか?」


「彼女は口が堅い。それに我々と同じ協会員だ、信用に足る」



女性を見ながらのお姉さんの確認に王様は頷いてお墨付きを与えた。



「そうでしたか。では大丈夫ですね…『密約』というのは簡単に言えば魔石の取り引きに関する事で…単純に言えば公平を期すために坊ちゃんの囲い込みを禁止、牽制する意味合いで上層部の人達が話し合った『取り決め』の事です」



お姉さんは王様の許可が降りたからか俺に説明をし始める。



「あー…魔石の独占を防ぎたい、って事か」


「その通りです。最初の頃は坊ちゃんのお父様が隠してて、家族や私達家庭教師以外には知られてなかったんですが…坊ちゃんが学校に通い始めてピタッと魔石の供給が止まったじゃないですか?」



アレで上層部の人達みんなに気づかれました。と、俺の予想にお姉さんは困ったように笑いながら返した。



「それで上層部のみんなで話し合った結果、私が魔石確保の任務を受けて学校に派遣されまして…」


「ちょ、ちょっといいかい?」



お姉さんの説明の途中に女性が割り込むように断りを入れてくる。



「なんでしょう?」


「ひょっとしてだけど…この話って本来ならあたしみたいな下っ端が聞いていいような内容じゃないんじゃ…」


「本来ならそうだ。だからもし漏れた場合は相応の処罰を覚悟してもらう」


「…聞かなきゃよかった…」



女性が若干怯えるような感じで聞くと王様が肯定し、女性は後悔するようにため息を吐きながら呟く。



「…この際だから聞くけど、協会の魔石納品の記録で歴代二位にぶっちぎりの…次元が違うぐらいの大差をつけてる一位の身元不明者ってのがこの猟兵隊の?」


「はい」「そうだ」


「…さっきのあたしは本当に失礼な事を言っていたんだね…たかが小娘ごときが生意気な事言ってすみませんでした」



開き直ったような女性の確認にお姉さんと王様がほぼ同時に肯定すると女性はなぜか自分の過ちに気付いたように呟き、俺に頭を下げて謝り出した。

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