青年期 88

「…説明を続けますよ?」


「あ、うん。続けて」



俺が対応に困惑してるとお姉さんが確認してくるので俺は話の先を促す。



「私が魔法協会へと大量の魔石を納品した後に坊ちゃんとの個人間での魔石のやり取りを制限する事になりました。みんなが私的に魔石を買い漁るとまた協会は魔石不足に喘ぐ事になりますから」


「…なるほど。その制限が密約か…」


「はい。内容の方も知りたいですか?」



お姉さんの説明に俺がほぼ理解して納得しながら呟くとお姉さんがそう確認してくる。



「いや、いいや。俺には関係無さそうだし」


「まあ実際坊ちゃんには無関係ですからね」



俺が断るとお姉さんは笑いながら同意するような感じで返した。



「では話が終わったところで返事を聞かせてもらおうか」


「…自分で所有しているのは数が少ないので少量でよければ…」


「十分だ!」



王様の催促するような発言に俺が事前に断りを入れると了承する。



「では…」


「おおっ!少量と言いながら大量にあるじゃないか!」



俺がテーブルの上に魔石を種類ごとに一個ずつ置いていくと王様は喜びながら興奮したように立ち上がった。



「…ちょっと待ってくれ。一体何個…」



テーブルいっぱいに中級の魔物までの20個並べながら置くと王様が愕然とした様子で尋ねてくる。



「えーと…売れる物はあと5種類ですね。もうテーブルには置けないので床に置きますが、よろしいですか?」


「あ、ああ…」



俺は手持ちで3個以上ある魔石だけを数えて答え、王様に確認をとってミノタウロスやキマイラなどの上級の魔物の魔石を置いていった。



「…今出ている物が売却できる魔石でございます。ゴブリンやグール、スライムといった下級の魔物の魔石は5個まで、中級以上は3個までしか在庫がありませんのでご了承ください」


「なんだと!?そ、そんなに買い取れるのか!?ほ、本当だろうな!?」



俺の説明に王様は驚きながら立ち上がると身を乗り出して興奮した様子で確認してくる。



「はい」


「ではあるだけ全部買い取ろう。…というのも品が無いな…とりあえず全種類の魔石を一つずつ貰おうか」


「なあ、あたしにもいくつか売ってくれよ。そんなにいっぱいあるんならいいだろ?」



王様が自制するように呟きながらも結局大人買いする様子を見て女性も欲しくなったのかお願いするように聞く。



「金が払えるんなら構わないよ」


「やめておけ。一番安い魔石でさえ一般人にはとても手の届かない額だぞ」


「…一番安い魔石でいくらなんだい?」



俺の返答に王様は優しさで警告し、女性はテーブルに置かれてるスライムの魔石を指差しながら尋ねた。



「今だとゴブリンやグールの魔石で250万…共通金貨換算で25枚、大陸金貨だと250枚になります」


「にっ…!ちょ、ちょっと、本当にそんなにするのかい!?」


「今は安定供給されているからまだ安い方だ。数年前の枯渇時は最低値が300万から350万だったからな」



お姉さんが魔石の値段を答えると女性は絶句するように驚いて確認してきて、王様が値段の推移を話す。



「…『共金貨』25枚で安い方って…あたしの約半年分の報酬と同じぐらいだというのに…」


「だから言ったであろう。『一般人には手が出せん』とな」


「ちなみに魔石は売買しても非課税の免税品となっていますので、売っても買っても税金は一切かかりませんよ」



お姉さんの驚きながらの呟きに王様は呆れたように言い、お姉さんは何故か世界の常識を改めて教えるかのように説明する。



「…じゃあ一番高い魔石はいくらになるんだい?」


「それはこの中で、ですか?それとも歴史上で?」


「歴史上は後から調べる事ができるから、この中で一番値段の高い魔石を教えてほしい」



女性がふとした疑問を聞いてくるとお姉さんが詳細を尋ね、女性は今出ている魔石を指して聞いてきた。



「…魔石の大きさにもよりますからねぇ…この中だとミノタウロスかベオウルフの6500万…いえ、やっぱりキマイラの8000万でしょうね」


「はっ…!…は、はは…あたしの予想と全然桁が違う…」


「金を出せば買えるだけまだマシだ。秘匿事項が報告される前までは中級の魔物の魔石など書物の中の文章でしか見る事が叶わなかったのだぞ」



昔はゴブリンの魔石でさえいくら金を積もうとも手に入る事の無い奇跡の代物だったんだからな…と、王様は意味不明に昔の苦労話をし始める。



「ミノタウロスの魔石なんて売ろうものなら今でも贅沢しなければ一生遊んで暮らせる額ですし」


「…よく考えたらそれでも二年分の学費がタダになるぐらいって…あの学校、流石は貴族の坊ちゃん嬢ちゃんが通うだけはあって学費の値段も凄いものだね…」


「多分寮費や生活費の方が大半だと思いますよ?あと寄付金の名目で少し高くなってるとか聞きましたけど」



お姉さんの例え話に俺が学生時代の事を思い出しながら微妙な顔で言うと、お姉さんは訂正するように返した。



「…とりあえずあたしにも一つ、売ってくれないか?金ならある…貯金を崩さないといけないから今すぐには払えないけど…」


「じゃあ今は陛下に買ってもらって後から支払えば?」


「うむ、いいだろう。密約上、利子は取れんから安心しろ」


「陛下…!ありがとうございます!感謝します!」



女性の要求に俺がそう提案すると王様が懐の広さと器の大きさを見せながら了承し、女性は感激したように頭を下げながらお礼を言う。

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