青年期 86

…翌日。



「ん?」



朝早くから誰か来たのか部屋のドアがノックされる。



「…なんか用ですか?」


「貴殿がラスタの傭兵団『猟兵隊』の団長であられるか?」



ドアを開けると全く知らない人が立っていたので用件を問うと男性が俺の素性を確認してきた。



「そうですけど…」


「国王陛下が貴殿に面会を求めているのだが…都合はつくか?」


「…国王陛下?なんで?」


「会えば分かる」



男性のまさかの用件に俺が驚きながら聞くも今この場では教えてくれないらしい。



「予定が空いたら早めに連絡をくれ。私はココにいる」


「坊ちゃん、今から行きません?」


「今から!?…いいの?」


「構わん。こちらとしては逆に好都合なぐらいだ」



男性が連絡先の住所が書かれた紙を差し出すと何故かお姉さんが提案し、俺の驚きながらの確認に男性は歓迎するかのごとく肯定する。



「じゃあ行こうか」


「では案内する」



俺がお姉さんの提案を受けると男性が先導するように歩きだすので俺らも後からついていく。



「…なんで国王が直接俺なんかに会おうと思ったんだろうね?実は罠だったりして…」


「それは無いと思いますよ。多分坊ちゃんに会ってみたかっただけじゃないです?」



男性について行きながら俺の疑問と疑心にお姉さんが否定しながら楽観的な予想を話す。



「なんで?俺この国じゃまだそんな有名じゃないでしょ」


「ドードルの国王陛下は魔法協会の協会員ですからね」


「…マジで?」


「はい。一応上層部の一人ですよ」



俺がありえなくね?と思いながら聞くとお姉さんは笑顔で意外な事を言い、俺の驚きながらの確認に肯定して補足情報を告げる。



「…国王も協会員って…魔法協会が国際組織なのは有名だけどそんな偉い人まで在籍してるんだ」


「そもそも魔法協会の上層部は色んな国の公爵や王様、大臣といった権力者ばかりですからね」



平民は私だけで異例な上に設立して以来初めてらしいですし…と、お姉さんは卑下したように笑って説明をしてくれた。



「へー…そういや子供の時にそんな事を聞いた事があるような…」


「正直、9割私の功績じゃないんで『大魔導師』と呼ばれるのも何年経っても未だに慣れなくて違和感があるんですけど」


「そういや『大魔導師』って呼ばれてるのって先生だけなんだっけ?」


「はい。上層部のみなさんは立場のある権力者ばかりなのでそういう肩書きで呼ばれてるんですが…私だけ何も無いのも組織の体面としてどうなのか…と、無理やり肩書きを押し付けられました」



俺が思い出すように聞くとお姉さんはやっぱり困ったように笑い、俺の確認に困ったような…呆れたような感じで経緯を説明する。



…それからもお姉さんと適当に雑談しながら男性についていくと城の中に入り…



謁見の間とは違う応接室のような部屋に通された。



「陛下をお呼びしてくるゆえ椅子にかけて少し待っていてくれ。直ぐに飲み物を用意させよう」


「はいはい」



男性の言葉に俺は素直に従ってソファに座る。



「…しっかし豪華な部屋だな…要人達となんかの話をする時に使う部屋だったり?」


「かもしれませんね。こんな部屋に通されるなんて流石は坊ちゃん」


「いや、ソレ俺関係ある?」



俺が部屋の中を見渡しながらシャンデリアだの花瓶だの絵画といった装飾品を見ながら予想すると…



何故かお姉さんは急に俺を褒めてくるので俺はツッコミを入れるように否定した。



「…失礼します」



すると部屋のドアがノックされて開き、メイドの女性がティーカップの乗った金属のトレイを持って入ってくる。



「お飲み物の方、置いておきます」


「ありがとう」


「ありがとうございます」


「…では、失礼いたします」



メイドの女性は茶器をテーブルの上に置くと頭を軽く下げて直ぐに部屋から出て行く。



「おおー…なんか高そうな紅茶の香りがする」


「…ホントですね…香りが普通のとは全然違う感じがします」



俺がカップを取って飲もうとすると良い匂いがするので飲む前に香りを嗅ぎながら言うとお姉さんも手で仰いで香りを嗅ぐ。



「…こういう時のためのお菓子だな」


「あっ!流石坊ちゃん!私にもください!」


「コレがエーデルが作ったやつで、コレがリーゼ。んでコレは俺が作ったやつ」



お茶請けが無いので自前の物を空間魔法が施されたポーチから取り出すとお姉さんも欲しがるので、俺は弟や妹から貰った物が入ってる容器をテーブルの上に置く。



「…うーん…エーデルのやつ腕が上がってやがるな…もう俺のと比べても違いがねぇ…」


「リーゼ様のも美味しいですよ。もう坊ちゃんに追いつくのも時間の問題では?」


「くっ…!これはまずい…!」



弟の作ったクッキーを食べながら評価するように言うとお姉さんは妹が作ったのを食べながら褒めるので俺は焦ったように呟く。



「…待たせてしまったか」


「…あ、いえ」


「お気になさらずに」



…俺らがお菓子を食べながら紅茶を飲んで話してると国王であろうおじさんがノックもせずにドアを開けて急に部屋の中に入って来た。



「会えて光栄だ、リデック・ゼルハイト卿。功績はよく耳にしている」


「あ、はい」



おじさんはテーブルを挟んだ対面側に移動すると挨拶をして手を差し出すので俺は返事や言葉遣いに困りながら一応握手する。

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