青年期 120

…その翌日。



俺が昼飯の準備をしていると部屋のドアがノックされる。



「はーい。…何か用でしょうか?」


「あの…改めてお礼が言いたくて…」



俺は麺を茹でてるので手が離せず、お姉さんがドアを開けて来客の対応をすると来客であるお嬢さんが用件を呟く。



「坊ちゃん。辺境伯令嬢が来てますけど…」


「珍しいね。昼食べるかな?はい」


「ありがとうございます。あの、お昼ご飯一緒にどうですか?」



お姉さんの報告に俺が意外に思いながら返し、疑問を聞いて醤油ラーメンの入ったどんぶりを渡すとお姉さんはお礼を言いながら受け取ってお嬢さんに尋ねた。



「え、あ、お邪魔でなければ…」



お嬢さんは遠慮したような感じで了承するように返す。



「…はい。自分のは今から作るので、冷めない内にお先にどうぞ」


「ありがとうございます。え!?スープの中に麺が…?」



本来なら俺の分だった物をお嬢さんの前のテーブルの上に置いて促すとお嬢さんはお礼を言った後にラーメンを見て驚く。



「ミスォや塩のラーメンも美味しいですけどシューユラーメンもアッサリしてて美味しいですね」


「…!美味しい…!」



もはや慣れたようにズルズルと麺を啜りながら食べて感想を言うお姉さんを見ると、お嬢さんはフォークで上品に麺を巻きつけて食べ…驚きながら意外そうに感想を言う。



「…こんな料理があったなんて…!」


「とある大陸の郷土料理ですので、この周辺国ではまず食べられないと思いますよ」



だからこうして自作するしか無いんですが。と、俺は自分の分の醤油ラーメンをテーブルに置いてお嬢さんに軽く説明する。



「…このお肉も…今までに食べた事が無い美味しさです」


「おお、お目が高い。ソレは魔物の肉を加工した物でして…」


「魔物の肉!?」


「ご存知の通り我々はハンターなので自力で手に入れる事が出来るんですよ」



4枚の内一枚のチャーシューを食べて感想を言うお嬢さんに材料を説明するとやっぱり驚かれ、疑問を聞かれる前に先手を打って理由を話した。



「…噂には聞いてましたが、実際に食べたのは初めてです…こんなに美味しい物だとは…」


「その美味しさがゆえに手離すハンターが少なくて出回らないんですけどね」


「確かに」



チャーシューをパクパク食べながら呟くお嬢さんに軽く嘘を混ぜて説明すると普通に納得される。



「…ふう。美味しかったです。このようなものをご馳走いただき、心より感謝申し上げます」



お嬢さんはラーメンのスープを飲み干した後に一息吐くと軽く頭を下げてお礼を言い始めた。



「お気に召したようで何よりです。こちら、食後のデザートになります」


「ありがとうございます。美味しそうなクッキーですね」



俺が食器を片付けて空間魔法の施されたポーチからクッキーの入った容器を取り出し、皿に移してテーブルの上に置くとお嬢さんは嬉しそうに一つ手に取って食べる。



「美味しい!サクサクしながらホロホロと溶ける上質な味に食感…戦いに強いだけでは無く、お料理の方もとてもお上手なのですね!」


「ありがとうございます。弟や妹に追い越されないよう必死に頑張っていますので…」


「兄妹がいらっしゃるのですか?」



クッキーを食べて喜びながら感想に言うお嬢さんに料理が上手い理由を話すと意外そうに尋ねてきた。



「はい、国で学校に通っております」


「なるほど。…こんな風に町や村を渡り歩いていたら会いたくなったりしませんか?」


「いえ、全然。元気なのは分かりきってて心配は全く要らないですし、ただの旅行なので帰ろうと思えばいつでも帰れますから」



お嬢さんの疑問に俺は分身が隔週で会ってるしなぁ…と思いながらも適当に嘘を吐く。



「まあ薄情」


「…お嬢様。そろそろお時間の方が…」



お嬢さんが笑うと部屋のドアが開いて護衛であろう女性のお姉さんが声をかけてくる。



「…分かりました。ではお食事のお礼も兼ねて…コレを」


「ありがとうございます」


「ではまた」



お嬢さんは床に置いていた紙袋からお土産のような紙の箱を5個テーブルに置き…



俺が受け取って礼を言うと立ち上がって挨拶して部屋から出て行った。



「中身はなんだろ?ん?」



貰った物の中身を確認しようとしたら部屋のドアがノックされる。



「はーい。…あれ?」


「あの…すみません…先ほどのクッキー…いくつか貰えないでしょうか?お金は払いますので…」



返事をしながらドアを開けるとお嬢さんが立っていて気まずそうな顔でお願いしてきた。



「お金は大丈夫ですよ。辺境伯であるお父様からいっぱい貰ってますし、また作ればいいので…少しお待ち下さい」


「すみません…助かります」



俺は金の支払いを断ると部屋の中に戻って空間魔法の施されたポーチから取り出したボウルに俺が作ったクッキーを全て入れる。



「…お待たせしました。どうぞ」


「…!こんなにいっぱい…!よろしいのですか…!?」


「どうぞどうぞ。お気になさらずに」



俺がボウルを渡すと布を捲って中身を見たお嬢さんが驚きながら確認してくるので俺は軽い感じで返す。



「…ありがとうございます。大切に食べたいと思います」



お嬢さんはボウルを大事に抱き締めるように抱えると頭を下げてお礼を言い、今度こそ帰って行く。

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