青年期 332

ーーーーー





「みなの者!よくぞ集まってくれた!」


「お、始まった」



みんなで雑談すること一時間ほどで王様が城の最上階のバルコニーに出て来て声を張り上げながら労いの言葉をかけ、分身の俺と家族達が王様の方を見上げる。



「今、この王都…いや、この国では新興貴族による不正が横行し、国として腐敗が進んでしまっている!」


「お」


「…もしかして兄さんが言ってたやつ?」


「お兄様…」



王様の発言に分身の俺が意外に思いながら呟くと弟が確認するように聞き、妹も若干不安そうな目を向けてきた。



「余の判断や対応が遅れ、このような事態、このような現状を招いてしまった事を恥じて深く反省し、国民に対してお詫びを申し上げたい!」



王様がまさかの自分の非や過ちを認めての反省と謝罪をすると集まった人達も動揺してザワザワと騒がしくなる。



「そしてその責任を取り、余は今年中で王の座を退いて退位し、来年からは後継者である王子達のいずれかに王の座を譲る事を宣言する!しかし、このままでは国を豊かにするために尽力してきた先代達に合わす顔が無い!なので次代国王の補佐として国の更なる発展に貢献し、尽力する事をここに誓う!」


「「は!?」」「「「「えっ!?」」」」



…王様のあまりに唐突過ぎる退位の発表と決意表明に分身の俺達はみんな呆気に取られた反応しか出来なかった。



「…そういう事で我々も大忙しなのだ」


「「あ」」


「お父様」



王様はなおも演説を続けるが分身の俺らの耳には入ってこず、みんな状況を必死に理解しようと考えを巡らせて黙っていると父親が疲れた顔をしながらやって来る。



「やっと作業が落ち着いてな。予定では陛下の発表の少し前までには終わるはずだったのだが…」


「先生」


「はい」



父親が疲労感を漂わせたまま椅子に座って一息吐いて愚痴るように呟くので分身の俺が合図するようにお姉さんを呼ぶと、お姉さんは返事をして直ぐに回復魔法を使うための詠唱を始める。



「これは…すまない。助かる」


「いえ、この程度の事。気にしないで下さい」



魔法のおかげで疲労が回復した父親の驚いたような反応からのお礼にお姉さんは謙虚な返事をした。



「やっぱり王が変わるって大変なんだ?」


「…それだけでは無い。今陛下も仰っていたように『新興貴族はこれから貢献度で爵位の維持、剥奪が判断される』という新制度が元老院での審議の結果、可決されて許可が下り、再来月からの導入が決定した」


「うへー…スピード感すごっ。そりゃ仕事が大量で大忙しにもなるわな…」


「なるほど、金で売った爵位を返金せずに剥奪出来る上に『貢献度』として税とかで更に金を取るわけか…」


「…反発も凄そうですわね…ま、私達には関係ありませんが」



分身の俺の問いに父親はBGMのようになってる王様の話を引き合いに出して説明し…



分身の俺が納得して同情するように呟くと弟が直ぐに新制度の内容のエグさを見抜き、妹は心配したように呟いたと思えば速攻で切り替えて他人事みたいに言う。



「でもアレだな…これで派閥争いが更に激しくなりそうだ」


「確かに」


「『四大派閥』でしたっけ?あんまり詳しくは分かりませんけど…」


「そうだ。シーグル公爵を筆頭とした現国王派、コンテスティ侯爵を筆頭とした第一王子派、エルーナ公爵を筆頭とした第二王子派、そしてロマズスル辺境伯を筆頭とした第四王女派だ」



分身の俺の予想に弟が同意すると妹は不思議そうに聞き、父親が派閥のトップと支持してる人物を説明する。



「…お兄様は?誰を支持してるのですか?」


「俺は無派閥の逸れ者で立場的には中立だからな。国が良くなれば王子でも王女でも国王が再び返り咲こうがなんでも良い」


「まあ…兄さんはそうだよね」


「リデックらしい」



妹がふとした疑問を尋ね、分身の俺が適当な感じで特定の個人には肩入れしてない事を話すと弟と母親が笑う。



「ちなみに我がゼルハイト家は現国王を支持するシーグル公爵の派閥に属している」


「へー。そういやどこの派閥かは聞いてなかった気がする」


「しかしエーデル。お前が当主になった際には無理に同じ派閥に居続ける必要は無い。世の中の流れを見極め、自分の考えと判断で誰について行くかを決めろ」



父親の説明に分身の俺が意外に思いながら言うと父親は弟に向かって柔軟な考えを伝え、弟自身の判断に任せるような事を言う。



「はい」


「流石、父さんの合理的な考えは一貫して凄いもんだ。『麒麟も老いては駄馬にも劣る』なんてならなきゃ良いんだが…」



分身の俺は父親を褒めつつも最悪の事態を想定して若干不安や心配に思いつつ呟く。



「なんですか?それ」


「どんなに凄い人でも歳を取ると凡人以下の愚か者になる…っていう外国の例え。今喋ってる国王がそうだったように、歳取ると脳の構造が少しずつ変わっていく人もいるからな」


「「なるほど」」


「…忠告として心に刻んでおく。陛下と同じ過ちは繰り返さないようにせねば…」



妹が不思議そうに尋ねるので分身の俺が解説すると弟と母親の納得した反応が被り、父親はなんとも言えない微妙な顔をして自戒するような事を言い出した。

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