青年期 281

「…ではそろそろ昼食にしましょうか」



男性との細かい話を詰め、時計を見ると昼飯の時間になっていたので俺は立ち上がりながら提案する。



「うむ。ちょうど腹も減って来たところだ」


「そうですね」


「まず突き出しとして…今回はガーリックトーストです」



おっさんが賛成すると男性も賛同し、俺は空間魔法の施されたポーチから容器を取り出して皿に盛った後にテーブルの上に置く。



「…ほう?いつもの生肉ではなくパンか」


「コレは作り方を教えた事はありますが、昔なのでまだ弟達でも実際に作った事は無いと思います」


「ふっ…注文通り『珍しい料理』というわけか」


「実は『ブルスケッタ』の亜種なので名前が違うだけで厳密には珍しくないのですが…コレが店で食べられないという点では珍しいと言えます」



不思議そうなおっさんの言葉に俺がパンにした理由を話すと満足そうに笑うので俺は訂正しながら言葉遊びのように言う。



「…美味い!これは…なんというか、『強い』な。味が」


「…!なんと…!」


「コレは味や匂いが尖り過ぎているので、どんなに味が美味しくとも女性には食べさせられないんですよね…当然例外はありますが男性向けの料理となっています」



おっさんが一枚を一口で全部食べていつもと違う表現で感想を言うと男性も一口齧って驚き、俺は料理について軽く説明した。



「なるほど…確かにこの強さは女ならば食べぬかもしれん。人の目がある場所ではな」


「…そうですね。体面を気にするのなら男に勧められなければ手は出せないかと」



おっさんはもう一枚食べて納得しながら言い、男性も食べながら同意する。



「このゼリーもどうぞ」


「ほう…この色…トゥマトか。…美味い!サッパリとしていてこのパンと合うではないか!」


「後味の方も…コレはコンソメとトゥマトを合わせたものか?」


「その通りです。ガーリックトーストだけでは味がクドくなりますのでお口直しに、と」


「素晴らしい!」



俺が小鉢に入ったもう一品を出すとおっさんがゼリーを見ながら予想してスプーンで一口食べて絶賛してくれ、男性の確認に肯定して今提供した理由を話すと男性が褒めてきた。



「ふはは。ゼルハイト卿はいつも突き出しから期待以上の物を出してくるから面白い」


「ありがとうございます。その言葉が料理人としては一番嬉しいです」



自分は料理人では無いですが…と、俺は笑って褒めてくれたおっさんに感謝の意を示しつつ冗談を言うようにおどけて返す。



「…確かに。貴族の当主が自ら料理に携わるなど聞いた事が無いですな…それも直接腕を振るうなど…」


「ゼルハイト卿は元傭兵であるからな。料理が上手いのはその影響だろう」


「…どうぞ、三色丼です」



男性が同意して考えるように呟くとおっさんは適当な感じで返し、突き出しとして出した皿が空になったタイミングを見計らって俺は最初の丼物をテーブルの上に置く。



「…なるほど。色の三色だったのか……っ!?」


「やはり美味いな。上に乗っている肉、卵、野菜が下のマァイと合う」


「調味料で味を変える事もできますよ」



男性は三色丼を見て名前に納得しながらスプーンで一口食べると驚き、おっさんがガツガツ食べながら感想を言うので俺は調味料の入った小瓶を数種類テーブルの上に出した。



「…ブラックソースもいいが、やはり香辛料だな。ピリッとした辛さによる刺激も欲しくなる」


「…好きなだけかけてもいいのか?スパイスは貴重品だろう?」


「まあまあ値段は気にしないで。美味しくなる食べ方でどうぞ」



おっさんが七味唐辛子に近い香辛料が入った小瓶を取って少し振りかけると男性が驚いたように確認を取り、俺は軽い感じで了承する。



「…確かに香辛料を足すと味が変わり、一層肉の甘味が際立つ…」


「紅生姜があるとアクセントとしてちょうど良かったんですが…作り方が分からないのでまだ試作段階の模索中でして」


「ほう、新しい付け合わせか。完成が楽しみだ」


「…一応ジンジャーの漬物がコレです。紅生姜ほどでは無いですが、無いよりは美味しくなるかと」



男性の感想に俺は前世の記憶の知識を話すとおっさんが意外そうに言い、とりあえず現時点で食べられる薬味を小鉢に移して提供した。



「…こちらは親子…鳥卵丼になります」



俺は次の品を出す時に流石にヤバいか…?と料理名を少し変えて言いながら出す。



「…!美味い…!卵の食感が柔らかく、肉もとても柔らかい…!」


「…このジンジャーの付け合わせはこの料理にも合うな」


「ありがとうございます」



男性がスプーンで一口食べるとまたしても驚きながら感想を言い、おっさんは一口目から薬味を乗せて一緒に食べて感想を言う。



「…ふう。あまり量は無さそうに見えたが…意外と腹が膨れるものだ」


「ではデザートとして…一口ドーナツを」


「『ドーナツ』?」



…親子丼も食べ終わり、男性は満足そうに呟くので俺がデザートを出すと不思議そうな顔をした。



「揚げ菓子ですね。簡単に言うと」


「揚げ菓子か」


「うむ。食べやすくて美味い」


「…ほう!外はサクサク、中はモチモチしながらもフワフワと面白い食感だ!」



俺の短い説明に男性は納得しながらフォークを刺すとおっさんが素手で食べ始め、男性は面を食らったように驚きつつも一つを一口で食べて更に驚きながら感想を告げる。

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