青年期 280

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「…団長。タンダリン侯爵が来たそうだ」


「お。意外と早かったな」



分身を解除して一時間後ぐらいに団員がドアをノックした後に開けて報告し、俺は報告書を机の上に置いて椅子から立ち上がった。



「しかし…一緒にコンテスティ侯爵も来てるらしいんだが…」


「マジで?昼飯食いに来て被ったのか…?とりあえず俺が迎えに行くよ。ありがと」


「ああ。頼んだ」



続く団員の報告に俺は驚きながら予想しつつもまあいっか、と気持ちを切り変えて返し、お礼を言って部屋から出る。



「…お待ちしておりました、タンダリン侯爵。そして先ほど振りですね、コンテスティ侯爵」


「お招きいただき感謝申し上げる」


「いや、済まんな。タンダリン侯爵と話があると聞くが、せっかく王都まで来たからには寄らずに帰るのは流石に惜しい」



俺が門まで迎えに行くと二人が馬車から降りていて、挨拶をすると男性は胸に手を当てながら会釈してお礼を言う…という丁寧な対応をするがおっさんはいつものように砕けた態度でココに来た理由を話す。



「自分は特に問題があるわけでは無いので一向に構いませんが…」


「私も問題無い。同じ派閥である以上、コンテスティ侯爵に隠し立てするような内容では無いからな」


「そうか。では同席しても何の問題もあるまい」



俺は受け入れながらも男性に配慮するように言うと男性も了承するように返し、おっさんは嬉しそうに許可を得た事を示すように告げた。



「ではこちらへ。侯爵は昼食のリクエストとかありますか?」


「…そうだな…エウルには店でも食べられないモノを食べさせたい…何か珍しい料理はないか?」


「珍しい料理、ですか…弟や妹でさえ知らない料理となると難しいですね…『ゴボウの肉巻き』や『たこ焼き』といった材料や調理器具が無いものであればいくつか思いつきますが、ソレは自分も今は作れないので…」



俺が案内するように先導し、おっさんに確認するとおっさんは考えながら呟いて無茶振りをしてくるので俺は難しい顔をしながら選択肢が少ない事を呟く。



「そうか。ではエーデル・ゼルハイトやリーゼ・ゼルハイトが店に居る状況でしか提供出来ない料理を頼む」


「…それもまた難しいですね…今度は選択肢が多過ぎて…今まで侯爵や辺境伯にお出ししていた料理は全て妹や弟も作れますから」


「むぅ……難しいものだな…」



おっさんの妥協するような要求に俺はまたしても難しい顔をしながら返すとおっさんも難しい顔をして呟き、ため息を吐いた。



「ただ…珍しいものであれば丼物なんてどうでしょう?米は周辺諸国でもほとんど食べられていないので、食べようと思うと遠出しないといけないですし」


「コメ…マァイか。それは良いかもしれん」


「では三色丼と親子丼にしましょうか」


「うむ、なんでもいい。そこはゼルハイト卿に任せる」



俺が簡単に作れる種類の料理を提案するとおっさんは賛同し、その中からふと思いついた料理を挙げるとおっさんが了承する。



「…では話を続けましょうか」



俺は侯爵二人を自室へと招き入れた後に対面のソファに座って話を切り出す。



「うむ…今回クライン辺境伯には『資金援助』では無く『物資援助』を頼みたい。金の方は家内騒動が終わり次第、後からきっちりと払う」


「金で腹は膨れないですからね…食料であればローズナーとガウ、建築資材等はヴェリューやラグィーズ領で余剰管理をしていますが、今回はやっぱり食料ですか?」


「ああ。最低限二月分ほどの食料があれば領内の餓死者はほとんど出ないはずだ」



男性の要求に俺が同意しながら一応確認すると男性は了承して予想を告げた。



「…『人道支援』の名目でルート…団体を経由すれば半年分までは無償で都合出来ると思います。万が一不測の事態が生じて侯爵が金銭を支払えなくとも、『社会貢献』として自分の評判は上がりますし」


「「…なるほど…」」



俺は男性が多少面倒になりはするがメリットは大きく、俺も最悪の事態が起きた時の保険をかけられる…という提案をすると男性とおっさんの呟きが被る。



「半年分もあれば余裕を持って飢饉の対応にもあたれる…手続きが必要になり、受け取る期間が多少延びるがその程度の手間ならば問題はあるまい。その案を採用させてくれ」


「分かりました。明日にでも代行達に手紙を送っておきます」


「ははは、流石の策略よ。金が回収出来ない前提で考えを進め、ソレを補填するモノを即座に思いつくとは」



男性が考えるように呟いて納得して了承し、俺も了承するとおっさんは笑って俺の考えを見抜くように褒めてきた。



「『金よりも大事なモノがある』…というのはお金持ちになったからこそ言える事ですね。自分が金に困らなくなって初めて周りに手を差し伸べる心の余裕が出来るわけですし」


「ふ、ははは!流石、貴族の中で一番庶民向けに寄付、支援、援助しているゼルハイト卿の言葉は違うな!」



俺のはぐらかすような発言におっさんは声を上げて笑い、弄るような感じで楽しそうに返す。

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