青年期 162

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「…ふう。どれも美味かったぞ」


「ありがとうございます」



デザートのシュークリームやエクレアを食べた後におっさんが満足気に言い、俺はとりあえずお礼の言葉を返した。



「…おっと、そうだ。帰る前に…ガウ領で暗躍している者達がいるが、気づいているか?」



おっさんは食事を終えて帰ろうと立ち上がった拍子にふと思い出したように確認してくる。



「はい。流石に誰の手先かまでは分かりませんが、対策は取っています」


「そうか。私の耳にも入るぐらいだから当然か…しかし、このまま泳がせておいて大丈夫なのか?」


「問題ないです。お気遣いありがとうございます」


「ならば心配はあるまいな」



俺が肯定して返すとおっさんは納得したように呟くも心配するように確認し、ソレにも肯定してお礼を言うと部屋から出るので…



一応俺とお姉さんはおっさんと一緒に建物の外まで出て馬車に乗って行くのを見送った。



「…坊ちゃんさっきなんで嘘ついたんですか?」


「なにが?」


「ガウ領で暗躍してるのってウィロー伯爵とパルパティ侯爵までは分かってますよね?」


「ああ…侯爵とか辺境伯とかに勝手に動かれると困るからね」



建物の中に入るとお姉さんが不思議そうに確認し、俺が尋ねるとそう聞いて来るので俺はさっきの会話で誤魔化した理由を話す。



「でもやっぱり国内の敵味方やその他を判別するためにガウ領を失うのは痛手では無いですか?」


「別に。領地なんて戦争が起きて戦功を挙げれば簡単に貰えるんだからガウぐらいならまだギリギリ痛手にはならないよ」



ローズナーは流石に手放せないけど。と、俺の目的に反対するかのように説得的な事を言い出したお姉さんに俺は楽観的に告げる。



「それは…そうですが…」


「まあでもそろそろ良いか。ちょっと俺の部屋に来て」


「?分かりました」



納得いかなそうに呟くお姉さんに俺は少し早いかな?と思いながらも今まで隠していた裏の目的を教える事に。



「…実はねぇ、あのガウ領。毒まんじゅうなんだよ」


「…毒まんじゅう…ですか…?」



自室に入って念のためドアに鍵をかけた後に俺が比喩表現で告げると、お姉さんは不思議そうに意図を理解し切れないように呟く。



「そう。俺や領主代行達がわざとガウ領を差し出そうとしてるように見えるのは当然裏があるから」


「…それは…『裏』や『毒』と言うからには危ないやつですよね?」


「…今の話やこれからする話は絶対秘密にしてね?相手にほんの少しでも警戒されたくないから」


「はい。絶対に墓場まで持っていく事を誓います」



俺の話を聞いておちょっと察したように呟いて確認してくるお姉さんに俺が条件を突きつけて理由を告げるとお姉さんは真剣な顔で頷いた。



「計画が成功するまでで良いんだけど…まあいいや。とりあえずガウ領は魔法協会が実験で使ってるだけの田舎じゃん?」


「はい」



俺は微妙な感じで呟きつつも気を取り直して裏の目的を教えるための話を始めるとお姉さんが相槌を打ってくれる。



「領内で『使える土地』の6割から7割は魔法協会が占めていて、その土地の所有者は俺個人なわけ」


「坊ちゃんが土地の『所有者』ですけど土地の『使用者』は魔法協会所属の魔法使い…研究員達ですもんね」



俺の説明にお姉さんは自分が理解し易いように言い換えながら返した。



「その魔法協会が利益のほとんどを税収としてくれるからガウ領の税収の半分近くはソコからだし、そのおかげで領内の人達の税収は他の所と比べたら半分ほど」


「…なるほど!つまりその魔法協会側から税収を普段通りにしか取れなければ領内の税収は約半分以下にまで下がる…!」



俺が説明を続けるとお姉さんが理解したように『毒まんじゅう』の内容を呟く。



「人の領地を奪った結果、今まで上手く行ってた運営がガタガタになれば周りからの評判がえらい事になるでしょ?」


「…下手したら国に納める分の税収すら回収出来ないのでは?」



俺の笑いながらの確認にお姉さんが少し考えて予想するよう返す。



「そうなってくれると面白いんだけどね。俺が『アイツ横領してない?』って相手を突き易くなるし」


「…正に『毒まんじゅう』ですね…恐ろしい」


「ははは、『タダより高い物は無い』ってね。簡単に奪える事に疑念を抱かないようじゃカウンターパンチを食らうだけだよ」



俺の追撃の説明にお姉さんはヒいたように言うので俺は笑って前世の記憶からの知識を話し、まだ誰か確定していない相手貴族を馬鹿にする。



「…国に納める税を確保しようと税率を上げると反感を招きそうですし…」


「そもそも優秀で有能な人達はみんな一時的にローズナーに退避させてるから、その頃にガウに残ってるのは自分でもの考えられずに扇動されるだけのアホばっかりになる…っていう罠にもなるじゃん?」


「うわぁ…本当に領地運営がガタガタの状態に…」



お姉さんが微妙な顔をしながら予想を呟き…



俺は普通の領民達に被害がいかないように水面下で進めてる計画を話すとお姉さんはまたしてもヒくように呟いた。



「どんな天才でもその状態からの立て直しは難しいだろうね。…まあ抜けた人材を穴埋めして大量の金を注ぎ込めばいけるけど…赤字の額が凄すぎて現実的じゃないし」


「…一番国に納める税が問題ですね。ソレを確保しようとしても、今までは半分の税収で良かったところを急に『今回から倍納めろ』なんて言ったら領民に絶対反発されますし、国に税を下げるよう交渉しても『去年は問題無かったのになぜ?』と怪しまれますからね…」


「つまりは八方塞がりだ」



俺が予想しながら言うとお姉さんは問題点を具体的に予想して話し、俺は笑いながらこの計画が成功したら相手はどうしようもない事を告げる。

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