青年期 292

「…ちょっと握手して」


「握手?」



女の子が唐突に右手を差し出して要求してくるので分身の俺は水を払うように手を振ってスライムの体液を払ってから握手する。



「…普通の手と変わらなくない?硬いからもっとゴツゴツした感じだと思ったのに…」


「ああ。ソレは結構言われるな」


「…ぐぬぬぬ…!」



女の子は手を握った後に驚くような感じで意外そうに言い、分身の俺は慣れたような対応を返すと女の子が急に手に力を入れて強く握り始めた。



「…痛い?」


「いや。全然」


「もっと力入れて良い?」


「おう」



女の子の力を入れながらの確認に分身の俺は女にしては意外と力が強いな…と思いながらも否定すると、女の子が暗に強化魔法を使用する事を確認するように聞くので了承した。



「…痛い…?」


「少し」


「じゃあ、これは…!?」



明らかに女の子の握る力の強さが変わり、ほんの少し痛みが出てきた事を告げると女の子は分身の俺の右手を両手で掴んで握り潰そうとする。



「あー…ちょっと痛くなってきた」


「これで、ちょっと…!?…ちょっと握り返してみて」


「はいよ」



分身の俺が報告すると女の子は驚愕したような顔で呟き、反撃を要求するので分身の俺は見た目通りに抑えたままの力で握り返す。



「…手加減してる?」


「手加減ってか、これが普段通りの力。日常生活に支障をきたさないよう普段は変化魔法で見た目通りの力に制限してる」


「…なるほど。じゃあダンジョン用だとどうなる…痛い痛い!分かった分かった!」



女の子の問いに分身の俺が説明すると納得して怖いもの見たさのような好奇心で提案し、制限を解いて軽く握り返しただけで女の子は痛みを訴えてギブアップした。



「まだあんまり力入れてねぇんだが?」


「やっば…もはや万力じゃん。手が潰れるかと思った…」



パッと手を離して伝えると女の子はヒいたように呟いて右手を振りながら呟く。



「…その見た目で…その殴ったり蹴ったら折れそうなぐらいの細さでこの握力は反則でしょ…強化魔法でバフかけてるのに危うく握り潰されるところだったし」


「だから普段は抑えてる。ダンジョンの中とか戦う時ぐらいだな、今みたいな元の力を使えるのは」


「…確かにそこまで強いと日常生活送れなさそう…なんでも握り潰すか割るとかで満足に物すら持てなそうな気がするし」



女の子がジト目のように見ながら言い、分身の俺が軽い感じで話すと女の子は納得したように頷いた。



「ってか変化魔法ってそんな事も出来るんだ?実はあなただけ違う仕様だったりしない?」


「そんな事言われてもな。他の奴がどうか知らないんだから確認のしようも無いだろ」



女の子は意外そうに言った後に笑いながら弄るように聞くので分身の俺は適当に返す。



「まあ確かに。変化魔法を使う人ってほとんど居ないからかなり珍しいみたいだし」


「この国では俺だけだしな」


「みたいだね。だから悪評の方もそこそこ多かった」


「…ま、しゃーねーわ」



女の子の納得したような同意にこの国の使い手の現状を教えると既に知ってたようで、ソレに関する悪い噂の方に言及するが分身の俺は気持ちを切り替えながら言う。



「そんな事より、今は握力だけじゃなくてピンチ力とか指の力も凄いぞ」


「へー、どのくらい?」


「どのくらい…そうだな…剣持ってる?壊れても良い安物のやつ」



分身の俺が話を変えると女の子は興味を持ったように食いつき、分身の俺は実演するために確認する。



「壊れても良いやつなら武器屋で買った量産品のがあるけど…はい」


「後で王都で新しいやつ買うからコレ壊しても大丈夫?」


「うん」



女の子は微妙な顔で呟きながら細身の剣を鞘ごと取り出して差し出し、受け取ってもう一度確認すると了承してくれた。



「…コレ、引っ張って引き抜けるかどうかやってみて」



分身の俺が鞘から剣を抜いて剣先の方を人差し指と親指でつまんで挟み、女の子に柄を指差して指示を出す。



「ええ、いくらなんでもこれは無理でしょ…ええ!?マジで!?ぐぬぬ…!!」



女の子は半笑いで剣の柄を握って軽く引っ張った後に両手で掴んで体重を後ろにかけ、綱引きのように思いっきり引っ張るも分身の俺がつまんでいる剣は微動だにしない。



「…でやー!」


「おっ!ってか強化魔法は反則だろ」


「でも離さないんだ…」



女の子が気合いを入れた掛け声を叫んで思いっきり引っ張り…予想外の力強さに分身の俺は一歩だけ前に進まされ、笑いながら文句を言うと女の子は驚いたように呟く。



「指でつまんでるだけでもソレってヤバくない?」


「足の指でも同じ事が出来るぞ」


「マジで!?」


「ちょっと足下見とけよ」



女の子の確認に自慢するように言うと驚かれ、証拠を見せるために足下を指差して足の指に力を込めると地面にピシッとヒビが入る。



「げっ」


「ちなみに壁も歩けるぞ」


「…もはや蜘蛛じゃん…素足じゃなくて靴を履いてるのに普通に壁歩けるとか…」



驚く女の子に分身の俺は壁に足を着けてそのまま上に向かって歩くとなんとも言えないような顔で呆れたように呟き…



「…えっ!?」


「流石に平らだと難しいが、これぐらいの凹凸があれば天井もいける」



天井を歩いてコウモリのようにぶら下がると女の子が驚愕するので、分身の俺は説明するように条件次第では可能な事を告げた。

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