壮年期 2
…第一王子がお菓子を食べて満足して帰っての二日後。
今度は第二王子からアポがあって第一王子の時と同じ昼過ぎに拠点にやってくる。
「…これはミャルマー王子。お初お目にかかります、このような場所にまで御足労いただき光栄にございます」
「お初お目にかかる、クライン辺境伯。先日は兄上が来訪してきたと聞く」
「はい。ファルフー王子もお越しいただきました。続きは部屋でいたしましょうか」
本部の建物の入口で出迎えて会釈しながら挨拶をすると王子も会釈しながら挨拶を返し、牽制するような事を言われたが俺は軽く流して移動を促す。
「うむ。…む、辺境伯自らが案内を…?」
「はい。今はこの本部の中には自分しか居ませんので」
俺が案内するように本部の建物の中に入ると王子が第一王子と同じように驚いたように聞くので俺は肯定して理由を告げた。
「…それでご用件はなんでしょうか?」
俺は自室に入った後に王子をソファに座らせて用件を尋ねた。
「兄上の勧誘を断ったそうだな?やはり北方のライツとの国境に面している辺境伯からすれば国防を重要視していない兄上では不安であろう。辺境伯には是非とも俺が王位を継ぐために協力してもらいたい」
悪い話では無いはずだ。と、王子は自信満々に得意気な顔をしながら勧誘してくる。
「…確かに悪い話ではありませんが…」
「何か不満があるのか?ならば遠慮なく聞かせてくれ」
俺が判断を渋るように呟くと王子は不思議そうな顔で聞いてきた。
「ミャルマー王子の軍事における才能は疑いようもありません。もし王位に就いたのならば国防の面ではラスタはこの先も安泰でしょう」
「そうだろう」
俺の褒め言葉に王子は得意気なドヤ顔で笑いながら肯定する。
「ですが、問題はその後です。王子が居ればライツやドードル、ソバルツを簡単に撃退し、他国が侵攻を諦める事になる…そうなれば内政に注力しなければなりません。なにせ王子のおかげで国としての安全が確保されている状態になりますので」
「むむ…内政か…」
「失礼ながら政務の面では第一王子であるファルフー王子の方が優れている、と聞きます。ミャルマー王子ならば優れているがゆえに戦いが終わったその後の事を必ず考えねばなりません」
「…確かに政務の面では兄上に一歩…いや、二歩ほど遅れを取っているかもしれん」
反感を買わないよう褒めながら問題点を挙げると王子は困ったように呟き、俺が内政の重要性について話すと王子が腕を組んで苦虫を噛み潰したような顔で認めた。
「もしミャルマー王子が政務もこなせるようになれば、自分の方から『是非とも協力させて欲しい』と頭を下げてでも頼みに行くかもしれません」
「…そうか。こちらから『手伝って欲しい』と勧誘するのではなく、周りから『手伝わせて欲しい』と願い出るようになれば良いのだな!」
俺が第一王子の時と同じく社交辞令のようなリップサービス的な事を言うと王子は調子に乗ってソファから立ち上がる。
「国民全体の生活が豊かになれば一人一人の兵士としての質も上がり、士気も高まる上に物資も潤沢になりますので、より国防に厚みが増す事に繋がります」
「うむ、その通りだ」
「しかし、言う事は容易いですが実行に移すのは非常に困難です。王となるならばそのような困難に立ち向かい、打ち克つ強さが必要になりますが…」
更に内政の重要性を説くと王子はソファに座った後に理解したように同意するので、ここで俺は現実に戻して器量の話をした。
「…苦手分野である政務の勉強から逃げるな、という事か…分かった。辺境伯を引き入れるために努力しよう」
「時間は限られていますが王子なら問題無いでしょう」
「では失礼する。辺境伯との話で課題が出来てしまったのでな」
王子が目を瞑りながら呟いたかと思えば目を開けて覚悟を決めたように言うので俺が応援するとやる気に満ち溢れたように立ち上がる。
「もうお帰りに?間食としてお菓子を用意しようと思ったのですが…」
「すまない。気持ちは大変ありがたいのだが辺境伯の言葉通り時間が限られているのだ。次の機会を是非とも楽しみにしている」
俺の誘惑する感じの提案に王子は申し訳なさそうな顔で軽く頭を下げて断ると理由を話して急ぐように部屋から出て行く。
「…ほう、第一王子とは違うタイプの努力家だな。いや…アッチの要領が良いだけか」
俺は断られた事に意外に思いつつ第二王子の真剣さに嬉しくなりながら呟いた。
「…やっぱりまた勧誘だったのかい?」
「ん。内政を勉強して出直せって追い返した」
王子が帰って5分後ぐらいにドアがノックされ、女性がドアを開けながら確認してくるので俺は肯定しながら冗談やボケを言うように断った事を告げる。
「…良くもまあ怒られずに言えるものだ」
「最初に良いところを褒めてから問題点を指摘すると反発しづらくなるんだよ。老師や師匠はそういう風に教えてくれてね、いわゆる『褒めて伸ばす』ってやつだ」
「へー。そうなんだ」
「まあ当然ながら人によるけど。手放しで褒められるのが胡散臭くて嫌だ、って人も居るから」
「なるほど。確かに」
女性の微妙な顔をしながらの発言に俺が家庭教師の真似をしてる事を告げると意外そうに返し、俺は経験談による注意点を話すと女性が納得したように言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます