壮年期

壮年期

…それから一週間後。



代行からの『ライツの王女達が帰国する』という手紙を読んで直ぐに自国の第一王位継承権を持つ王子が昼過ぎに拠点に来る、との報告が。



「…聞いたかい?今日王子が来るらしいけど…」


「聞いた。何しに来るんだろうね?」



…俺が報告書を読んでいると嫁の一人である女性が自室に来て確認してくるので、俺は肯定した後に不思議に思いながら返す。



「自分の陣営に引き込もうって腹だったりしてね」


「…うーん…まあありえない事は無い…けど、こうもあからさまにやってくるかな?」


「逆に誰も動いてない今がチャンスだと思ったとか?」


「おお…そんな考えもあるか。ま、会えば分かるでしょ」


「そりゃそうだ」



女性の予想に俺が肯定しつつも否定的に返すと目から鱗の考えを言われたので会うのが若干楽しみになる。





ーーーー





「…団長。王子が来たぞ」



昼飯が終わってお姉さんや女性が出て行くとドアがノックされ、団員が報告してきた。



「オッケー、ありがと」



俺はお礼を言って入口で待つ事にして椅子から立ち上がる。



そして建物の入口で待っていると5分もしない内に豪華な馬車がやって来て停まり、中から第一王子が出てきた。



「お初お目にかかります、ファルフー王子。このような場所にまでお越しいただくとは、誠に光栄でございます」


「お初お目にかかる、クライン辺境伯。突然の訪問にも関わらず歓迎してくれた事に感謝申し上げる」



俺が会釈するように軽く頭を下げながら挨拶すると王子も同じように軽く頭を下げて挨拶を返す。



「ではこちらへ」


「…辺境伯自らが案内を?」


「はい。今はこの本部の中には自分しか居ませんので」



俺の先導に王子が驚いたように聞くので俺はそりゃ直接出迎えてんだから当たり前だろ…と内心馬鹿にするように呆れつつも外には出さずに肯定して理由を告げる。



「…それでご用件はなんでしょうか?事前にお伺いしておりませんが…」



俺は自室に入った後に王子をソファに座らせて用件を尋ねた。



「率直に言おう。我々の側について欲しい」


「勧誘、ですか?」


「そうだ。卿は中立と無派閥を貫こうとしているようだが、私には王になるため…王位を継いだ後に国をより良くするために卿の力が必要なのだ」



王子の直球の要求に俺が予想外の早さに驚きながら聞くと王子は肯定した後に理由を告げる。



「…その言葉を実現させるまで返事は保留させて下さい」


「…つまり協力する気は無い、と?私を試すのか?」



俺が角を立てずに断るように言うと王子は表情は変わらないが雰囲気を若干変えながら確認するような感じで聞いた。



「現国王の陛下でさえ理想を語れど現実では失敗してやらかしています。王子が国のため、という結果を目指して国民を蔑ろにする過程を選んだ場合、自分も関係者であれば非難出来ずに止めるのが難しくなります」


「…卿の信用を得るには『結果を出せ』という事か、了承した。今日のところは大人しく退く。ではいずれまた改めて勧誘するとしよう」


「結果次第では自分の方から『是非とも協力させて欲しい』とお願いに行く事になるかもしれません」


「ははは!ならばそうなるよう努力してみるか」



俺の話を聞いて王子は冷静に意を汲んで今回は諦めてくれるようなので、俺は社交辞令的な感じでリップサービスを言うと王子が気を良くしたように笑う。



「では失礼する。これ以上卿の貴重な時間を奪うわけにはいかないのでな」


「もう帰るのですか?せっかく来たんですからスイーツやデザートでも食べていくと思ったんですが…」


「…そうか。ならお言葉に甘えて頂くしよう。実は侯爵から良く話を聞いていて気にはなっていたのだ」



王子がソファから立ち上がって帰ろうとするので印象を良くするために引き留めると王子は嬉しそうに応じて再びソファに腰掛ける。



「甘いもの、甘さが控えめのもの、甘くないもの、しょっぱい…塩味のもの…と種類がありますがどのようなものが好みですか?」


「甘くないものと塩味のものとは違いがあるのか?」


「はい。甘くないものは砂糖や蜂蜜といった甘味料を使わずに仕上げており、塩味のものはそのままの意味です」



俺の確認に王子が不思議そうな顔で聞き、俺は肯定して違いを教えた。



「ふむ…であれば甘さが控えめなものを頼めるか?」


「かしこまりました。少々お時間をいただきますので、その間に紅茶をどうぞ」



王子が少し考えて選択を伝え、俺は了承した後に飲み物を用意してテーブルの上に置く。



「…こちら、マフィンになります」


「まふぃん?」



空間魔法の施されたポーチから容器を取り出し、その中のお菓子を皿に移してテーブルの上に置くと王子は珍しそうに見る。



「カップケーキに近いものですね。他国の郷土料理らしいです」


「ほう…?」


「似たようなものとして、パウンドケーキもどうぞ」



王子は俺の説明を良く分かってないように聞き流すとナイフとフォークを手に取り、俺は次のお菓子を皿に移してテーブルの上に置く。



「…!これは、なんと美味な…!とても柔らかい食感もさる事ながらこの主張し過ぎない、しかししっかりと感じる甘さが素晴らしい…!」


「ありがとうございます」


「なるほど、侯爵が虜になるわけだ」



王子の驚きながらの食レポに俺は適当に流すようにお礼を言い、王子が納得したように頷いてまた一口マフィンを食べた。

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