子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても大丈夫！

青年期 256

「…まあそんな事はどうでもいいじゃん。それより早く肉ちょうだい」

「はいはい」

女の子は話を切り替えるように催促し、分身の俺はグリーズベアーの肉とスライスしたチーズの入ったボウルを取り出す。

「…うっま！なにこの肉！？しっとりとした食感で柔らかいハイチュウ感あるけど口の中で直ぐに溶けんじゃん！」

「ブルボアの肉を生ハムにすると美味いぞ。今は持ってねぇけど」

「…マジ？ダチョウのジャーキーは一回食べた事あるけど…そう言えば魔物の肉を生で食べるとか他の加工方法なんて聞いた事無いなぁ…」

女の子の感想に分身の俺が他の食べ方を教えると女の子は不思議そうに呟く。

「そもそも魔物の肉って貴重だしな。落とす魔物も決まってるわけだし」

「ダチョウとグリーズベアーの他にもいたっけ？そういやブルボアの肉って言ってたし、ブルボアも落とすの？」

「俺が知ってるだけで鳥、牛、猪、馬、鹿、熊、蛇、兎の肉…ぐらいかな？」

「…いや、めちゃくちゃ多くない？」

分身の俺の言葉に女の子が考えるように聞いてきて、自分で分類した肉の種類を教えると女の子は驚いたように返す。

「ああ…あとマーメイドの魚肉とフォートードの蛙肉もあるぞ」

「えぐっ。マスタークラスの知識量半端ないじゃん。ってかマーメイドって確か海底ダンジョンの奥深くでしか見ないんじゃなかったっけ？しかも出現率低いとか」

分身の俺はふと思い出して補足するように情報を追加して話すと、女の子が勝手に包丁で肉を薄切りにしてパンに乗せて食べながらヒいたように言う。

「みたいだな。俺も一回しか見た事ないし」

「へー、ラスタだっけ？には海底ダンジョンあるんだ。いいなぁ…」

「いや、ねぇけど」

「え？でも一回は見た事あるんでしょ？」

女の子に賛同するように返すと女の子は勘違いしながら羨ましがるので否定すると怪訝そうな顔で確認してくる。

「降魔の時期にたまたま見ただけよ」

「…もしかしてだけど…降魔の時期にもダンジョンに潜るの？」

「当たり前だろ。普段は見れないし会えない魔物と遭遇できる年に一回のフィーバーチャンスなんだから毎日行くわ」

「…もしかしてお前、まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないのか？」

「は？…いや、使いどころおかしくね？本来ダンジョン内で言うべきセリフだろソレ」

分身の俺が訂正すると女の子は信じられない様子で尋ね、肯定して理由を話すと急に女の子の口調が変わり…

分身の俺は一瞬理解出来なかったが直ぐに理解してツッコミを入れるように指摘した。

「分かった？」

「いや分かるだろ。有名だったんだから」

「いやでも降魔の時期にわざわざダンジョン潜るとかどう考えても正気の沙汰じゃないし、死に場所を探してるとか求めてるとか…とりあえず死にに行ってるようにしか思えないんだけど」

嬉しそうな顔で確認する女の子に分身の俺が微妙な顔でまたしてもツッコむように返すと、女の子は若干呆れた様子で急にセリフを言い出した理由を話し出す。

「…まあそう思われても仕方ねぇわな」

「一回潜るだけでも頭イカれてんじゃない？と思うのに毎日ってのもヤバ過ぎでしょ。ソレで今も五体満足とか普通にリアリティ無いから都市伝説レベルの扱いも妥当だって」

「『頭おかしい』ってのは良く言われるから分かるけど…都市伝説レベルってのがよく分からん」

「普通の冒険者なら武器や防具の手入れがあるからダンジョンに潜るのなんて月イチで、隔週でも命知らずの自殺志願者って言われるのに…そんな中で『降魔の時期になると毎日行ってます』なんて誰が信じると思う？」

分身の俺が受け入れるように返すと女の子は更に呆れたように続けるので一部否定すると、女の子に反論するように返された。

「別に信じてもらえなくても事実は事実だからな」

「たとえ事実でも誰も信じなかったらソレは都市伝説とかの噂と同じでしょ」

「…確かに」

分身の俺の適当に流すような発言に女の子がそう返し、分身の俺は納得させられてしまう。

「まあでも降魔の時期にダンジョンに潜る命知らずはあなただけじゃなくて一定数いるからなぁ…」

「俺もダンジョン内で何度助けたか分からんぐらいにはいたし」

「…いくら魔力の関係で魔物素材の品質が高くなるからってわざわざ死にに行く理由が分かんない」

女の子が微妙な顔で思い出すように呟き、分身の俺も賛同するように返すと女の子は理解できない…と言った様子で言う。

「『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってやつじゃね？」

「それを言うなら『地獄に落ちて骨を拾う』みたいなものだよ」

「…なんだそれ？」

「あえて危険な事をしても成果はゼロ…『骨折り損のくたびれ儲け』みたいなことわざ」

「へー、初めて聞いた」

分身の俺のことわざを挙げての予想に女の子は訂正するように別のことわざっぽい言葉を挙げ…

分身の俺が不思議に思いながら聞くと女の子が別の類似することわざを例えに出して分かりやすく説明するので、分身の俺は意外に思いながら返す。