青年期 261

「…いや、普通の肉とは舌触りとか味が明らかに違うんだから一口食べれば分かるでしょ」


「…ホントか?ソッチにあげた時、魔物の肉の種類まで分かってた?」


「分かってたし!あの時はあえて言わなかっただけで…ブルボアの肉だって分かってました」



ツッコミを入れるような指摘をしてくる女の子に分身の俺が疑いの目を向けながら確認すると何故か強気で返して盛大に答えを外した。



「いや、俺今はグリーズベアーの肉しか持ってねーぞ」


「えっ!?……えへっ」



分身の俺が否定すると女の子は驚いた後に目を泳がせ、舌を少し出して笑って誤魔化そうとする。



「まあ魔物の肉ってどれもこれも美味いからな…味で何の魔物か分かるのはそう居ないんじゃないか?」


「だ、だよね!? 普通は食べる機会無いから分からないよね?」


「俺は食べ慣れてても違いがあんま分かんねぇ。弟と妹は直ぐに分かるみたいだけど」



分身の俺のフォローに女の子がさっきと違う事を言い出すが、指摘したらまた逆ギレされそうなので流すように話した。



「え、兄弟いるんだ」


「おう。下に弟と妹がな」


「へー、長男だったんだ…どうりで落ち着きがあると思った…」


「ソッチは?」


「さあ?分かんない」



女の子が意外そうに聞くので肯定すると納得したように返し、分身の俺が尋ねると女の子は首を傾げて返す。



「…分からない?」


「私、戦災孤児だったから。両親の顔も知らないし覚えてない。だから兄弟がいるかも分かんない」


「…中々大変だったんだな」


「中々どころじゃないんですけど?最初に『後ろ盾無い』って言ったじゃん」



分身の俺のそんなわけあるか、と思いながらの確認に女の子は世間話でもするような軽さで身の上話をしてくれ…



分身の俺が気まずく思いながら返すと女の子が反論するように言う。



「いや…まさかそんな生い立ちだったとは…」


「だからコッチは形振り構ってられないの。分かる?」


「それとこれとはまた別じゃね?どんな境遇であれ決められたルールを破るのはイカンだろ」


「…チッ…真面目君が…もうちょっとだったのに…」


「いやいやおかしいだろ」



分身の俺の気遣うような呟きに女の子がルール違反である夜襲や兵站狙いを正当化するように言い、分身の俺が反論すると舌打ちして呟くので分身の俺は思わずツッコむ。



「…ご馳走様です。とても美味…美味しかったです」


「うむ。今までに食べた事も無いような美味さだったな」


「ええ。まさかこのような物を作れるとは…人は見た目では分からないものです」



少女が三枚のピザパンを食べ終え、ナプキンで上品に口を拭きながら感想の言い方を変えると…



青年も同意し、おじさんは同意しつつも何故かディスるような事を言う。



「ではデザートとして…フレンチトーストと小倉トーストを」


「…ほう。コレがフレンチトーストとな?アズマ中将が以前作ったのと見た目が違う気がするのだが…」


「…今回のはケーキ風に仕上げており、私が以前お出しした物に一工夫加えた品になります」



分身の俺がデザートの乗った紙皿を二枚テーブルの上に置くとおじさんが不思議そうに呟き、女の子は解説するように普通の品との違いを話す。



「なるほど…同じ料理でも国によって違いが出ると言う事か…」



するとおじさんは納得したように未使用のフォークを手に取る。



「美味しい!クリームのふわふわ感とパンのサクッとしてふわっとした食感が素晴らしく、フルーツの酸味と混ざって甘酸っぱい味がまた…」


「だって」


「ケーキ風ならフルーツは欠かせないでしょ」



男の食レポを聞いて分身の俺が振ると女の子は得意気に当然といった感じで返した。



「でもホントならイチゴを乗せたかったんだけどなぁ…」


「まあ無いものはしょうがない」


「ソッチの国にも無いの?」



女の子は残念そうに呟いた後に分身の俺に確認するように尋ねる。



「売ってるトコは無いな。でもどっかの国の市場で似たようなのを見た事はあるが…どこだっけな…?」


「あ、一応モノ自体はあるんだ」


「確かソコでは『ストゥルベルー』って名前だったはず」


「…ほぼほぼストロベリーじゃん」



分身の俺の返答に女の子は意外そうに返し、名前だけでも教えるとツッコミを入れるように言う。



「…この黒いのはなんだ?」


「「アンコです」」


「「「あんこ?」」」



青年が小倉トーストのアンコを見ながら尋ねると分身の俺と女の子の返答が被り、男とおじさんと少女の不思議そうな反応も被った。



「分かりやすく言うなら豆を潰して作ったジャムみたいなものですね」


「粒あんやこし餡などの種類がありますが…今回使われているのはどうやらこし餡のようですね」


「ほう…?初めて見るが…さて、味は…」



分身の俺の簡単な説明に女の子が補足するように言い、青年はあまり理解しきれてないかのように呟いてナイフとフォークで切り分ける。



「…美味い!」


「こんなものが…!」


「このジャムの甘味とバターの塩味のバランスが素晴らしい…!」


「バターの塩味でジャムの甘味が引き立てられていてとても美味しいです!」


「まあ塩キャラメルとかソルトバニラみたいなもんだし」


「そりゃ間違いなく美味いに決まってる」



青年やおじさん、少女が舌鼓を打っていると男は食レポするように感想を言ってくるので、分身の俺が他のスイーツに例えて返したら女の子が頷きながら同意した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る