青年期 260
「…じゃあ私とは違うんだ…私は5歳だったか6歳だったかの時に頭を打って思い出した」
「へー。俺は5歳の時に夢を見たのが最初だったな」
「…夢?」
女の子が比較するように呟いて自分の事を話し出すので分身の俺も覚えてる事を話すと女の子は不思議そうに聞く。
「そうそう。それからたまにそんな夢を見るようになって、ふとした拍子になんか色んな事を思い出すようになった」
「へー…じゃあ『転生』っていっても『輪廻転生』とか『前世の記憶』とかそっち系なんだ…」
分身の俺の肯定に女の子は意外そうに呟いて考えながら返す。
「まあでも他にも俺らと似たようなのが居るとしたら、何かしらの達人の経験を引き継いだ奴とかいてもおかしくないんじゃね?」
「何かしらの達人?」
「剣とか魔法、武術だったり…あと料理の達人とか?」
「…剣の達人かぁ…『剣聖』とか『賢者』とかだったらめちゃくちゃ強そう…」
分身の俺が軽い感じで予想を話すと女の子が不思議そうに尋ね、適当に候補を挙げると女の子は嫌そうな顔で呟いた。
「なにも他の奴らが俺らと同じ世界、同じ時代の前世持ちとは限らんしな」
「…確かに。薩摩の時代からの転生者なんてヤバそう」
「鎌倉もヤバいだろ。戦国時代でワンチャンか?」
「…でも話が通じない戦闘狂とかだったらアッサリ死にそうじゃない?お偉いさんに喧嘩売って死刑とか、戦場に突っ込んで行って真っ先に死ぬとか」
分身の俺の視野を広げるような発言に女の子は同意しながら予想を言い、分身の俺も賛同するように返すと女の子が仮定や想定の話をする。
「…時代によっては『誉れが』って事でありえる。俺も最初に夜襲や兵站狙いを食らった時に相手は戦国とか三国の武将かと思ったし」
「うっ…」
分身の俺が同意してこの前の事を引き合いに出すと女の子は気まずそうに呟いて盛り付けの手が止まった。
「まあ今の世界を見て分かる通り、時代というか考え方が違う。あと文明のレベルも違う」
「そ、そうだけど…みんな中世みたいな戦い方してるし、簡単に勝てるからやるしか無いじゃん?」
「俺は簡単に勝てる戦法や戦術があっても戦争のルールに反するから今まで使わなかったぞ?そもそもただ勝つだけじゃ人がついて来なくなるしな」
「ぐっ…!」
分身の俺の諭すような説教に女の子が苦し紛れの反論をするが自分の例を挙げて理由を話すと、女の子は痛い所を突かれたかのような反応をする。
「…おっと。終わった?」
「ん」
分身の俺は最後のピザパンが焼け終わったのでデザートの盛り付けをしていた女の子に確認すると肯定して皿を渡された。
「…じゃあ持って行くか」
「ん」
その皿ごと容器に入れ、空間魔法の施されたポーチにしまった後に後片付けをして食事の提供を促すと女の子は短い返事で肯定する。
ーーーーー
「…来たか」
「…お待たせしました。まずはこちら…3種のピザパンでございます」
…分身の俺が部屋に戻ると青年と少女が話し合いをしていたが、青年が分身の俺に気づいて声をかけると一旦話し合いが止まるので…
分身の俺は空間魔法の施されたポーチから容器を取り出し、料理の乗った皿をテーブルの上に置きながら料理名を告げた。
「…ほう?ピザパンとな?」
「ピザとはピッツァの事です」
「あ、一応ピッツァとかあるんだ」
青年が紙皿の上に乗ったパンを珍しそうに見ながら呟くと女の子が解説するので分身の俺は意外に思いながら言う。
「…っ!?」
「…!これは…!」
「なんという濃厚な味…!」
「…ゼルハイトさん、料理の腕も相当なものですね!凄い…!」
青年やおじさん…少女がナイフやフォークで切り分けながら食べて驚く中、男は手掴みが一気に半分以上をガブっと食べるとやっぱり驚きながら褒めてくる。
「いやー、喜んでもらえて良かったよ」
「私もマヨネーズ作ったんですけど?」
「ああ、助かったよ。その礼に最初に食べさせてやっただろ?」
「…アレ味見じゃなかったの?」
分身の俺の適当な返答に女の子が手柄を主張するように言うので、またしても適当にお礼を言って対価の話をすると若干驚いたように聞いてきた。
「味見だったら普通一口じゃん。一人前食べる味見なんてねーだろ」
「うっ…確かに」
分身の俺の若干呆れながらのツッコミを入れるような指摘に女の子は納得したように呟く。
「…これは…!一枚一枚具材が違うんですか!?」
「そうそう。一枚は薄切りで照り焼きにして、もう一枚はちょっと厚めに切って炭火焼きにした」
「なるほど…見た目が少し違うとは思いましたが…」
男が二枚目を食べて驚きながら確認し、分身の俺は肯定して具材の違いを説明すると…
少女は納得して最初のパンがまだ半分ほど残っているのに他のパンにフォークを刺す。
「…この味は…まさかグリーズベアーの肉では?」
「おおー、味覚が鋭いね。生でならまだしも調理した肉の味を分かるなんて凄い」
男の確認に分身の俺はまるでエーデルやリーゼのごとき上等な舌だな…と思いながら肯定して褒める。
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