青年期 263

「…この料理もとても美味しいですね。肉の旨みやスパイスもさることながら、このソースがまた…」


「肉の塊だけでも美味しいですが、ソースを付けて食べる事で味が更に…」


「…ソッチの作ったソースがうま過ぎて私の作ったハンバーグの評価が霞むんだけど」



少女と男がハンバーグを食べながら感想を言うと何故か女の子は納得いかなそうに対抗心を燃やすかのように言ってくる。



「そりゃ一から手作りだからな。料理ってのは手間をかければかける程美味くなるものよ」


「そんな当たり前の事いちいち言われなくても分かるっての」



分身の俺がそう返すと女の子は拗ねたように返す。



「まあまあ、ソースはいっぱい作ってやったんだからそんな不機嫌になるなよ」


「…男のクセに女の私より料理うまいとかムカつく」


「ソッチも勉強すれば直ぐに俺を追い越せるって。今からでも遅くは無いと思うぞ?」


「本当に?だったら暇な時に料理の本でも読んでみようかな…」



分身の俺の宥めるような発言に女の子が反発するように意味不明な事を言い出し、 分身の俺が適当に煽てると女の子は考えながら呟く。



「んで?そういやデザートは?作ってるようには見えなかったけど」


「え。デザートとかいる?」


「いるに決まってんだろ。食事の締めが無くてどうすんだよ」



朝食でもデザートがあっただろうが。と、分身の俺は不思議そうに聞いてきた女の子に呆れながら告げた。



「う…おやつでしか作ってなかったから気にした事無かった…」


「勉強不足だな。しょうがない…有り合わせだが…アンコサンドでも用意するか」


「『アンコサンド』?」



女の子の気まずそうな呟きに分身の俺は指摘するように言い、空間魔法の施されたポーチからボウルを三つ取り出すと女の子が不思議そうに尋ねる。



「まずこのボウルの中に入ってるクッキーを一枚取る」


「…うまっ!サクサクしてて口の中で直ぐに溶けるとか高そうなやつ!」



分身の俺が説明するように作り方を話すと女の子はクッキーを一枚取ると直ぐに食べて驚きながら感想を言う。



「次にこのボウルからアンコを掬ってクッキーに付けて、このボウルのホイップクリームをアンコの上に乗せる。後はもう一枚のクッキーで挟んで完成」


「…うまっ!!和洋折衷じゃん!」



分身の俺の説明を聞いて女の子は同じ手順を踏んで作った後に味見して絶賛した。



「クッキーはこういう時のために常備するようにしててな。小倉トーストの材料が残ってたからその応用ってワケだ」


「…!美味しい!」


「クッキーのサクサク感とアンコとホイップクリームの食感も面白いですね!」


「ほら。自分で食ってばかりいないで陛下や元帥のを作って差し上げろ」


「…あ、うん」



分身の俺が話しながらも作った側から少女や男の新しい紙皿に置いて行くと、ソレを食べて褒めてくれ…



女の子はクッキーにアンコだけやホイップクリームだけ、と言ったバリエーションを試しながら自分一人で食べているので…分身の俺がそう促すと、青年やおじさんを見て気まずそうな表情になって作業を開始する。



「ほう!これは…!」


「今までに食べた事が無いような味ですな!このクッキーだけでもアズマ中将の物よりも…」


「…どうせ魔物素材でも使ってるんでしょ?」


「いや?このクッキーにはまだ使ってない。普通にただの技術力」



デザートを食べた青年が驚くとおじさんは女の子の作った物と比較するように呟き、女の子が不機嫌そうに尋ねるので分身の俺は否定した。



「じゃあもうプロじゃん。そりゃ私みたいな家庭料理のプロ程度じゃマジもんのプロには勝てるわけないって」


「勉強してるか否かの差だけだろ?この程度なら妹でも余裕で大量に作れるレベルだし」


「うわ、コレを『この程度』とかめちゃくちゃ嫌味」



女の子のよく分からん敗北宣言に分身の俺が言うほどか?と思いながら返すと女の子が文句を言う。



「おっと。素人にはこのレベルの話は難しかったかな?」


「うっざ」



分身の俺がボケるように冗談を言うも女の子はツッコむ事もなく冷たい目で返す。



「…てかじゃあこのクッキーに魔物素材の小麦を使ったらどうなるの?」


「あんまり変わらん」


「え?」


「あくまで上質な素材ってだけだからクッキーを作れる子供でも簡単に俺と同じ物が作れるようになるぐらいで、普通に作れる俺が使ってもあんまり意味が無い」


「…パンはあんなにふわふわになったのに?」



女の子のふとした疑問に分身の俺が答えるも理解できないような顔をされ…



なるべく分かりやすいように説明したが女の子は納得いかないように聞いてきた。



「パンとクッキーではまた別じゃね?ってか魔物の肉だってA5ランクの最上級の肉を簡単に用意出来る環境だったらわざわざ使う事もないだろ」


「うーん…?確かに…?」


「魔物の肉でシャリアピンステーキを作ったり、ハチミツやパイナップル果汁に漬け込んでも意味が無いのと同じ事だと思うぞ」


「……?…あー、これ以上柔らかくならないって事ね。なるほど」



分身の俺が例え話をすると女の子はイマイチ理解出来てないように呟き、例を挙げると少し考えて納得したような反応をする。

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