青年期 336

…その翌日。



女の子と魚肉の話をしたせいで、我慢できず…いても立ってもいられなくなったので修行日の前日にも関わらず分身をダンジョンへと行かせる事に。



「…そういえば明日も来るんですか?」



一緒について来た分身のお姉さんはダンジョンの中に入りながらふとした疑問を尋ねてくる。



「ん。今日はどちらかといえばいつもの修行じゃなく、技術力を磨くために来たようなもんだし」


「技術力…と言う事は何か新しい技を?」


「そうそう。変化魔法の使い手と戦って閃いた。『魔物化した使い手を戻せるんなら、魔物にも変化魔法をかけられるのでは?』って」


「…相変わらずもの凄い発想力ですね…『人間が魔物に変化して戦う術』である変化魔法を魔物にかけるだなんて…普通なら絶対に思いつきませんよ」



分身の俺の肯定しての説明に分身のお姉さんが確認するように聞くのでダンジョンに来た理由を話すと、分身のお姉さんは驚愕しながらも慣れたような感じで笑う。



「といっても正直人間と魔物では魔力の質とか波長とか色々違いがあるから出来るとは思ってないけど…それでもやってみたいじゃん?」


「坊ちゃんなら出来るようになりますよ」



分身の俺は理論上や現実的に考えた上で自分の閃きや発想を否定的に言いながらも好奇心やチャレンジ精神を抑え切れない感じの感情論を持ち出して笑うと、分身のお姉さんは応援するように肯定的に返す。



「あ、だから初心者用のダンジョンなんですね」


「そういうこと。まずは実験なんだから一番弱いところから始める」


「あ」



分身のお姉さんが気づいたように言い、分身の俺が肯定すると早速ゴブリンを発見した。



「…やっぱり無理か…?」


「ギー!」



ゴブリンに変化魔法をかけようとするが魔法自体が発動してる感触が無く、魔力が減っている様子も無いので分身の俺はゴブリンの攻撃を棒立ちで受けながら色んな方法を試してみる。



「…やっぱり無理ですか?」



5分ほど経ってもゴブリンに変化は無く、分身のお姉さんが不思議そうに確認してきた。



「このままじゃ無理かも」


「ギッ…!」



なので分身の俺は遠隔発動を諦めて荒技として直接変化魔法をかけるためにゴブリンに貫手を突っ込んで核を掴んで変化魔法を使う。



「あ、やっぱ無理だ」



が、やはり魔法は発動せず…ゴブリンの姿は一切変わらない。



「…このままでやろう、ってのが甘かったか…どうやら自分の技術力を過信し過ぎたみたいだな」


「ギッ…!」



分身の俺はため息を吐いて戒めるように自省しながら魔石抜きをしてゴブリンを倒す。



「やはり坊ちゃんでも難しいですか?」


「いやいや、俺は別に天才ってわけじゃないんだからそりゃなんでも一発で上手くいくわけないじゃん」



分身のお姉さんの弄るような笑いながらの確認に分身の俺はツッコミを入れるように反論する。



「発想力は群を抜いて、常人がとても及びにつかないような遥か上だと思いますが…」


「どんなに凄いアイディアを思いついても実行出来て形に出来ないとただの空想だよ」



分身のお姉さんは否定せずに長所を抜き出して褒めてくるが分身の俺は鼻で笑うように否定的に返す。



「…あ。いました」


「…さて…」



…少し歩いたところで分身のお姉さんがゴブリンを発見し、分身の俺はゴブリンの魔石を握り潰して魔力の回復にあてながら呟く。



「…ああ…もったいない……っ!?」


「お。出来た」



分身のお姉さんは残念そうに呟くとゴブリンの姿からスライムの姿になった魔物を見て驚愕した。



「やっぱり魔石を使うと魔力の質や波長が変わるみたいだね。いや、この場合は先生にも変わらず変化魔法は使えるみたいだから『幅が広がる』って表現に近いか…」


「…結局すぐに出来てしまうんですね…」



分身の俺が確定した情報を話して言葉のチョイスについて考えながら呟くと…



分身のお姉さんは直ぐに平静を取り戻してなんとも言えないような顔になる。



「んじゃ、次の実験として…ん?」


「どうかしたんですか?」



分身の俺が目の前の魔物に変化と解除を繰り返して何回目で魔物化するのかを試そうとしたが、既に目の前の魔物には変化魔法が維持されていない状態なので不思議に思って呟くと分身のお姉さんが尋ねてきた。



「…なんか魔物に変化魔法を使った場合は一発で魔物化するみたい」


「え」


「元々が魔物だからか…?」


「…坊ちゃんが高速で変化と解除を繰り返したのではなくて、ですか?」


「流石の俺も他人を4回変化させて魔物化させるには一秒ぐらいはかかるよ。一瞬じゃ無理」


「あ、そうでした…」



分身の俺の意外に思いながらの返答に分身のお姉さんが驚いて固まるので予想を呟くと分身のお姉さんは確認するように尋ね、否定して返すと納得したように引き下がる。



「…まあ魔物化の回数を調べる実験はこれからもやるとして…問題は…」



分身の俺は次の実験に移るように呟いてスライム姿の魔物に貫手を突っ込んで魔石抜きをした。



「…さて。コレがスライムの魔石のままなのか、時間が経てばゴブリンの魔石に戻るのか…」


「…ちょっと貸して下さい」


「はい」


「……スライムの魔石ですね。どこからどう見ても…元はゴブリンだったはずなのに…」



分身の俺が魔石を持ったまま確認するために見てると分身のお姉さんも興味を持ったらしく…



普通に渡すと分身のお姉さんは魔石をじっくりと調べるように確認した後に断定して不思議そうに呟く。

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