壮年期 23

「ん?知り合いかい?」


「まあ一応は」


「珍しいですね。こんな所で、しかも今みたいなタイミングで会うなんて」



近くに居た分身の女性の問いに分身の俺が肯定すると分身のお姉さんは意外そうに言う。



「確かに。俺もまだこんな所にいるなんて思ってなかったからなぁ…」


「辺境伯殿達はなぜココに?」


「同盟国、って事で援軍を要請されてね。それで」


「なるほど。このアーデンとラスタは同盟国だったのか…」



分身の俺が賛同しながら返すと帝国兵が疑問を尋ね、簡単に答えると納得した後に意外そうに呟く。



「そういやどの国と争ってるかは聞いた気はするけど覚えてないな…その『ヴェルヘルム』って国と戦争中?」


「いえ。…いえ、『ヴェルヘルム』とも戦時中…とも言えなくもないですね…」



分身の俺の世間話的な感じでの問いに帝国兵は一旦否定した後に訂正するかのように考えながら微妙な言い回しで呟く。



「セリィアと一時的に協力体制を結んでいますので状況次第では侵攻に踏み切るかもしれません」


「なるほど、今は動向を見守ってる最中って事か…」


「我々としては早期に決断してもらい、侵攻に踏み切ってくれた方がありがたいのですが」


「封鎖が解かれない事には移動もままならないからなぁ」



帝国兵は簡単に現状を説明し、国境の封鎖を解いて欲しい考えを告げるので分身の俺も賛同するように返す。



「とはいえ帰還したら報告書の作成や部隊の訓練等で忙しくなるでしょうからこの休暇期間が長引く分には嬉しい限りですけども」


「ありゃ、ついに『休暇』って言っちゃった」


「おっと、今のは聞かない事にして下さい。では情報収集の任務に戻りますので、これで」


「ん。またね」



帝国兵の発言に分身の俺が弄るように言うと笑って返し、挨拶すると歩いて行く。



「あんたとの会話を聞いた限りこの国の人ではなさそうだったけど…どこの人なんだい?」


「帝国の兵士だよ。ほら、この前魔法協会の本部がある大公国に攻めて来た」


「「えっ!?」」



分身の女性の疑問に分身の俺が軽い感じで答えると分身のお姉さんと一緒に驚いた。



「今の人は大佐だったか中佐だったか…とりあえず佐官クラスの、軍の中では結構なお偉いさんだったりする」


「帝国の兵が…なんでこんなところに?」


「帰還中に足止めくらったんだと。ココの隣国のヴェルヘルムから飛行船を乗り継いで帰ろうとしたのに、そのヴェルヘルムとの国境が封鎖されてたって」


「「ああ、なるほど」」



分身の俺が思い出すように話すと分身の女性が不思議そうに聞き、さっき聞いた事を教えると分身のお姉さんと同時に納得する。




…翌日。




「あ。本当に居た」


「ん?…お」



朝から市場を歩いていると聞き覚えのある声が聞こえ、振り返るとそこには帝国の女の子が。



「援軍として派遣されて来たんだって?」


「そーそー。観光にちょうど良いかな、って」


「観光って…前線に行かなくていいの?」



女の子の問いに肯定して要請を受けた理由を話すと若干呆れたように返した。



「そんな急がなくて良くね?」


「…帝国の奴が何の用だい?」



分身の俺が適当な感じで返すと分身の女性が警戒した様子バリバリの態度で尋ね…



「…誰?」


「嫁」


「嫁!?こんな所にまで連れて来てんの!?」



女の子は不思議そうな感じで聞いてくるので関係性を話すと驚きながら分身の女性を見る。



「一応指揮官として有能だから居るとありがたいし」


「…この人が嫁って事は…この子も?」


「おう」



分身の俺の理由を聞いて女の子が分身のお姉さんを見て確認するので肯定した。



「えーと、初めまして?ちゃんと会うのは初めて、だよね?」


「…ああ。大公国で一度見ているが」


「私はラスタの拠点内でも遠目ですが一度見た事があります」



女の子が挨拶して確認すると分身の二人は警戒した様子のまま答える。



「…え、なんで私こんなに警戒されてんの…?もしかしてソッチを狙ってるとか思われてる…?」


「いや、普通にこの前の大公国侵攻の件だろ。ソッチが前線司令だったし」


「あー…そっか。根に持たれてるのか…ソッチがめちゃくちゃ友好的なもんだから感覚がちょっとおかしくなってるかも…」



女の子は分身の俺を引き寄せて耳打ちするように小声で疑問を尋ね、分身の二人に警戒されてる理由を予想して返すと女の子が納得して理解したように微妙な顔で呟く。



「だって俺は魔法協会所属じゃないから関係無いしな」


「って事はこの二人は魔法協会所属なんだ…その節はどうも?」


「いやその言い方はおかしいだろ」



分身の俺が人事のように言うと女の子はちょっと困ったように皮肉だか嫌味だかと受け取られ兼ねないワードチョイスをするので、分身の俺は思わずツッコむ。



「だってあの時は皇帝陛下の命に従っただけで別に私が悪いわけじゃないんだし、謝るのもおかしくない?」


「確かに」


「だがあの時の恥知らずな方法を実際に指示、実行したのはあんただろう?」



女の子の若干困惑しながらの正当性を主張するかの言い訳に分身の俺が賛同すると、分身の女性は夜襲や兵站狙いを非難するように指摘した。



「『恥知らず』?何言ってんの?効率的で効果的な戦術の一つでしょ。戦争の基本でもある孫子の兵法すら知らないような原始人にはこのレベルの話は少し難しかったかな?」


「…なんだって?」



女の子が反発するように喧嘩腰で反論して馬鹿にすると、分身の女性は言ってる言葉は理解出来なくても罵倒されてる事は分かったらしくイラついた喧嘩腰で返す。

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