青年期 60

…それから一時間もしない内に敵兵達を倒したのか傭兵団のみんなが戻ってくる。



「お疲れー。怪我人は?」


「俺のところは居ない」


「僕のところも」


「かすり傷程度の軽傷者が3人だな」


「俺の部隊もかすり傷程度だが軽傷者が8名いる」



俺が馬車から降りて労いの言葉をかけながら確認すると隊長達がそれぞれ報告を始めた。



「…じゃあ治療もあるから一時間ぐらい休憩してから出発しようか」


「やったー!休憩だー!」


「…そんなに疲れるほどだったか?」


「いや、そうでもないと思う」


「敵は陣形の維持すらままならない状態だったから優勢過ぎて少し拍子抜けだったな」



俺の指示に隊長の一人が喜び、他の隊長達は不思議そうな反応をする。



「しかしたった一人で突っ込んだ挙句にああも敵陣をかき乱せるとは…一体どんな方法を使ったんだ?」


「あ、確かに。なんか馬の速さが異常だったよね?」


「…見ていた感じではとても普通の馬が出せるような速度ではなかったな」


「それに敵陣のど真ん中を縦断して往復してなかった?」


「遠目からだったが、敵兵達を弾き飛ばしてるようにも見えたが…」



一人の隊長の笑いながらの問いに他の隊長達も興味を持ったかのように聞いてきた。



「ふっふっふ…これも馬術の為せる技だよ。『人馬一体』ってヤツで、馬の呼吸と動きに合わせて武器を振るう事で威力が何倍にも上がる」


「なるほど…『人馬一体』か…」


「確かに馬術の凄い人は素人と同じ馬に乗っても出せる速度が上がったりや移動距離が長くなる、って聞いた事があるけど…」


「…馬術の技術も持っていたのか…意外だ」



俺が得意げにそれっぽい事を言うと隊長達はみんな納得したように信じる。



「団長、捕虜はどこに収容しましょうか?」


「…捕虜?」


「あ、そう言えば報告忘れてた…」


「…随分と余裕があったのでな…敵の指揮官と、部隊を率いてた者を何人か捕まえておいた」



すると団員の一人が確認をしてくるので俺が不思議に思いながら聞くと隊長の一人が気まずそうに呟き、別の隊長が報告してきた。



「へー、凄いね。じゃあこれで追加報酬は確実だし、指揮官とかだったら相手側から身代金とか貰えちゃうかな?」



貴族とかお偉いさんならいっぱい貰えるかも…と、俺は悪い顔で笑いながら呟く。



「…君、たまに悪どい面が出てくるよね?」


「…傭兵団の運営に金がかかるのは承知しているが…」


「大丈夫大丈夫。身代金が貰えなかったとしても適当に解放すれば良いんだから」


「まあ、団長である君の判断に任せるけど…」


「お前さんなら金のためにと人質に危害を加える事も無いだろうし…俺たちも報酬が少しでも増えれば儲けもの、になるからな」



若干ヒいたような隊長達に俺が楽観的に言うと、やはり日頃の行いゆえか割と肯定的に返してくれる。





ーーーーー





「じゃあそろそろ出発しようか」


「そうだね」


「分かった。出発準備!」



一時間の休憩と負傷者の治療が終わり、目的地へ向けての移動を再開した。



「…何も無ければ明日には着くらしいけど…」


「盗賊の襲撃といい、敵軍との遭遇戦といい…この国ってあんまり治安が良さそうじゃないですね」



ベッドの上に寝っ転がっての俺の呟きにお姉さんは本を取り出して不安そうに返す。



「…確かに。盗賊に襲われるなんて良く考えたら初めてかも」


「まあ私達の国の場合は坊ちゃんが傭兵団を結成した当初から有名だった、って事もありますけど…」


「他の国では全くの無名だ、って事だよね。それでも襲うか?普通…って思うけど」



俺が少し考えて同意するとお姉さんが故郷で襲われなかった理由を予想するので、俺は盗賊の頭の悪さに呆れながら返す。



「そうですよね。普通なら見てすぐに商人達とは違うって分かるハズなんですよ」


「腕に自信があった…にしては弱かったし、すぐに逃げようとしてたし…」


「やっぱり内戦が影響してるんですかね?」



お姉さんの同意しながらの発言に俺が不思議に思いながら呟くと予想を話す。



「かもね。まあ内戦に参加するついでにこの国の内情を調べて辺境伯にでも報告すれば防衛も少しは楽になるでしょ」


「…大丈夫ですか?」


「コッチもその危険性ぐらいは考慮して依頼してるだろうから大丈夫大丈夫。危なかったら逃げればいいし」


「…そうですね」



お姉さんはちょっと不安そうに心配した様子で確認するも俺の楽観的な返答を聞いて安心したかのように笑う。

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