少年期 11

…それから数日後。



「ていっ!ていっ!」


「植物の中には…」



いつも通り俺が部位鍛錬として素手で岩を思いっきり殴りながらおじさんの講義を聞いていると…



「…ん?」


「すみません。こちらにアーシェ様がいらっしゃるとお聞きしたのですが…」



こんな所に珍しく俺達以外に人が来た…かと思えば灰色のフードを被った集団の一人、先頭の青年っぽい声の人がお姉さんを訪ねてくる。



「あ、はい。アーシェは私です」


「おお!貴女様が…!申し遅れました、僕はシャージャーと申します。魔法協会の者です」


「あ…!えっ!?本当に来たんですか!?」



お姉さんが名乗ると青年はフードを外して自己紹介を始め、お姉さんはソレを聞いて驚く。



「お忙しい上に『秘匿事項』と書かれてましたので、こうして我々が訪ねた次第であります」


「それで?手紙に書かれていた事は本当なのですか?」


「手紙と同時に魔法協会に13個もの魔石が一斉売却されています。疑うのは野暮では?」



青年が胸に手を当てて会釈するように頭を軽く下げながら言うと集団の一人が確認するように聞き、他の人が反論するように返す。



「…どうかこれから私が話す方法は決して他には話さず、絶対に試そうとしないで下さい。どこからか漏れて下手に広まれば犠牲者が大量に出る事態に繋がりかねます」


「…分かりました。ココにいる人達は全員立場があるお方ばかり…魔法協会の名において口の堅さは保証します」



お姉さんの前置きに青年は後ろの人達を見ながら肯定した。



「では。魔物を絞め技…首を絞めて倒すか、核である心臓を抜き取る…という方法で倒せば魔石が手に入ります」


「ばかな!首を絞めるだと!?」


「どうやって絞めるというんだ!」


「心臓を抜き取る…だと!?そんな事が出来るのなら誰も苦労はせんわ!」


「そもそもどうやって抜き取るんだ!そんな馬鹿げた方法なぞ恥ずかしくてとても他人に話せるわけないだろう!」



お姉さんが方法を教えてあげたにも関わらず…灰色のフードの集団は反感を持ったかのようにザワザワと騒ぎ出す。



「お静かに!みなさま!お静かにお願いします!」



流石にその様子に見かねた男が口を開こうとすると青年が声を張って集団を黙らせた。



「アーシェ様の言う事に一片足りとも嘘偽りはございません。例え信じられなくともソレは個人の判断でございます…ですが、もし万が一にでもこの情報が漏れてしまえば…」



青年はお姉さんの肩を持つような事を言うとまるで脅すかのように途中で言葉を切る。



「…確かにこんな馬鹿げた事を実際にやるとなると、間違いなく大量の犠牲者が出るだろう」


「アーシェ様。お手紙にあった『グリーズベアー』や『ミノタウロス』の魔石を拝見させてもらう事は可能でしょうか?」



灰色のフードの集団の一人が納得したように言うと青年はお願いするように確認してきた。



「はい。…こちらです」


「「「おお…!」」」


「少々お貸しいただけないでしょうか?」


「どうぞ」


「「「これが…!!」」」



お姉さんが魔石を二つ取り出すと集団の人達がザワザワし始め、青年に魔石を渡すと集団の人達の手に渡り…みんな驚きながら確認する。



「…貴重な体験をさせていただき、誠に感謝申し上げます。ありがとうございました」


「い、いえ…」



青年は二つの魔石をお姉さんに返すと頭を下げてお礼を言う。



「…その魔石も、さきほどの馬鹿げた方法で?」


「はい。心臓を抜き取る方法で手に入れました」


「どうやってだ?どうやってミノタウロスやグリーズベアーから心臓を抜き取った?その方法を是非聞かせてくれ!」



集団の一人の問いにお姉さんが肯定すると別の人が興奮した様子で聞くので…



「手をこうして…魔物に指を突き刺して?そのまま心臓を掴んで…ですかね?私は見ただけで、実際には出来ないので…見た感じ多分こんな感じでした」



お姉さんは身振り手振りで俺の貫手の真似をしながら説明した。



「手を突き刺すだと?そんな事が出来るわけが…!」


「良くて突き指、普通なら骨折だ!最悪指が反対方向に折れ曲がるぞ!」


「これは…確かに手紙に秘匿事項と書かれたのも頷ける理由ですね」


「こんなくだらない馬鹿げた事をすればあっという間に犠牲者の山だ。それも絞め殺そうとして逆に返り討ちに遭う様が目に浮かぶ!」



灰色のフードの集団は信じられないかのように言いながらお姉さんの判断に同意する。



「…アーシェ様。本日はお忙しい中、非常に貴重な情報を提供して下さり私は今、猛烈に感激しております。言葉に尽くしがたい限りですが再び感謝を申し上げます。今後とも、もし魔石が手に入りましたら是非我々魔法協会へとよろしくお願いします」


「うむ、高値で買わせてもらおう」


「どんなに数を揃えようとも値崩れはさせん!だから是非ウチに!」



青年が深く頭を下げながら感謝の言葉を言って最後に宣伝をしたら集団の人達もそうだ!そうだ!と、ここぞとばかりに推してきた。



「では、お元気で」


「あ、はい」



灰色のフードの集団は青年の挨拶とともに街の方へと向かっていく。



「…アレが噂に聞く魔法協会か…なぜ知らせた?あのような反応は予想できただろう?」


「隠してもいずれバレる事ですし、変に探られるよりはいっそのこと馬鹿にされても教えた方がいいかな、と」


「…確かに。正しい判断だ、素晴らしい」


「ありがとうございます」



男が不思議そうに聞くとお姉さんが開き直るような理由を話し、男は少し考えてお姉さんを褒める。

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