学生期 弐 19
「…なるほど。ただ分裂すれば良い…という簡単な話では無さそうですね」
おじさんが分裂体を人型にして変化魔法を解くと結局元の一人の状態に戻り、把握したように呟く。
「ここから先は魔力を等分にして自分自身を練り上げる作業になりますから…まあでも老師なら直ぐにモノに出来るでしょう」
「…ふぅ…坊ちゃまに『新しい知識や技を教える』と、調子の良い事を言って置きながらこの体たらくとは…自分の至らなさに嫌気が差しますが、しかし若さゆえの行動力や思考力…発想力と言うのはつくづく素晴らしい」
俺のフォローするような言葉におじさんは苦笑いして呟きつつも直ぐに喜ぶように笑った。
「あはは。ホントですよね。普通なら極技の分身だけでも満足しそうなものですけど、坊ちゃんは更にもう一つの極技まで生み出してますし」
「…なんですと…!?この『分身』以外にも更に別の極技が…!?」
お姉さんが笑いながら同意するとおじさんはその発言を聞いて驚愕しながら俺を見る。
「…見たい?」
「はい。是非!」
俺の得意げに笑いながら意地悪するような問いにおじさんは喜びながら返す。
「技名はまだ決まってないんだけど…良い?」
「はい」
「!!??」
俺が前置きしながらお姉さんに確認を取ると了承してくれるので、変化魔法を使ってお姉さんを強制的に分身させると…
おじさんはこれでもか、というぐらいに驚愕した。
「とりあえず仮の技名は『他人変化』『強制分身』ってトコかな。戻すよ」
「「はい」」
軽く説明した後にお姉さんに確認を取り、また変化魔法を使って元の一人に戻す。
「『他人変化』……まさかとは思いますが、自分以外の人間に変化魔法を…?」
「そうそう。それでスライム化からの分身させた」
「……なるほど……そういう……」
おじさんの確認に俺が解説するとおじさんは少しの間俯くように考えながら把握したかのように呟いて顔を上げる。
「…坊ちゃま、大変申し上げにくいのですが…その技はおそらく歴史に葬られた…いや、人類が意図的に消したモノ。禁忌の技、極技ではなく『禁技』と呼ばれる類のモノでしょう…」
「「え?」」
おじさんが困惑したような顔で予想外の事を言ってくるので俺とお姉さんの反応が被った。
「…坊ちゃまは変化魔法の歴史をご存知ですか?」
「まあ少しは…」
「お嬢さんは?」
「坊ちゃんの使ってる魔法ですからある程度は調べてますけど…」
おじさんの問いに俺が微妙な感じで答えると今度はお姉さんに話を振る。
「変化魔法は属性魔法や強化魔法、回復魔法などと比べたら歴史は浅い方ですがそれでも数百年…壁画などから1000年以上前には既に使われていた技術である事が分かっています」
「へー、そんな昔からあるんだ」
「しかし…大昔の文献に載ってはいても、ここ最近の情報はどれも100年以内のものでしかないのです」
「確かに…100年以上も前の資料なんかはほとんどなかったような…」
おじさんが講義のように変化魔法の歴史について語るとお姉さんも考えるように賛同した。
「私が調べたところ100年以上前の資料は一切見つからず不自然なまでに情報が途切れていました」
「そうなの?」
「はい。他の魔法についての資料は山ほどあるにも関わらず、変化魔法だけが大昔の歴史資料しかないのです」
「なんで?」
おじさんの説明に俺が確認すると頷いて話を進めるので疑問を尋ねる。
「…理由は私にも分かりません。今までは疑問にすら思いませんでしたから…ですが、坊ちゃまのその技術を見て悟りました」
おじさんは首を振って返すと今さっき答えに辿り着いたかのような事を言う。
「その理由が分かったんですか?」
「ええ。他人に変化魔法をかけられる…ソレがどんなに恐ろしい事か……例えば、王様に変化魔法をかけたらどうなると思いますか?」
「王様に?そりゃ処刑とかじゃないの?」
「実行した魔法使いはそうなるでしょうな。では、魔物に変化した王様は?」
「…あっ!」
お姉さんの問いにおじさんが質問してくるので俺が率直な感想を答えると、おじさんは肯定しつつもまだ十分じゃないように更に質問を続け…
お姉さんがおじさんの意図を理解したのか声を上げた。
「そっか…術師が解かない限りはそのままだ」
「ただの変化魔法ならばその王様の魔力が尽きればいずれ元には戻りましょう。ですが…もし魔物化した場合は…」
「…退治するしか方法はありませんね…」
俺も理解したので問題点に気づくとおじさんは怖い事を言い出し、お姉さんが微妙な表情でそうなった場合の解決策が無い事を告げる。
「変化と解除を素早く3回繰り返し、4回目には…その実行犯が捕まり処刑されたとしても魔物化した王様は元には戻りません」
「…ですね。その技術が政治的な争いで使われるとなれば世界中でかつてないほどの大混乱が起きる事になるでしょうし…」
おじさんがテロみたいな方法を話すとお姉さんは困惑しながら賛同して呟く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます