壮年期 30

その二日後。



分身の俺らはヴェルヘルム方面へと向かい、いつものように上空から状況を確認したが…



現在戦場になっている場所は国境よりもそこそこ離れていて、国境付近で戦っていると予想していただけにここまで押し込まれ…引き入れた?状況に分身の俺らは驚きながら戦場から少し離れた場所へと着地した。



「…一気に押し込まれたんですかね?それともあえて引き入れた?」


「多分あえて引き入れたんだろうけど…特に防衛に適した場所には見えないから普通に国境付近で戦ってた方が良かったと思うんだけど…」



分身のお姉さんの不思議そうな顔での疑問に分身の女性も不思議そうに首を傾げながら返す。



「…あー…多分アレだ。近くの森を利用して奇襲とか伏兵とかの作戦を考えてるかも」


「森…?でも敵も警戒ぐらいするだろう?」



国境付近と、この近く…どっちも軍を展開させやすい平原地帯ではあるが、周りに何も無いだだっ広い平原と近くに森や丘がある平原では当然戦い方が色々と違ってくる。



なので周りを見て味方側の意図を察した分身の俺が予想を話すと分身の女性は不思議そうに返す。



「そう、敵に警戒させて意識を割かせるのが目的でしょ。目の前に集中させず、前がかりな攻めに移行させないための防衛戦術だと思う」


「…でも相手側に森を取られたら逆に不利にならないかい?」


「多少不利にはなるだろうね。でも敵の戦力を分散させられるし、危ないと感じたら森よりも後ろ側に退けば相手は兵を森に潜ませるメリットは無くなる」



分身の俺が肯定して想定を話すと分身の女性は敵に利用されるデメリットを言い、分身の俺はそれも肯定してその場合に取るであろう対策を予想した。



「なるほど…でもその方法だと時間稼ぎにしかならないのでは?」


「ん。まあ普通に時間を稼いで増援を待って反撃に転じる…とかそんな感じじゃない?」


「確かにそれなら国境付近での戦いを避けた理由としては成り立つけど…そんなので勝てるのか…?」



分身のお姉さんは納得しながらも確認するように尋ね、分身の俺が適当に返すの分身の女性は心配そうに呟く。



「さあ?それは司令官の腕次第でしょ」


「そうですね」



分身の俺の流すような返答に分身のお姉さんも賛同し、とりあえず分身の俺らは宿営地へと向かう事に。



「…ん?誰だ!止まれ!」



宿営地の近くで巡回してる兵が警戒した様子で剣の柄に手を当てながら近づいて来る。



「俺達はラスタから来た援軍だよ。ほら、コレ」


「…このバッジは…失礼致しました!ただいま戦時中なので、周辺を警戒中でございまして!」



分身の俺が身分を軽く告げてバッジを見せると兵は確認した頭を下げて謝罪し、言い訳のような事を言い始めた。



「お役目ご苦労さん。とりあえず司令官とか大将に挨拶したいんだけど…」


「今日は現場…戦場にて指揮を執られていますので、戻るのは夕方頃になるかと…」


「じゃあ宿営地の中へ案内お願い」


「分かりました。こちらです」



分身の俺は労いの言葉をかけた後に用件を告げるも不在らしく、中で待つ事にして兵に頼むと兵は了承して先導するように宿営地に向かって歩き出す。





ーーーー





「…貴殿がラスタから来たという援軍か。まさかあのクライン辺境伯…ではあるまい?」



夕方ぐらいに兵士達が戻って来ると騎士の格好をした、まだ10代ぐらいにしか見えない青年が声をかけてくる。



「その通りだけど…もしかして君が司令官なの?」


「…!セリィア方面に参加していると聞いたが…!私は『ゲイルズ・シャット』と申します。昨年病死した父の跡を継ぎ、シャット家の現当主としてこの戦いの指揮を執る事になりました。よろしくお願いします」


「はあ…よろしく」



分身の俺が肯定して確認すると青年は驚いたような顔をした後に自己紹介を始め、軽く頭を下げて手を差し出してくるので分身の俺は適当な感じで返して握手した。



「あのクライン辺境伯と戦場を共にする事が出来て光栄です!無様を晒して落胆させないよう頑張ります!」


「あ、うん…頑張って?一応兵を貸してくれれば俺達も参加できるけど…」


「いえいえ!何をおっしゃいます!辺境伯の手を煩わせるまでもございません!この程度ならば我々の手腕で切り抜けてみせます!」



青年の張り切りながらの宣言に分身の俺が微妙な感じで返して申し出るも青年は遠慮するように断って自信に溢れた事を言う。



「…ですが…万が一、もし自分の力不足で危うい状況に陥った場合には力を貸していただけますでしょうか?」


「ある程度の兵が残っていて、指揮権さえ一時的に譲ってもらえれば」


「分かりました!では万が一その時になりましたらよろしくお願いします!」



…コイツもアッチの奴と同じ類の奴か…と内心呆れてると、青年が急に弱気な感じで最悪を想定しての保険のような事を言い出すので…分身の俺が条件付きで返すと青年は了承するように喜ぶ。



「では、今日のところはこれで失礼します。何かあれば近くの兵にお申し付け下さい。クライン辺境伯が不便な思いをしないよう通達しておきますので」


「ありがとうございます、助かります」



青年は軽く頭を下げて別れの挨拶をした後に結構な待遇でもてなしてくれるような事を言い、分身の俺はありがたく思いながらお礼を返す。

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