壮年期 29

…更に翌日。



この日も結局、徐々に劣勢に追い込まれていってるだけで特に変化なく終わった。



と、思いきや…夜遅くに伝令だかの人が急報を伝えに来て、どうやら静観していた隣国『ヴェルヘルム』の軍勢が動き出したとの事。



なので援軍の到着が大幅に遅れる事になるらしくなんとか今の状態で踏ん張って欲しい…という指示が出たようだ。



「…自分達に兵の指揮を任せてもらえれば今の状況からでもなんとか挽回出来ますが…」


「ありがたい申し出だが、最初に申したはずだ。これはアーデンの戦いであって我々はラスタの手など借りぬ。それよりもヴェルヘルム方面の援軍へと向かってくれると助かるのだが…」



分身の俺が打開策を提案するもおじさんは断固として断った後に追い出すかのように移動を指示してくる。



「…分かりました。では我々は夜が明けたらヴェルヘルム方面へと援軍に参ります」


「うむ、頼んだ。ついでに『こちらの心配は要らぬ、ヴェルヘルム軍勢の方は任せた』と、あちらに伝言を」


「はい。伝えておきます」


「感謝申し上げる」



分身の俺は説得も面倒なのでそのまま受け入れるとやけに強気で自信に溢れた伝言を頼み、分身の俺がとりあえず了承するとおじさんは軽く頭を下げてお礼を言う。



「…とりあえず首都に戻って二、三日観光してから行こうか」


「分かりました」


「って事は今日はその首都の宿屋に泊まるのかい?」


「あー…そうしようか」



分身の俺がテントに戻って予定を告げると分身の女性が確認してくるので分身の俺は少し考えて肯定し、直ぐに首都へと移動する事にした。



「…しかしあの司令官はえらく強気だったけど…やっぱり何か策を用意してたりするんだろうね?」


「…どうでしょう?見ていた感じでは基本的な事をただ続けてるだけでしたけど…」


「時間稼ぎや足止めが目的ならあのままでも良いんだろうけど…あの司令官の態度や口振りさらして何か切り札や奥の手は残してるようには思えたよ」



分身の俺はドラゴンに変身して首都に向かって飛行しながら適当な世間話として聞くと…



分身のお姉さんが微妙な感じで判断しかねるように返し、分身の女性は考えながら予想を話す。



「これで結局逆転の策が無くてそのままジリ貧で負けたら笑えるけど流石にソレはないか」


「もしかしたら騎士団に相当する戦力の高い援軍を待つための時間稼ぎの可能性もありますから」


「…そういえば騎士らしき格好の兵は指揮官や司令官といった極小数しか見てないような…」



分身の俺の想定に分身のお姉さんが予想を告げると分身の女性が思い出すように呟く。



…それから首都の宿屋に泊まってからの翌日。



「あ」


「あ」



朝早くから市場へと行こうと大通りを歩いていると帝国の女の子やその部下達と遭遇した。



「あれ?前線行くって言ってなかった?」


「なんかヴェルヘルムが軍事行動を開始したからソコに援軍に行け、って言われてな」


「へー、セリィア方面はそんな余裕があるんだ。結構押し込まれてるらしい、って聞いたのに」



女の子の不思議そうな問いに分身の俺がココに戻って来た理由を話すと意外そうにちょっと驚いたような反応をする。



「まあ明らかに形勢不利ではあったな。地味にだが劣勢に追い込まれてる感じだった。俺らが見てた感じだと」


「そんな状況なのに…?じゃあよっぽどヴェルヘルムを警戒してるんだ」


「かもしれん。アッチの大将は妙に強気で自信たっぷりだったからもしかしたら何か必殺の策があって、余所者の俺らには見せられない感じのヤツとかの可能性もある」


「あー…なるほど。確かに」



分身の俺が状況を軽く話すと女の子はまたしても意外そうにちょっと驚いた感じの反応をして予想し、分身の俺の肯定と適当な予想に納得したように返した。



「まあでもこれで進軍のために国境の封鎖は解かれるだろうし、今が帰るチャンスだな」


「そう。だから今から帰還する」


「じゃあな。まあなんかあったら手紙くれ」


「ん。メロンを食べられなかったのだけが残念だけど…最初に見かけた時に買っとけば良かった」



分身の俺の発言に女の子が肯定するので別れの挨拶をすると女の子は後ろ髪引かれてるような心残りを呟く。



「メロン?」


「そ。露店で売られてた。結構な値段がしてたから買うのを迷ってて…せっかくだからって帰る前にさっき見に行ったら売り切れてた」



まさかあんな高い果物を買う人があんなにいたなんて…と、女の子はため息を吐きながら残念そうに呟いた。



「そんなに欲しいなら貰うか?」


「え。いいの!?ってか持ってんの!?」


「多分売り切れたのは俺のせいだ。誰も買わないと思って12個中10個買ったからな」


「…領地収入とかほとんど無いハズなのになんでそんなに金持ってんの…?てか貴族の金銭感覚えっぐ…」



分身の俺が餞別として確認すると女の子は驚きながら確認し返し、因果関係を予想して話すと女の子がなんとも言えない微妙な顔でドン引きしたように呟く。



「三個あれば十分か?」


「三つもくれんの!?ホントに!?」


「一個は道中にでもみんなで食べて、もう一個は皇帝陛下かマスタークラスのお兄さんにでもあげてくれ」



空間魔法の施されたポーチから物を取り出して確認すると驚きながら確認し返され、複数渡す理由を教えると…



「…私の分は?」


「じゃあ、はいよ」


「やったー!ありがとー!」



女の子が上目遣いで追加を要求してくるので更に一つ増やすと両手を上げて大喜びしながら受け取る。

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