青年期 196

…そして二時間後。



俺ら猟兵隊は事前の作戦通り後方支援の兵約2000を残して3000人の部隊三つに分かれ…



今現在敗走してるであろうライツの軍勢を右側、中央、左側の三方向から包囲するように追撃する事に。





ーーーーー





「お。意外と早く追いついたな」


「…もしかしたら立て直そうとしてるかもしれんな」



…宿営地から馬を走らせる事約三時間ほどで敵の軍勢の姿がうっすらと見えたので、分身の俺が軽く驚きながら言うと隊長の一人が警戒するように予想した。



「…じゃあちょっと行って来る」


「ああ」



分身の俺は隊長に合図してから一人先行して敵の軍勢に近づき…



「聞け!ライツの兵よ!我こそは猟兵隊の団長なるぞ!」


「なっ…!」

「猟兵隊だと!?」

「もう追いつかれたのか!?」



大声で名乗りを上げると最後尾の兵達が振り返って驚き、周りの兵達も振り向いてザワつき始める。



「命が惜しくば投降せよ!更に降伏すれば兵全員の命を保証しよう!今降伏すれば損害を減らせるぞ!5分、時間をやる!我らの追撃をもう一度受けて全滅するか、降伏するか!さあ選べ!」


「なんだって!」


「追撃…!」


「と、投降した方が良いんじゃ…!」



分身の俺が軍勢の中に突っ込んで横断しながら降伏勧告や兵への投降を促すと敵兵達の歩く速度が一気に遅くなる。



「ちなみに追撃の兵の数は9000だ!先ほどの約4倍の戦力であるぞ!」


「きゅ…!!」


「さっきの4倍だと!?」


「もうダメだ!投降する!」


「俺もだ!命だけは助けてくれ!」



分身の俺のダメ押しに、まだ二万以上の兵達が揃ってるにも関わらず…敵兵達は次々に戦意喪失していき足を止めて武器を地面に放り投げ始めた。



「くっ…!」


「我らの追撃は国境を越えるまで続くぞ!命惜しくば降伏せよ!繰り返す!今降伏すれば『猟兵隊』の名の下に命だけは保証しよう!」



そのまま軍勢を横断していると先頭に追いつき…



追い抜いた後に分身の俺は前に立ち塞がるかのようにしながら再三の降伏勧告をする。



「何が降伏だ!我ら武人は戦って死ぬが本望よ!」


「逃げ切れぬのならばココで迎え撃つまで!」


「迎撃態勢を取れ!」



…敗走してる軍勢の先頭にいるって事は真っ先に逃げて、逃げ切って助かる事に意味がある人達だろうに分身の俺に反発して抵抗するように徹底抗戦の構えを見せた。



「ははは!」


「なっ…!何がおかしい!」



分身の俺がドードルの将軍の時の事を思い出して笑うと槍を構えている指揮官っぽい男性が怒ったように返す。



「逃げてる最中にソレ言う?たとえ逃げてなくても…一時退却で立て直すために引いてるとしても命惜しさに戦場から離れた奴の言う事じゃないでしょ」


「ぐっ…!」


「こいつ…!」


「我ら武人の覚悟を馬鹿にするか!」


「貴様許さんぞ!」



分身の俺の馬鹿にしながら笑っての発言に何人かは図星を突かれたかのような反応をして、何人かは逆ギレしてくる。



「武人として死ぬまで戦う覚悟があったんならあの場で殺されるまで抵抗しろよ。生き残った後の事を考えて逃げるとかそんな半端な気持ちを『覚悟』とか抜かしてさぁ、戦場で散っていった武人達を冒涜してるとは思わないの?」


「貴様…!」


「もう許さんぞ!」


「たった一人で何が出来る!愚か者が!」



分身の俺がめちゃくちゃ馬鹿にしながら煽ると敵兵の数人が激怒しながら飛び出して来た。



「じゃあこれはもう『降伏の意思無し』ってみなしていいわけだ!いいね!最後の一兵まで戦い抜くと決めたその覚悟に敬意を表してコッチも徹底的にやるとしようか!」


「…待て!命令だ!止まれ!」


「なっ…!?」


「っ…!?」



分身の俺も敵を打ち倒す覚悟を決めながら宣言し、目の前に迫った数人の敵兵を返り討ちにしようとすると…



分身の俺との交戦直前で敵の軍勢の中から誰かが敵兵達の行動を止めるように命令するので、敵兵達は無理やり攻撃を止めて分身の俺の脇を抜けるような感じで避けて行く。



「…我らは降伏する。どうか私の命一つで兵達の命を保証すると約束してくれ」


「…女…?」



軍勢の中から出てきた女性が覚悟を決めたような顔で取引を持ちかけてくるが、ソレを言い出したのが女性である事に分身の俺は驚きながら呟いた。



「姫!それは…!」


「ナサリィ姫!お考え直しを!」


「姫は我々が命をかけて守り抜きます!どうか発言の撤回を!」



すると周りの兵達が慌てて女に駆け寄って反発して反対するかのように説得し始める。



「ナサリィ様!そんな馬鹿な事はやめていただきたい!」


「そうだ!姫様が死ぬぐらいなら俺達は死ぬまで…」


「静かに!」



分身の俺に攻撃しようとして追い抜いた奴らもすぐさま反転して女の所へと行き、説得に加わると女が周囲の兵達を黙らせるように叫ぶ。



「これは命令だ!我々はラスタの猟兵隊に降伏する!全員馬から降りて武器を捨てること!」


「…悪いがその命令は聞けない」


「そうだ。姫様の命こそ何より優先されるべき尊きもの」


「最後の最後まで戦って姫を守るぞ!ライツの意地をラスタに見せつけてやれ!我々ライツの兵を見る度に恐怖を思い出させてやる!」


「「「おおー!!」」」



…女が命令を下すも指揮官達は反発して命令に逆らって兵達に玉砕のような命令を出すと、兵達は一致団結して士気が一気に頂点に達したかのように同調して声を上げた。

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