青年期 197
「…へー、ライツって素晴らしい国だなぁ…敗戦の将が何のお咎めも無く、兵達を死なせた責任すらも取らなくて良いなんて羨ましい…ウチの国もぜひ見習って欲しいものだね」
そしたら他の国に侵攻侵略し放題なのに…と、分身の俺は女を庇うような敵兵達のやり取りを見て皮肉を込めて褒める。
「なんだと!?」
「貴様…!何度我々を侮辱すれば気が済むというのだ!」
「もはやこれ以上生かしてはおけん!奴の首を奪いに行くぞ!」
「「「おおー!!」」」
分身の俺の煽りに指揮官っぽい奴らが怒りを露わにして兵達に命令を出して分身の俺へと襲いかかって来た。
「待て!やめろ!この私の命令が聞けんのか!!」
「はっはっは!鬼さんこちら!手の鳴る方へ!」
女が軍勢の動きを制止するように叫ぶが兵達は一切無視して分身の俺に突撃をかまして来るので…
分身の俺は余裕を見せて笑いながら鬼ごっこでもするように煽り、国境付近まで誘導するように逃げる。
「ほらほら、あと少しあと少し」
「くっ…!逃すな!」
「あともう少しで捉えられる!」
「速度を上げろ!」
「ははは、馬に無茶させるなんて酷い騎手だこと」
敵の騎馬隊っぽい数千人の部隊を、攻撃が届かないギリギリの距離を保ったままで逃げながら分身の俺は敵に逃げられないよう煽り続けた。
…そんなこんな逃げる事、約二時間後。
「…なっ!」
「うわっ!」
「くそっ!」
…流石に馬に無理をさせ続けていたせいで体力や脚に限界がきたらしく、バタバタと馬が倒れて兵達が落馬し始める。
「あーあ、可哀想…防衛戦なら馬を奪っても良かったんだけど…反攻や侵攻とか攻めに転じてると奪った後に連れてく手間がなぁ…んじゃ、バイバイ」
「あっ!」
「くそっ!待て!」
「逃げる気か!」
分身の俺は倒れた馬に申し訳ない気持ちになりつつも自己弁護するように言い訳を呟いて気持ちを切り替え、さっきの軍勢の下へと戻る事に。
ーーー
「…ん?」
分身の俺が約30分ほどかけて戻っていると…
猟兵隊の部隊達に後ろから追撃を食らっているであろう…と予想していた敵の軍勢が、予想に反してなんか大人しくなっていた。
「あ。戻って来た」
「団長が騎馬隊を引き受けていた間に残った奴らは全員投降したぞ」
「え、マジで?さっきはめちゃくちゃやる気に満ち溢れてて死兵同然だったのに…」
分身の俺に気づいた隊長が近づいて来て現状を報告し、分身に俺は驚きで意外に思いながら確認して呟く。
「…私が説得した。我々は降伏する」
だから兵の命だけは…と、団員達に連れられて姫がやって来る。
「ああ、そう。じゃあ全員に武装解除…防具を外して武器も捨てさせてくれる?」
「…分かった。聞け!兵達よ!」
「我々が追いついた頃には既に武器は捨てられていたぞ」
「へぇ。流石に冷静になると死ぬのが怖くなったか…まあそんなもんか」
分身の俺の指示に姫が部下の兵士達に命令を告げ、隊長の一人が既に兵達の戦意は喪失していた事を教えてくれた。
「んじゃ武器防具は回収して俺らが貰おう。後方部隊に連絡お願い」
「分かった」
「後は…ライツの兵を大部隊ごとに率いていた指揮官をコッチに連れて来て。これから兵達には国境まで歩いて移動してもらうから」
「…分かった」
分身の俺は隊長に指示を出した後に姫にも指示を出して何か聞かれる前に先に理由を話す。
「…いやー、人質がいっぱいでこりゃライツとの交渉が楽しみになってくるね」
「…この軍勢だ。少なくとも将官クラスが5名はいるとみていいだろう」
「『姫』って呼ばれたし、周りからの扱いを見るに多分王女だよね?前線司令か指揮官の補佐だったのかな?」
「なんにせよ、王女が前線に出るとは…優位に進めていたが故の油断か…」
分身の俺のゲスい発言にも隊長達は慣れたように賛同しながら一国の姫がわざわざこんな前線に居た理由を予想する。
「まあ最大の誤算は俺ら猟兵隊の強さを見誤った事だね。結構あちこちで動いてて名が売れてるハズなのに舐めてかかるから」
「ははは、ソレは団長の計画の内でしょ」
「団長が上手く事を進めたのを相手の落ち度にするのは酷だと思うが…」
「全くだ。団長が一歩先んじただけで相手の誤算にするのは流石に酷いな」
分身の俺がしれっと誤魔化して勘違いさせるような事を言うと隊長達は笑ってライツの指揮官をフォローするかのように返す。
「…でも流石に四万余りの大軍勢を率いてるのに1500人ほどの部隊に負ける…ってのもちょっと信じられないし考えられないよね。話とかで聞いたとしたら」
「「「「確かに…」」」」
「団長に会う前の僕らが逆の立場だったら多分団長の目論見通り、めちゃくちゃ油断してたと思う。猟兵隊を見て『あの人数で何ができる?』って鼻で笑ってたかも」
「うむ…」
「…そうだな…」
「…そうなっていたかもしれん」
隊長の一人の敵を庇うような発言に他の隊長達が納得するように呟くと別の隊長も敵のフォローに入り、隊長達は少し考えて同意するかのように肯定した。
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