青年期 203

…そして一週間後。



戻って来た二万余りの下っ端の兵達は元々個人ではなく『領主』という立場に従っているだけなので、問題なく俺に忠誠を誓ったらしい。



騎士団の人達も大半は鞍替えする事に決めたらしい…が、一部の面倒な奴らは俺の要求に反発して拒否したようだ。



…まあそれだけなら『嫌なら出てけ』で追い出せばいいから問題は無いんだけど…



あろう事かその反発した奴らが反乱を起こそうと兵を集めている、との報告が来ている。



「…全く。面倒な事をしてくれる…」


「騎士団の人達が何かやらかしたんですか?」


「なんかラグィーズ領で反乱だか内乱を起こそうと兵を集めてるんだと」


「えっ!?」



俺の呟きにお姉さんが予想しながら尋ねてきて、俺が軽く話すと予想外だったかのように驚く。



「とりあえず危険な行動はやめるよう警告を出して、無視するようなら処罰するしか無いね」


「一回チャンスをあげるんですか?ここまでいけば普通なら内乱扇動の罪で死罪でもおかしくはないと思うんですけど…」


「もしかしたらソレが敵の狙いで罠かもしれないし。最初に一回警告や注意をして聞かないようなら…って流れならほとんどの人が納得するでしょ」



俺が対応策を話すとお姉さんは意外そうに返すので、俺は万が一や念のために備えて…という理由を話した。



「…なるほど…無理やり隙を作ってソコを叩く、と…」


「男爵家や子爵家が結託して領民を煽って反発して来たら面倒だからなぁ…」


「今回のは死罪でも妥当な処分とはいえ『殺すのはやり過ぎだ』と騒ぐ可能性は十分に考えられますね」



お姉さんの納得して理解したような呟きに俺が嫌な顔をして予想を呟くとお姉さんは察したように言う。



「…はぁ…領内に入られる前に対処しとくべきだったか…」


「…それはそうですけど…事前に察知するのは難しかったと思いますよ?」



俺がため息を吐いて反省するように呟くとお姉さんはフォローするように返す。



「だよね。俺もまさか騎士団や兵を送り込んで来る、だなんて予想出来なかったし」


「でも騎士団はともかく兵達はありがたいですね」


「確かに。二万余りも居ればライツがもし協定を破って侵攻して来ても余裕で防衛できるよ」



俺の若干悔しがっての肯定にお姉さんは逆にメリットがある部分に言及するので俺は納得して有事の際の想定をする。



「他の領や猟兵隊も合わせれば三万を超えますし…今の坊ちゃんは国内でも有数の戦力を保有してる事になりません?」


「いや、猟兵隊だけで既にそうだからね?この前の戦いで自信がついただろうから、みんな更に頑張るだろうし」


「まあそもそも坊ちゃん一人だけでもとっくに過剰戦力の状態でしたね」



お姉さんが少し考えた後に笑いながら確認するので、俺が否定的に返すとお姉さんは笑ったまま弄るような感じで言う。



…その数日後。



騎士団の一部は警告でなんとか踏み止まってくれたらしく、領民の扇動をやめて町を去ったようだ。



「…おおー、大人しく聞くとは意外…」


「騎士団の件ですか?やっぱり兵が全く集まらなかったのと、ソレで死罪になるのが嫌だったんでしょうね」



報告書を見ながらの俺の呟きにお姉さんは確認した後に笑って予想を話す。



「そりゃ今の領民達に不満は無いはずだから、いきなり騎士が戻って来て『打倒領主!』とか言ってもねぇ…いかにも怪しくて危ないから普通はついて行かないって」


「ウィロー伯爵の時代と比べて税金は半分で賦役も無しですからね…それにガウ領の前例がある以上領民達ももはやそう簡単には扇動し切れないのでは?」


「まあそのためにガウを一回手放したんだから効果が無かったら困るよ」



俺が騎士を馬鹿にするように言うとお姉さんも賛同しながら聞いてくるので俺は当然だと言わんばかりに返した。



「え」


「あと他に領地を奪おうと考えてるかもしれない貴族達への牽制。ただの時間稼ぎにしかならないかもしれないけど、もしかしたら罠を警戒して諦めてくれるかもしれないし」


「…敵味方の判別だけじゃなかったんですか…?」


「ははは、まさか。先生も『そのためだけにガウ領を手放すなんてありえない』って言ってたでしょ」



驚くお姉さんに今まで隠していた真の意図を教えると確認するように聞かれ、俺は笑って否定するように過去の話を持ち出す。



「…それは…そうですが…」


「まあ気づかなくても無理はないよ。今まで話すのを忘れてたんだから」


「…坊ちゃん秘密主義なところがありますからね…」



お姉さんは納得いかないように呟き、俺がフォローするように返すとなんとも言えないような微妙な顔をする。



「まあ秘密にするにはそれなりの理由があるってことだ。それ以外はちゃんと話したり答えてるでしょ?」


「…確かに」



俺の適当に誤魔化すような言葉にお姉さんはすんなりと納得した。



「…でもよく考えたら…ガウ領を手放す事で国内の貴族の反応を探って、相手を凋落させるための毒…罠を仕掛け、他の領民達の離反を防ぎ、他の貴族達を牽制する…って普通思いつかないですよ?」


「だろうね」


「…本当に坊ちゃんの頭の中は一体どうなってるんですか…?覗いてみたいですけど、私なんかじゃ理解出来なそう…」



お姉さんが少し考えて反論するかのような感じで言い、俺の肯定にお姉さんは若干ヒいたような様子で呟く。

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