青年期 202

それから数ヶ月後。



年が明けてついに弟が学校を卒業した。



「…よう。卒業おめでとう」



卒業式が終わる時間を見計らって学校に行き、門の所で待ってると弟が妹と一緒に出て来るので俺は挨拶して祝いの言葉をかける。



「あ。兄さん来てたんだ」


「今さっきな」


「…兄様もお兄様も居なくなるなんて…」



弟が駆け寄って来ながら言い、俺がそう返すと妹は寂しそうに呟く。



「あと三年の我慢だろ。しっかり勉強しろよ」


「ははは。だってさ」


「むぅ…」



俺の釘を刺すような発言に弟が笑って返すと妹はむくれたような顔をしながら呟いた。



「おっと、そうだ。お前らにプレゼントがあるぞ」


「「プレゼント?」」



俺が思い出したように言うと弟と妹の不思議そうな顔と言葉が被る。



「ふふふ…拠点に着いてからのお楽しみだ。リーゼ、お前も休みだろうから来るだろ?」


「もちろんです!」



俺はあえて焦らすように答えを先延ばしして確認すると妹は食い気味に返事をした。





ーーーーー





「…それでお兄様、私達は何を貰えるのですか?」



ドラゴンに変身して弟と妹を乗せて拠点に戻るとスライム化を解除して直ぐに妹が催促するように聞いて来る。



「コレ。エーデルは卒業祝いでリーゼは進学祝いって事にしとくか…高等部になるとダンジョンに行く実習が始まるし」


「ソレは?」「ソレは…!?」



俺がミスリルを取り出しながら贈る理由を話すと妹と弟は言葉をハモるように言いながらも全く別の反応をした。



「コレは『ミスリル』っていう魔法を無効化する金属」


「兄さんが前話してたやつだよね!?軽くて硬くて魔法が効かないって言ってた…!」



俺の簡単な説明に弟が興奮したように食い気味に確認してくる。



「そうそう。良く覚えてたな」


「そりゃ普通は一度聞いたら忘れないよ。…あ」



俺が肯定して意外に思いながら褒めるように言うと弟は笑って答え…ふと察したのか隣の妹を見て気まずそうな顔になった。



「どうせ私は記憶力がありませんよ」


「ごめん」


「まあまあ。この拠点にある魔法協会の支部で加工して貰えるし、金は俺が払うからコレで防具を作りに行こうぜ」


「本当ですか!?」


「いいの!?」



拗ねたような妹に弟が謝り、俺が宥めるように提案すると二人とも嬉しそうに驚く。



「エーデルは普段使いのヤツともしもの時用のフル装備のプレートアーマー、二つ揃えろよ。リーゼのプレートアーマーは卒業後にな」


「分かった」


「分かりました。卒業後の楽しみにとっておきます」



俺の説明に二人が了承するので早速拠点内にある魔法協会の支部へと向かう。



…その二週間後。



ウィロー伯爵…もといファーン男爵が引き連れて行った二万余りの兵達と騎士団の大半がラグィーズ領に『戻って来た』らしく…



『兵達は領内に帰還したと言い張っている』との報せが届いた。



「…さて…どうしたものか…」


「どうかしたんですか?」


「ファーン男爵がウィロー領から連れてった兵達が帰って来たんだと」


「…それは朗報では?兵が増えると防衛に厚みが出ますし、治安維持もやり易くなると思いますが…」



俺が報告書を見ながら呟くと本を読んでいたお姉さんが不思議そうに尋ね、報告書の内容を軽く話すと嬉しそうな反応を見せる。



「下っ端の、領内から集められた兵だけならそれもそうなんだけど…騎士団の人達まで帰って来られてもなぁ…」


「ああ、なるほど。騎士団の人達って男爵家や子爵家の人達も居ますもんね…」



俺の微妙な顔をしながらの呟きにお姉さんは察したように納得して呟いた。



「今更戻って来られても、もう隊長達にあげた町は返せないんだけど。手続きも終わって認可も貰ってるし」


「そもそも敵対派閥に入ってる人達に村や町の管理なんてさせられないですよね?反発したり反乱起こされそうですし…」



俺が呆れながら言うとお姉さんは少し不安そうな感じで予想を呟く。



「…もしかして『埋伏の毒』のつもりか?ただ面倒を見る余裕が無くなっただけかと思ってたが…」


「…どうするんですか?」


「まあ俺に忠誠を誓ってくれる、ってんなら受け入れようか。無理ならウィロー…男爵の所に追い返す」



俺は前世の記憶による知識で相手の策や考えを予想して疑うように呟き…



お姉さんの確認に、少し泳がせて一旦様子を見てみるか…と思いながら答える。



「…大丈夫ですかね?口だけ忠誠を誓うとかで騙そうと考えたり…」


「とりあえず騎士団のみんなには既に所領が没収されてる事を伝えてまた俺の下で一から頑張れるかどうかを聞いてみる」


「…なるほど。本当に忠誠を誓うのならそのまま残り、口だけならば去る…と」


「そういう事。本当に忠誠を誓えるならプライドなんて捨てられるし、貴族としての価値が無くなって名だけの状態になってもまた頑張れば良いだけで問題無いでしょ?」



お姉さんの心配そうな予想に俺が確認や判別の方法を告げると納得して理解するように返し、俺は肯定しながら踏み絵的な感じの事を言った。



「…騎士団の人達ってどこもそうですけど、プライド高そうな集団…ってイメージなので下手したら全員去るんじゃ…」


「別にそれでも問題は無いよ。俺らには騎士団の代わりに猟兵隊がいるから」


「そうですね」


「…ぶっちゃけ伯爵の騎士団とか要らないし、迷惑だから負の遺産なんて渡さないでほしいね」


「あはは…」



またしてもお姉さんは心配そうに不安な感じで予想するので俺がバッサリ切り捨ててそう告げると安心するように返し、ため息を吐きながら愚痴を言うとお姉さんが反応に困ったように笑う。

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