青年期 352

「その結果、たとえ戦いの中で死んだとしても…相手を殺してしまっても悔いは無いと」


「分かるー。でも実際自分が死ぬ分には悔いは残らないけど、殺してしまったらどんなに覚悟を決めてても悔いは残るし後悔はするものだからねぇ…まだ俺はそんな経験した事無いけど」



自分に言い聞かせるような女の言葉に分身の俺はめちゃくちゃ共感しながらも他の人達から聞いた経験談を基にした想定を告げた。



「あなたもいずれ分かるようになる。私達と同じ種類の人間だから、必ず」


「それはどうかなー?俺には『厄災の龍』っていうクソみたいに激強で化物みたいな相手がいるし」



アイツを余裕で倒せるようにならない事にはなぁ…と、分身の俺は女の決めつけるような警告に否定するように返す。



「やっぱりあなたは頭がおかしい。私が生きて来た時代にも厄災の龍に二度挑もうとする者は居なかったのに…」


「そこが俺にとっては不思議でならない。自分の持てる力の全てを出し切る相手としては丁度良いわけじゃん?死んでも悔いは無いってんなら厄災の龍が雑魚と思えるぐらいになるまで挑み続ければ良いのに」


「…それは…」



女がヒいたように理解出来ない…といった感じで呟くので分身の俺が自分の考えを告げると女は言い淀む。



「…災害に挑んで命を落とすのは今の時代でも無駄死にでしょう?」


「苦しい言い訳だな。かつて『厄災の魔女』とか呼ばれて世界中の全人類に喧嘩売ってまで戦う相手を探した奴がソレ、言う?」


「う…」



女の言い訳のような発言に分身の俺が切って捨てるように返し、呆れながら矛盾点を指摘すると女は言葉に詰まる。



「下手に取り繕わずに正直に言った方が良いんじゃない?ギリギリで勝てる戦いが好きです、って」


「…誰だってそうでしょう?」


「その通り。みんな言い方や表現を変えて印象を良くしようとするけど、結局中身はそういう事よ」



分身の俺が馬鹿にするように言うと女は悪あがきでもするように反発し、分身の俺は素直に肯定した。



「だから俺は勝敗の見えない厄災の龍に挑む。死にそうになったら逃げてまた翌日再戦すれば良いだけだし」


「普通はそこで逃げられずに死ぬから。もし奇跡的になんとか逃げ切れたとしても、その状態から再戦しようなんて思えるわけが無い」


「まあソレは本人の自由だけど…とりあえず戦う相手が欲しけりゃダンジョンに魔物がいっぱい居るんだから人類に迷惑かけないで欲しいよね」


「ぐ…」



分身の俺の考えを聞いて女が反論してくるが流すように返し、女の昔の行動を責めるように言うとまたしても言葉に詰まったような反応をする。



「といっても戦いの最中にする話じゃなかったね。ここから急に再開しても反論出来ずに逆ギレしたみたいになるし」


「ふふふ…時間稼ぎに付き合ってくれて助かった。この技はチャージに時間がかかるのが難点なんだけど…」


「な…!?」



分身の俺が雰囲気を変えるように言うと女は得意気に笑って分身の俺を指差し、光ったのが見えたと同時にヤバい!と思って横に避けようとすると…



分身の俺の左肩を何かが貫通し、えぐれて左腕が地面に落ちた。



「…!咄嗟に急所を外すなんてやるじゃない。厄災の龍以外に避けられた事なんて無かったのに…!」


「超高圧、高密度の熱の光線か!そんな技まで使えたなんて…!」


「本来なら掠っただけでも人体の形を保てなくなるはずなんだけど…ここまでしてようやく腕一本なんて…」



女が驚きながら賞賛するように言うので分身の俺が左肩の灼けるような熱と痛みから技を推測して驚くと女は微妙な顔で呟く。



「素晴らしい。今の俺を欠損状態にさせるなんて…今のところは厄災の龍か未討伐の魔物ぐらいだよ、そんな事が出来るのは」


「で?あなたの慢心が片腕を失った原因だけどまだやる気にならないつもり?」



分身の俺の賞賛に女は分身の俺が一向に攻めに転じる気配が無い事を責めるように返す。



「別に片腕を失ったぐらいじゃあな…はい、元通り」


「…ありえない…回復魔法?復元まで出来るなんて…」



分身の俺は地面に落ちている左腕を拾って変化魔法を使い、一部スライム化してくっつけて見せると女が驚愕しながら呟く。



「はっはっはー、欠損なんて久しぶりだけど痛みには慣れてるからね。直ぐに治せるのさ」


「…まあそうじゃないと今まで五体満足ではいられない、か…分かった」



分身の俺が笑いながら言うと女は納得したような反応をする。



「残念だけど、勝負は決まったから」


「ん?」


「私の時間稼ぎに二度も引っかかるなんて学習能力無いんじゃない?それとも余裕を見せてるつもり?」



女の発言に分身の俺は負けを認めるのか?と思ったが、どうやら逆のようで女は勝ち誇りながら呆れたように言ってまた分身の俺を指差す。



「流石に二度目は……っ!?」



分身の俺が即座に射線から外れるように横に動くが、女の動作はただのブラフだったようで上からさっきの熱の光線が降ってきて分身の俺の左肩や左脚を貫通した。



「その傲慢で慢心のある愚かな態度があなたの敗因よ。ここまで全力を出せたのは生まれて初めてだったわ…じゃあね。先に逝って待ってて」



分身の俺は即座に欠損した部位をスライム化して治そうとしたが女がビーズのような大きさの火球をいくつか無造作に放り投げて爆発させる事で阻害し…



いつの間にか女の手の上に浮かんでいたサッカーボールのような大きさの太陽のごとき高熱を放つ青色の火球を分身の俺に向かって投げ、ソレが当たると同時に大爆発が起きる。

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