青年期 81
…それから更にダンジョンを進んで最下層に到達すると、俺の予想通り黒色のスライムを発見した。
「…本当に黒い色のスライムが…てっきりミスリルのゴーレムみたく見つからずに終わると思ったのに…」
「運が良かったね。俺も見るのはコレで二度目だよ。…いや、最初に見た時は4体ぐらい居たから二度目と言っていいのか…」
「別にいいんじゃないですか?」
分身のお姉さんの意外そうな呟きに俺が笑いながら返して自分の言い方に疑問を感じながら呟くと、分身のお姉さんは適当な感じで返す。
「それよりも…どうやってあのスライムから魔石を取るんですか?坊ちゃんでも手が溶けるんですよね?」
「ふふふ…固形だから溶けるのであって、最初から溶けている液体なら溶けるも何も無いでしょ?」
「…?…あ。なるほど、スライム化…!」
分身のお姉さんが興味津々に聞いてくるので俺がヒントを出すと不思議そうな顔で少し考えて答えに辿り着く。
「まあ紫のスライムも同じ方法で無傷で取れるんだけど」
「…ええー…じゃあなんでわざわざ…」
俺の説明に分身のお姉さんはヒいたように呟いた。
「一応危険性を分かりやすく伝えるため?」
「もっと他に方法はあったのでは?わざわざ自分の腕を犠牲にしなくても…」
「実際に見た方が分かりやすいでしょ」
「それは…そうですが…」
俺が理由を話すも分身のお姉さんは納得いかなそうに返す。
「まあでもどんなに強くてもスライムはスライムだからアッチから襲って来る事は無いし、コッチから手を出さなければ危険は無いんだけどね」
「…こんなのに襲われたらひとたまりもないですよ」
俺は黒いスライムから魔石を抜きながら解説するように話すと分身のお姉さんはスライムの体液で地面に穴が空いていく様子を見ながら微妙な顔をする。
その後、他にも黒いスライムが居ないか探したが…
見つからなかったのでしょうがなくボスに挑みに行く。
「グアアァァ!!」
「…やっぱ帰ろ」
が、厄災の龍を相手するには1/4の魔力じゃどう考えても足りないので威嚇で吠えられた時点で俺は尻尾を巻いて逃げ出した。
「…ふう。移動ポータルって便利」
「流石に無謀でしたね」
移動ポータルで元の上級者用のダンジョンの最下層に戻って来て俺が安堵の息を吐くと分身のお姉さんが笑いながら言う。
「全くだ。俺も強くなってるハズだから今の状態でもいけるかと思ったけど、どうやら過信だったか…」
せめて半分ぐらいは無いとな…と、俺は反省しながら呟く。
「…半分の魔力で、しかも単独であの厄災の龍を倒せるのなんて世界中探しても坊ちゃんだけですよ…そもそも『厄災の龍』って普通に倒すだけでも歴史上に名を刻むクラスの魔物ですからね?」
すると分身のお姉さんは呆れたように何度目かの説明をしてくる。
「超強いもんなぁ…本気の全力で戦わないと5分保つかも怪しいし」
「無装備の状態で5分保つだけでも十分に化物や怪物ですって…」
俺が魔物の強さを肯定しながら言うと分身のお姉さんはまたしても呆れたように呟く。
「アレが外に出ると人類が滅ぶって言われてるんでしょ?」
「はい。文献ではそう書かれてますね。まあ歴史上では二回か三回ぐらい外に出てるらしいんですが…その時に人類が滅ばなかったのは奇跡が続いたおかげだとか」
俺の確認に分身のお姉さんが偉大な先人達が残してくれた情報を話した。
「…俺でも一撃で仕留め切れるかは運だからなぁ…しかも強くなってもずっとチャンスは一度きりのまんまだから失敗したら激戦になるし」
「今はダンジョンの中だからどんなに暴れても被害は無いですけど…外に出たら坊ちゃんとの戦いの余波や影響が凄い事になると思いますよ」
「…流石に周りへ配慮して戦えって言われたら高確率で俺死ぬよ」
「ですよね」
俺が去年を思い出しながら呟くと分身のお姉さんは予想するように返し…
俺もその状況を予想しながら言うと分身のお姉さんが困ったように笑って同意する。
ーーーーーー
「…ふー…やっぱり上級者用は疲れる…どうせあと二日しか無いんだからもう中級のダンジョンでもいいかな」
「そうですね。また同じダンジョンに行っても出現する可能性は限りなく低いですし…」
俺はダンジョンから出ると疲労を感じながら呟き、明日からの予定を話すと分身のお姉さんも賛同してくれた。
「ギィー!」
「ギィー!」
「ギシャー!」
「ギシャー!」
「ったく、ゴブリンごときが一丁前に…」
「あ、はは…」
剣や槍、手斧にパチンコを持ったゴブリンが威嚇しながら俺に襲いかかって来るが呆れながら魔石抜きの一撃で返り討ちにしていくと…
ゴブリン達に同情してるのか分身のお姉さんは乾いた笑い方をした。
「…はぁ…時期のおかげで外に出ても休まらないから常在戦場の精神が鍛えられるよ」
「流石の坊ちゃんも上級者用のダンジョンだと疲労の色が隠せませんね。回復しましょうか?」
「いや、いい。ありがとう」
もはや雑魚の魔物すら相手にしたくないほどに疲れているが、これも修行の内だ…と俺は分身のお姉さんのありがたい提案を拒否する。
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