青年期 2
…そして一時間後。
「おおー。流石に大きな家だなー」
「そうですね。でも他の貴族はもっと大きな邸宅だったりしますよ」
「へー…管理が大変そうだな…」
実家に着いたので馬車から降りて家を見ながら言うとお姉さんは微妙な感じで笑って返すので俺は面倒くさそう…と思いながら呟いた。
「ん?アーシェさん、こんにちは」
「こんにちは。中に入れてもらえますか?」
門の前に守衛のように立っていた兵がお姉さんに気づいて挨拶をするとお姉さんも挨拶を返してお願いする。
「…アーシェさんだけなら問題ないですが…失礼ですが、彼は?」
「警備の立場上、来客の素性は確認しないといけませんので…」
「ほおー…しっかりしてるもんだね」
「えーと…坊ちゃ…彼は『リデック・ゼルハイト』。このゼルハイト子爵家のご長男であられます」
兵達が困ったように笑いながら確認して理由を話すので俺が感心するとお姉さんは俺を紹介してくれた。
「!?では彼が…!?」
「当主様からお話は伺っております。どうぞお入り下さい!」
「ありがとう。ご苦労様」
「いえ!もったいなきお言葉!」
兵士達は驚きながら門を開けてくれるので俺がお礼を言って労いの言葉をかけると謙遜したように返す。
「…帰ったか」
「おや、父さん久しぶりだね。いや、初めましてかな?」
「…久しぶりだ!!」
デカいドアを開けて家の中に入ると現当主の父親が何故か仁王立ちして待っていて、俺が挨拶すると何故か抱き締められて訂正される。
「随分大きくなったようじゃないか。これまでの生活は院長やそこにいるお嬢さんから聞いていたが…鍛錬や修行と称してかなりの無茶をしていたようだが、身体は無事なのか?後遺症などは残っていないだろうな?」
「大丈夫大丈夫」
「ならいいが…幼い頃のお前は直ぐに無茶や無理をすると聞いていたからな。流石に成長して大人になったか。学校生活の事はエーデルやリーゼからも聞いていたが他からの報告と食い違う部分が多くて実態はどうなのか不安だったのだが…」
「大丈夫大丈夫」
父親は俺から離れるとマシンガントークのように早口で喋ってきた。
「それと魔石や魔物の素材の件は大いに助かった。おかげであらぬ噂も流されたが魔法協会が直ぐに否定してくれ、上層部の方達が連日謝罪に来ていたほどだ…特に肉の件は…」
「あなた。リデックに会えて嬉しい気持ちは分かりますが、立ち話もなんですし…場所を移しましょう」
父親のマシンガントークに俺とお姉さんが困惑してると母親がやって来て助け船を出してくれる。
「リデック、おかえり。三年振りね」
「そだね。エーデルやリーゼと毎日会ってたから学生生活はあっという間だったよ」
「ふふふ、それは良かった。でも私達は寂しかったわよ?」
「ま、卒業まで会いに来れなかったんだからしょうがない」
どっかの部屋に移動中に母親が嬉しそうに話しかけてくるので、俺が学校生活に触れながら返すと笑顔で軽い嫌味みたいな事を言われたが俺も笑顔で反撃した。
「…ふう…リデック。卒業おめでとう」
「ありがとう」
応接室のような部屋に行くと父親はテーブルを挟んだ対面側の椅子に座り…
改めて祝福するかのような言葉をかけてくるので俺はお礼を言う。
「では、何か聞きたい事はないか?私からだとまた長話になってしまう」
「特に無いよ」
「…本当か?お前だけ孤児院に預けられた理由とか知りたくはないのか?」
父親が質問を求めてくるので俺が適当に返すと驚いたように確認してきた。
「庶民や平民の立場からの視点を取り入れるためでしょ?みんなみたいに貴族本位の考えで進めて行くと下っ端の事を蔑ろにしてしまうから…と」
「…そうだ。長男であるお前にそんな重責を担わせてすまないと思っている」
「でも結局俺がやらなきゃエーデルやリーゼが孤児院送りになってたからねぇ…俺は父さんの合理的で効率的な考えを支持するよ。俺だって父さんと同じ立場なら同じ事をすると思う」
俺の確認に父親は苦虫を噛み潰したような顔で謝ってくるので俺はその考えに賛同しながらフォローする。
「そうか…」
「…坊ちゃん、エーデル様が後継ぎに選ばれた理由とか聞かなくて良いんですか…?」
父親が安心したかのようにホッとしたように呟くとお姉さんが耳打ちするように小声で疑問を聞いてきた。
「エーデルが後継ぎに選ばれたのって俺に魔法適性が無かったからでしょ?」
「…そうだ。魔力持ちで一切の適性が無いお前は差別の対象になってしまう…たとえお前がどんなに努力しようが、結果を出して成果を上げようが周りの貴族共は素直に認めようとしないだろう」
「…なるほどねぇ…粗があるとソコを突かれるって事か…確かに分かりやすい弱みを見せるとやり辛くなるかも」
で、後継ぎから離れたから孤児院行きって事か…と、俺は父親の説明に納得して孤児院送りになった流れも再確認しながら呟く。
「…魔法適性の無いお前を不自由にさせないためには…と考えた結果が孤児院だ。あそこならば皆対等に接してくれ、差別や偏見に遭う事は無いだろうからな」
「確かに学校では貴族からの差別や偏見とかが結構あった気がする。ま、俺は気にしなかったけど」
父親が考えを話すので俺は引率の時や対抗戦の時の事を思い出しながら返した。
「…他には何かないか?」
少し間が空くと父親が質問が無いかを聞いてくる。
「他に確認する事は無いかな。なんかある?」
「え?いいえ!」
俺は最初から特に質問とかは無かったのでお姉さんに聞くも手を振って拒否した。
「無いんだって」
「そうか。…リデックは…卒業した後はハンターに専念すると聞いたが」
「そうそう。エーデルが卒業するまでの時間潰しでね」
「…ちゃんと分かっているなら心配はいらない、か…子供だと思っていたが…しっかり成長してくれたようで嬉しいぞ」
父親の確認に俺が肯定して返すと上を向いて何故か感動したかのように呟く。
「ハンターとして働くのはいつから?少しの間は家に居られるでしょ?」
「うん。今年いっぱいぐらいはこの家に世話になるつもり。無理なら宿でも取るけど」
「部屋なら空き部屋がいくつもある!心配するな!」
「良かった。じゃあ先生、俺はココに居るから」
「分かりました。良かったですね、坊ちゃん」
「ん」
母親と父親から滞在の許可が降りたので、俺は週末にダンジョンに行く時はココに来てもらうようお姉さんに告げる。
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