青年期 118
「…これは是非とも私とも手合わせをお願いしたいものだ」
「…分かりました。お相手致しましょう」
おじさんは剣に手をかけて好戦的に笑いながら言い、俺は後から何度も挑まれても面倒だ…と思いながら申し出を受けた。
「おい、息子を部屋まで運べ」
「「 はっ!」」
「…さて、どれほどのものか…」
おじさんが近くの兵士達に命令すると二人の兵士が速やかに倒れている青年を運び出し、おじさんは剣を抜いて構えながら呟く。
「…ふっ!」
おじさんの素早く距離を詰めての突きを俺は一切の回避行動をせずにそのまま刃を掴んで止める。
「…なっ…!?…ぐっ…!」
そして金属の棒から手を離し、驚くおじさんの胸を殴って気絶させると膝から崩れ落ちて倒れた。
「……負けた、のか…?」
「はい。俺が勝ちました」
「…そうか…」
30秒ほどで目を覚ましたおじさんが周りを見て確認してくるので俺が肯定して返すと、おじさんは結果を受け入れるように目を瞑りながら呟いて立ち上がる。
「…まさか抜き身の剣を素手で掴んで止めるとは…」
「驚いて一瞬硬直したせいで隙が出来てましたね」
「手は大丈夫なのか?」
「問題無いです。長引くと厄介だったので初見のみ通じる技術で決めさせてもらいました」
思い出すように呟くおじさんにソレが致命的だった事を告げると心配するかのように確認し、俺は手のひらを見せながら本音の混じったフォローを返す。
「ふっ…私もまだまだ鍛錬が足りんという事か…」
「…頑張って下さい」
おじさんが自虐するように笑い、俺は返事に困った結果適当な相槌で返した。
「では戻ったら報酬を用意させよう」
おじさんはそう告げると訓練場から出て行き、俺も後をついて行く。
「ところで…娘から聞いたのだが、貴殿らはロムニアに行こうとしているらしいな」
「はい」
「出発は明日直ぐか?」
歩いてる最中におじさんがふと思い出すように聞いてきて俺が肯定すると予定を尋ねてくる。
「いえ、二日後を予定しています」
「二日後か…ロムニアに急ぎの用でも?」
「いえ。ただの旅なので特に用はありません」
「ふむ…ならば相談があるのだが…」
おじさんの確認に俺が否定しながら答えるとおじさんは考えるように呟いて足を止めた。
「相談…ですか?」
「うむ。最近他所から来た野盗やら賊やらに領内の村や町を襲撃されたり、街道で商人が襲われたり…と治安を悪化させていて困っていたところなのだ」
「それは大変ですね」
俺が不思議そうに聞くとおじさんは困りながら最近の領内の様子を話し、俺は自分の立場と重ねながら身につまされる思いで返す。
「しかし、刺客の件から分かるように兵を表立っては動かせんのだ。ロムニアに隙は見せられぬからな」
「…なるほど…つまり賊達はソレを分かってココに来たのか、誰かの差し金で送り込まれたのか…って事ですか?」
「…そうか…!誰かの差し金という事もあるか…!…なるほど…周りを信じていたがゆえにそのような考えには至らなかった…」
おじさんの話を聞いて俺が予想しながら確認するとおじさんは目から鱗といった反応しながら考え込むように呟いた。
「賊の退治でしたら傭兵団に依頼していただければ引き受ける事も出来ますが…」
「おお!引き受けてくれるか!」
「はい。一応自分が先にみんなに話を通しておきますが…後から正式に依頼をお願いします」
「助かる!では早速依頼のための準備をさせねば…!」
俺が仕事の営業をかけるとおじさんが喜びながら聞き、肯定して促すとおじさんは足早に部屋へと戻る。
「あら、来ていたんですね」
「はい。辺境伯からお呼びがかかりましたので」
おじさんから報酬を貰って宿に帰ろうとしたところでお嬢さんに声をかけられた。
「お父様が?」
「『娘を助けてくれて感謝する』と、追加報酬を頂きました」
お嬢さんが軽く驚きながらも不思議そうな感じで返し、俺は辺境伯とのやりとりを簡単に伝える。
「まあ。お父様ったら…」
「あと傭兵団への仕事の依頼ですね。最近領内の治安が悪化している事について心を痛めていたようですので」
「…国防のために兵は軽々しく動かせませんものね…依頼の方、よろしくお願いします」
お嬢さんは嬉しそうに口元に手を当てて呟くも俺の話を聞いて表情を曇らせて呟き、軽く頭を下げながらお願いしてきた。
「お任せください。たかが賊ごとき我々猟兵隊の敵ではこざいません」
「流石、頼もしいですね」
「もしかしたら強者と戦えるかもしれませんし…変化魔法の使い手とか居てくれないかな…」
「あ、はは…では、私はこれで」
俺がお嬢さんを安心させるように自信満々で言い切ると嬉しそうに返し、本音を話して願望を呟くとお嬢さんは困ったように笑ってその場を離れる。
「あ」
「お」
俺も宿屋に戻ろうと宮殿のような建物から出ると、庭のところで女性と遭遇した。
「なんだ、あんたも呼ばれてたのかい」
「まあね。令嬢の救出や護衛のお礼と傭兵団の仕事の依頼を、ね」
「仕事の依頼?じゃあついにあたしも猟兵隊として活動出来るわけだね」
女性の意外そうな言葉に俺が肯定しながら内容を軽く話したら女性は少し驚いた様子を見せた後に嬉しそうに笑う。
「とりあえず用事が済んで戻った時にでも誰かに聞いといて」
「分かった」
「じゃ」
俺が適当に言うと女性は普通に了承し、俺は手を上げて別れの挨拶をして今度こそ宿屋へと戻った。
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