青年期 251
「…少々感情的になり、不躾な発言をしてしまった事をお詫びいたします。申し訳ございませんでした」
分身の俺は不本意ながらも女の子の顔を立てるように渋々胸に手を当て、軽く頭を下げて謝罪した。
「…ふん。これだから戦う事しか知らぬ野蛮人は…」
「全くもってその通りでございます。返す言葉もございません」
…青年に誹謗されるが分身の俺はこれ以上場を荒らさないために流すように受け入れる。
「…しかし陛下、いかがいたしましょう?このまま返せば大公国の帝国軍は全滅してもおかしくはありません。決闘をしようにも、この場で捕らえようにもダッソ・カルバリン以上の人選は…」
「捕らえる判断はおやめになった方がよろしいかと。ゼルハイトさんがその気になればこの帝都が地図上から消える事もありえますので」
おじさんが困ったように判断を委ねると男が選択肢の一つを潰すように警告した。
「…出来る?」
「やろうと思えば。流石にやる事は無いけど」
「まああなたならそんな事しなくても簡単に逃げられるだろうし」
女の子の確認に肯定して否定的に答えると胸を撫で下ろした様子で返す。
「…ふぅ…分かった。我々の負けだ。ダッソがこうまでも戦いを拒む以上、もはや他に打つ手は無い」
「…では…」
すると青年がため息を吐き、根負けしたように負けを認める。
「ああ。魔法協会からは手を引く。ディバルザー元帥、アズマ中将、帝命だ。トゥレット大公国内の兵達を帝国へと即時帰還させよ」
「「はっ!かしこまりました!」」
青年の肯定からの命令におじさんと女の子は背筋を正して敬礼しながら了承した。
「流石、陛下。素晴らしきご決断でございます」
「…まさか魔法協会がこのような怪物を飼っていたとはな…アズマ中将、話が違うではないか」
「…返す言葉もございません。申し訳ありませんでした」
「いやしかし、我々の切り札である彼でさえも戦いを避けるような戦力を隠していたなど想定のしようがありません。今回の件でアズマ中将に非は無いかと」
おじさんが褒めると青年はまたしてもため息を吐いた後に女の子を責めるかのように言い、おじさんは庇い立てるように返す。
「あと一人マスタークラスのハンター…冒険者が居るはずじゃん?ソイツが魔法協会の味方をした場合はどうするつもりだったわけ?」
「本来ならその時に僕の出番が来るはずだったんですが…」
「なるほど。同じM級同士で足止めをする、と」
「正直、あなたが実在するなんて誰一人信じてなかったと思う。私は今までただの都市伝説的な噂だと思ってたし」
分身の俺の疑問に男が答えるので納得して返すと女の子は想定外だった理由を教えてくれる。
「都市伝説って…」
「いくらなんでも冒険者のライセンスを取って直ぐにマスタークラスに昇格とか普通は信じられないでしょ」
「そりゃそうだ。俺もびっくりしたし」
「…そうなんですか?」
分身の俺が呆れたように呟くと女の子は至極真っ当な事を言うので賛同すると男が驚いたように聞いて来た。
「そうそう。昇格試験も受けてないのに急にギルドの人が来て『今日からマスターランクに認定されました』とか言われて、マジか!ってなった」
「マジで?なんで?そんな事ある?」
「…僕は聞いた事ありませんが…」
分身の俺の話を聞いて女の子が不思議そうに確認すると男も不思議そうに考えながら呟く。
「なんか魔法協会が働きかけたっぽい」
「え、なんで!?」
「さあ?そこは魔法協会の人に聞いてみないとな…だから俺としては魔法協会が無くなると困るわけよ」
分身の俺が経緯をチョロっと話すと驚きながら尋ねられ、流石に秘匿事項の事は話さずに適当な感じで誤魔化して魔法協会側に肩入れしている理由を告げる。
「…まあ、確かに…でも魔法協会の先見の明えっぐ」
「それよりも僕は魔法協会の影響力に驚きました…冒険者になりたての新人…それもまだ10歳の子供でさえもマスタークラスに取り立てる事が出来るとは…」
「…あ。そう言われてみれば…」
女の子は納得しながら呟いた後に微妙な顔で魔法協会を評価するように言い、男の話を聞いて凄さに気付かされたような反応をした。
「ははは、まあそのおかげでどんなダンジョンにも合法的に入れるから強い魔物と戦い放題で修行効率爆上がりよ」
「いや普通は自分の強さと見合ったダンジョンに行かないと死ぬから、修行じゃなくてただの自殺行為でしかないからね?それ」
「その通りです」
分身の俺の笑いながらの発言に女の子が冷静にツッコミを入れるように指摘し、男も頷いて同意する。
「…アズマ中将。談笑中のところ悪いが急ぎトゥレット大公国へと戻り、兵達の帰還指揮を執ってもらいたい」
「かしこまりました」
「じゃあ戻ろうか。では自分達はこれで失礼いたします」
俺らが会話で盛り上がっているとおじさんが微妙な顔で割り込んで来て女の子に命令を通達し…
女の子は敬礼しながら了承するので分身の俺は青年とおじさんに軽く頭を下げながら退室の挨拶をした。
「…念の為に確認しておくが、まさか帰還する兵達を後ろから襲撃する…なんて真似はしないだろうな?」
「ありえません。現状、自分が実質的に大公国の全兵の指揮を執る立場ですのでそれは断言出来ます」
「…そうか」
分身の俺がドアに向かうと青年は警戒した様子で釘を刺すように確認して来たが、分身の俺の強い否定に安心した様子で息を吐く。
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