青年期 345
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「…ん?なんか美味しそうな匂いがすると思ったら…」
分身の俺が夕飯を作ってると『厄災の魔女』と呼ばれてたらしい女が厨房に顔を出す。
「あんた料理も作れるのかい?」
「まあね。食べる?今会議中のお偉いさん達に出す料理だけど、なんか聞いた話では元『代表者』みたいじゃん?」
「じゃあ遠慮なく」
女の意外そうな問いに分身の俺が尋ねると女は皿に盛られてるカルパッチョをつまみ食いするように刺身を素手で食べる。
「…!?これは…!」
「行儀悪いな…育ちを疑われるよ?ちょっとぐらい待ってくれよ」
魔物の魚肉の味に驚く女に分身の俺は呆れたように咎めて別の皿に同じ物を用意した。
「…はい。いくら昔の人間とはいえ、食器ぐらいは使えるでしょ?」
「……コレは何の肉なんだ?今までに食べてきたのとはどれも違う…こんな肉は初めてだ」
分身の俺が馬鹿にしながら釘を刺すと女は睨みながらもフォークを手に取って食べ始め、一気に掻き込むように食べた後に疑問を聞いてくる。
「まあ世界中のほとんどの人がまだ口にした事がないだろうね。マーメイドの魚肉なんて」
「マーメイド…?魔物か!新種か?どういう魔物なんだ?」
分身の俺の返答に女は不思議そうな顔をした後に直ぐに思いついたようで興味を持ったように聞いてきた。
「…どちらかといえば魚系かな?上半身が人間で下半身が魚の特殊ダンジョンにしか出ない魔物」
「…それは『サハギン』とは違うのか?」
「アレは『半魚人』だからなぁ…まあ括りとか分類的には同じかもしれない。武器を使うらしいし肉は落とさないと思うけど」
分身の俺がなるべく分かりやすく簡単に説明すると女は似て非なる魔物を挙げ、分身の俺は微妙な顔をしながら図鑑の情報を思い出して違いを挙げる。
「…魔物の肉か…そんなものがあるなんて初めて知ったけどこんなに美味しかったなんて…」
「当時は知られてなかったの?いくらなんでもハンターや冒険者なら当時でも知ってたはずだけど」
「ダンジョンには良く行ったけど私達は専門ではなかったから」
意外そうに呟く女に分身の俺が肉を焼きながら聞くと女はそもそもハンターでは無かった事を告げた。
「じゃあ知らないわけだ。コレもあげる」
「…美味しい!肉がこんなに柔らかくなるなんて…!」
「ハチミツとか玉ねぎを使ってちゃんと下拵えしたから。本当はパインも欲しかったんだけど…まあ仕方ない」
普通の肉を調理の技術で柔らかくして焼いたものを出すと女がナイフとフォークで切って食べて喜ぶので分身の俺はちょっと不満に思いながら説明する。
「このステーキならなんとか魔物の肉にも劣らない出来だと思うけど…問題は俺の腕では他の料理だと魔物の肉には勝てない事でねぇ」
「…まだある?」
「…聞いてねぇ…まあいいや。じゃあコレもあげる」
分身の俺が悩みを話すも女は食べるのに夢中で何のリアクションも取らずに次の料理を催促するので、分身の俺はため息を吐いてお椀に鍋物を移して出した。
「…!コレもさっきと同じ魔物の肉?」
「そうそう。魚肉しかないから、生か焼くか煮る料理しか出せない。今は」
「…焼く?」
女は一口食べて確認し、分身の俺が肯定すると不思議そうに聞く。
「『ムニエル』ってのがある。コレ」
「食べる!」
「あ」
皿に盛った料理を見せると『あげる』と言ってないのに女はフォークを刺して勝手に食べる。
「ソレは提供用だったのに…勝手に食べるとか野蛮人かよ」
「隙を見せる方が悪い」
分身の俺が呆れながら責めるも女はニヤリと笑って全然反省してないような様子を見せた。
「…自分の非を認めずに謝れない人間にはデザートはあげられんな。ソレで終わりね、バイバイ」
「ごめんなさい私が悪かったです次からは勝手に食べないから許して」
分身の俺はお仕置きとして食事の締めを抜きにする事を告げて手を振って追い返そうとすると女が早口で謝り始める。
「本当に?」
「本当に」
「じゃあデザートとして…このレアチーズケーキを」
「…ケーキ?今のケーキってこんな…あ、美味しい!」
分身の俺の確認に女が頷いて肯定するのでデザートを皿に移して出すと女は不思議そうに見た後にフォークで一口食べた。
「あとフィナンシェ」
「…!コレも美味しい!」
「で、提供する夕飯は終了」
「…この丸いのはまだある?」
二つ目のデザートを出すと女はレアチーズケーキの二切れ目が残ってるのにフィナンシェを食べて感想を言い、分身の俺が終了を告げるとフィナンシェを指しながら確認してくる。
「余りは全部貰っていいよ」
「いいの?ありがとう!」
形がイマイチで提供に向かない余りものを10個ほど渡すと女が笑顔でお礼を言う。
「ただ、今日中には全部食べて欲しい。焼き菓子とはいえ気温や湿度で安全に食べられる期間が変わるだろうし」
「夜食としていただくから大丈夫。このケーキは?」
「冷蔵出来る場所が無いから諦めて。空間魔法の施された何かを持ってるなら話は別だけど」
「…じゃあ今は諦めるしかない、か…取り戻したらまた作ってちょうだいね。それじゃご馳走様」
分身の俺の注意に女はそう返してレアチーズケーキを指差し、安全性が保証出来ない事を告げると女が諦めたように呟いて直ぐに厨房から出て行った。
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