学生期 弐 9

「凄いですね!坊ちゃん!グリーズベアー4体に囲まれて無傷どころか全て一撃で倒すなんて!」


「傷一つ負わないんなら避ける手間が省けるし、落ち着いて至近距離から心臓を狙えるからね」



褒めながら駆け寄ってくるお姉さんに俺は一撃で倒せた理由を話しながら落ちた肉を真っ先に回収していく。



「しかし…剣や槍ならともかく矢でも一突きだなんて…よく心臓まで届きましたね?普通なら毛皮の厚さや脂肪、筋肉に阻まれるはずなのに」



お姉さんは落ちてる矢を拾って不思議そうに矢じりを凝視しながら何か仕掛けがないかを確認するように聞いてくる。



「まあ至近距離からだし。とはいえ弓も違うけど…ほら」


「あ…か、固い!坊ちゃん…!これ…全然引けな…!」



俺が素材の次に剣や槍を回収して持ってる弓を渡すと、お姉さんは弦を引こうとするが力が足りないからか全く動かず…



足で押さえて両手で弦を上向きに引っ張ってようやく少し引けた。



「ははは。ソレはドラゴンの鱗をも貫通して刺さるほどの上級者向けの弓だからね」


「…そんな物を軽々と引いていたんですか…?」


「そりゃ今はこんな見た目だけど本来ならプロレスラーとかボディビルダーぐらいのムキムキマッチョだし」


「ぷろれ…?」



俺の笑いながらの説明にお姉さんが愕然としながら聞いてくるので理由を話すも不思議そうな顔をする。



「本来の俺は身長180cm体重100kg、握力200kgに背筋力400kgもあるし、ベンチプレス400kgで重量挙げが500kg。100mは10秒前半、立ち幅跳びは4m、走り幅跳びも10mで高飛び3mぐらいのスペックだから」


「…?…ホントですかぁ~?」



俺の身体測定やオリンピック競技に例えた解説にお姉さんは不思議そうな顔で最初以外を聞き流したような感じで疑いながら返す。



「まあ信じられないのも無理はないよ」


「えー…じゃあ証拠を見せて下さいよ~」



俺がサラリと流したらお姉さんはイタズラでも仕掛けるかのような笑みを浮かべて聞いてきた。



「…分かった」



俺は了承して服の上から腰にタオルを二重に巻き…



変化魔法を使って偽装や擬態を解くように本来成長して、こうなるはずだった姿に変えた。



「ええー…!す、凄い…」



するとお姉さんは俺を見上げて驚きながら呟く。



「…一応さ、あれだけ毎日鍛錬と修行を繰り返してるんだからこうならない方が逆に不自然じゃない?元に戻るけど」


「…確かに。今まで全然何も思わなかったですけど…よく考えると不思議ですね」



俺が変化魔法を解除して元の165cm45kgのヒョロい姿に戻りながら聞くとお姉さんは考えながら同意する。



「でもじゃあなんでそんな姿に?さっきの姿の方が威圧感があって周りから一目置かれると思いますけど…」


「擬態とか偽装だね。師匠が昔言ってたよ『強く見える人よりも弱く見える人の方がメリットが大きい』って」



お姉さんは不思議そうにもったいなさそうな感じで疑問を尋ねるので俺はこの姿のままで居る理由を教えた。



「…どういう事です?」


「強そうな見た目の人だと威圧感で周りに舐められなくなるメリットの代わりに、周りに警戒されたり…喧嘩は売られないけど強さを比べるための勝負を挑まれる事が多くなるデメリットがあるんだって」


「あー…」



俺が歩きながらお姉さんに師匠のお兄さんから聞いた事を分かりやすく掻い摘んで話すと、それで理解したように呟くので…



「でも弱そうな見た目の人は周りに舐められるっていうデメリットの代わりに、周りに警戒されないし特に期待はされず…喧嘩を売られる事はあっても勝負を挑まれる事が無い、っていうメリットがあるみたい」


「なるほど。それで坊ちゃんは擬態…偽装でしたっけ?をして弱者を装ってるワケですね」


「そゆこと」



俺が更に話を続けると完全に理解したように確認してきたので俺は肯定する。



「こんな見た目でもさっきの見た目の時とスペック…身体能力は一緒だからね。流石に学校や寮では物を壊さないように変化魔法でこの見た目の通りの力に抑えてるけど」


「へぇー…変化魔法ってそんな使い方も出来るんですね…『魔物に変身するだけの単純な魔法』って事しか知らなかったです…」



俺の笑いながらの説明を聞いてお姉さんは意外そうに自分の認識を改めるような事を言う。

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