青年期 225

…その後。



魔道具を使った方法での分身を男にかけて実際にやって見せた後に魔道具を回収して別れ、分身の俺はドラゴンに変身して拠点へと戻った。



「…ただいまー」


「お。帰って来たか」



分身の俺がノックもせずに自室に入って来るので俺は報告書から目を離して分身を解き、床に落ちた空間魔法の施されたポーチを回収する。



「…整理は明日でいいか…」



…もう夜も遅いので俺は中身の整理整頓を諦めて寝る事に。




そして一週間後。




同盟国の危機を救った功績がどうこうでニャルガッズの最高位の勲章とこの国…ラスタの最高位の勲章、そして金品が報酬として貰えたが爵位や領地の話にはならなかった。




…それから一月後。




「…団長、お嬢が来てるが…」


「…え?今?」


「ああ。だが、いつもとは違ってなんだか様子がおかしい気がするんだが…」



昼前にドアがノックされ…団員が平日にも関わらず妹の来訪を告げるので、俺が驚きながら確認すると団員は微妙な表情でなにかしらの異変を察したかのように呟く。



「…どういう事?」


「お兄様、今よろしいですか?」



俺は何か良からぬ事が…?と不安になりながら立ち上がって聞くと当の本人である妹が確認して部屋に入って来る。



「ああ。珍しいなこんな何も無い平日に」


「じゃあ俺はこれで」


「ありがとうございます」


「ご苦労さん」



俺が受け入れると団員が去って行くので妹がお礼を言い、俺も労いの言葉を返す。



「…で?なんかあったのか?」


「退学処分を受けたので学園を去る事になりました」


「…はっ!?」



…空間魔法の施されたポーチから飲み物を取り出してカップを用意しながら聞くと、妹は世間話や雑談のような気軽さで話を切り出し…



その内容に俺は一瞬理解出来ずに動きを止めて驚きながら聞き返した。



「私は何もしてませんし、私に非はありませんわ。しいて言うならば立ち回り方を少々間違えたぐらいでしょうか」


「…ハメられたって事か?」


「その認識で間違っていません。他の令嬢達に陥れられました」


「…いやいや…そんな主人公みたいなイベントが実際にある…?」



妹の説明に俺が確認すると肯定しながら退学になった理由の一部を話すので…



俺はよくある令嬢物の導入かよ…と思い、つい前世の記憶による知識をポロッと漏らして呟く。



「まあいいや、父さん達は知ってんのか?」


「いえ、学園で正式に公表されるのは週明けなので…4日後に手紙で報せが届くと思います」



俺が切り替えるように尋ねると妹は否定して説明しながら予定を話す。



「休みを二日またいでか…うーん…まあ父さん達には怒られるというか呆れられるというか…とりあえず、家に帰り辛いとか帰りたくねーんならコッチに泊まってけ。空き部屋はいくつかあるし」


「ありがとうございます。ではお言葉に甘えてお世話になりますわ…感謝します」



俺は両親の反応を予想しながら反応に困ったように呟き、妹が家出とかして危険な目に遭わないよう提案すると妹は頭を下げてお礼を言う。



「…全く、貴族ってのはそういう面倒なのがなぁ…だから俺は大人しくモブみたいに最低限しか目立たずに過ごしてたんだけど…」


「お兄様はそこらへんの立ち回りは上手になさってましたね。…高等部の雰囲気や人間関係は中等部や初等部とは全く違い、その大きな変わり様には驚きました」



俺が部屋に案内するように歩きながら呟くと妹は思い出すように笑い、表情を変えて学園での事を話した。



「そんな話は一切聞かなかったから学校生活を楽しんでるものだとばかり思ってたのに」


「そんな事を話してもお兄様達を不安にさせるだけでしょう?無用な心配はかけたくありませんし」


「気持ちは良く分かるが…それでこんな手遅れの事態に発展しちまったらなぁ…まあ事前に知ってたところで俺に何が出来たか、って話になるけども」



俺の意外に思いながらの発言に妹は反論するように返すので俺は一人で抱え込むな…と、アドバイスするように返した後に責める口調にならないよう軽い感じにする。



「とりあえず一階のこの部屋を使ってくれ。荷物が多いんなら隣と合わせて二部屋使っていいぞ」


「分かりました」


「まあ色々疲れてるだろうし…一週間ぐらいボーッとして心と身体でも休めたらどうだ?暇なら拠点内を見て回ったり団員達と話したりして気分をリフレッシュさせろよ」


「ありがとうございます」



俺は本部の一階にある部屋に案内した後に妹に気を遣って休養を勧めた。




「…あれ?リーゼ様?こんな平日に珍しい…」


「あら、アーシェさんお久しぶり」



…妹の荷物を馬車から部屋に運んでいると昼飯の時間になったのかお姉さんが支部から戻って来て、驚いたように言うと妹が挨拶する。



「荷物を運んでるんですか?」


「なんか貴族の令嬢にハメられて学校を退学になったんだって」


「…え」


「それでココに泊まらせる事にした」


「しばらくの間、よろしくお願いしますわ」


「…あ、はい」



お姉さんの不思議そうな問いに俺が簡単に説明するとお姉さんはフリーズし、荷物を運んでいる理由を話すと妹が挨拶してお姉さんは脳内の処理が追いついてないのか…よく理解できていない様子のまま返す。

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