子爵家の長男ですが魔法適性が皆無だったので孤児院に預けられました。変化魔法があれば魔法適性なんて無くても大丈夫！

青年期 97

…男は素早い動きで分身の俺に近づいて来ると右手のナイフを横薙ぎに振った。

「おっと」

分身の俺が少し上半身を後ろに下げて避けると首を狙って左手のナイフを横薙ぎに振る。

…両手でナイフをブンブン振るのを簡単に避けながら単調な攻撃だなー…と馬鹿にしていると…

「っ…！」

右手のナイフで横薙ぎからの後ろ回し蹴りを余裕で避けたらまさかのそこからのサマーソルトキック。

無理な体勢からのソレはあまりにも意外で予想外過ぎたので、分身の俺は避けきれずに腕を少し掠った。

「…感触はあったが…紙一重で避けたようだな…」

…靴の踵の方に刃物が仕込んであるのは後ろ回し蹴りを避けた時に分かったが、どうやらつま先の方にも仕込まれていたらしく男は無傷の状態の分身の俺を見て勘違いしたように呟く。

「…えっぐい身体能力してんなぁ…」

片足の状態からのサマーソルトキックなんて初めて見たので分身の俺は左腕の刃物が当たった場所を見て男を褒めるように呟いた。

「…はっ」

「おおっと」

男はナイフをしまうと大量の千枚通しの針みたいなのを取り出し、ソレを分身の俺に投げるように飛ばして直ぐにナイフを手に接近する。

「…なるほど。堅実的な戦い方だ」

男の戦い方はみんながよくやる相手を一撃で倒すような豪快なやつではなく…

少しでも確実にダメージが入るようコンパクトに攻めて持久戦に持ち込むような感じっぽいので、分身の俺は分析しながら呟いた。

「…おかしい…何度か感触はあったが…なぜ当たっていない？」

「いやいや、当たってはいるよ。掠る程度だけどね」

「敵からの慰めは不要だ。本当に掠っているのならなぜまだ動ける？」

5分ほどすると男が表情を変えて呟き、分身の俺がフォローするように返すと男は拒否るように返してわざわざ情報をくれる。

「…なるほど。これでも本業はハンターだからね。毒には耐性があるんだよ」

「…ハンターだと？…厄介な…！」

分身の俺の察しながらの返答に男は苦虫を噛み潰したような顔になった。

「んじゃ、そろそろ決めさせてもらうよ」

「…こっちもだ」

分身の俺が余裕の態度で言うと男はナイフを構えながらしゃがむような体勢を取って返す。

「っ…！」

男は分身の俺が一定の距離に近づくまで動かず、間合いに入った途端にかなりの速度で懐へと飛び込んでナイフをクロスするように振るが…

「惜しかったね」

分身の俺のアッパーが一手早く男のナイフが届く前に顎を跳ね上げる。

「おわっ！？」

と同時に男はサマーソルトキックでカウンターを入れ、分身の俺の腹から右肩にかけて刃の先が線を引くように当たった。

「…ぐ…」

「…おおー、すげー身のこなし…俺じゃなきゃ今ので終わってたな」

男が着地に成功した後によろけ、分身の俺は感心しながら呟いて男に近づく。

「良い経験になったよ。ありがとう」

「…！？」

分身の俺がお礼を言いながら胸を殴ると男は気絶して膝から崩れ落ちた。

「…さて。アッチはどうなってるか…」

分身の俺は男を肩に担ぐと女性側の心配をしながらも一旦村の入口へと戻る。

「あ。意外とかかりましたね」

「普通に強かった。多分あのお姉さんだと負けてたかも」

「へー！坊ちゃんが相手して良かったですね！」

分身のお姉さんの発言に分身の俺が理由を話しながら毒の都合上、女性が相手してた場合の勝敗を予想すると分身のお姉さんが驚いたように返す。

「まあでも連戦になるってだけで結局俺が勝って終わるでしょ」

「確かに」

分身の俺が男をロープで拘束しながら言うと分身のお姉さんも納得しながら肯定する。

「…じゃ、俺はアッチを見て来るから」

「はい」

「お。ソッチは終わったのかい？」

男の拘束が終わって分身の俺が様子を見に行こうとしたら女性が男を肩に担いで戻って来た。

「…勝ったんだ」

「当たり前だろ。でも流石に軽傷では済まなかったね…コイツ、あたしが今まで戦った奴の中でも一番強かったかもしれない」

分身の俺が意外に思いながら言うと女性は笑って返し、男を地面に下ろして評価する。

「…それにしてもあんたの方はかなり余裕があったみたいだな。無傷って…」

「いやいや、かなり強かったよ。結局最後まで動きを見切れないままだったし」

女性は分身の俺の姿を見ながら驚いた様子で言うので、勘違いされないように分身の俺は女性の認識を訂正させるように相手を評価して返す。

「それにソッチが相手をしてたら多分負けてたと思うよ？刃に毒が仕込まれてたみたいだし」

「なんだって…！？…そんな危ない奴と戦ってたから無傷なのか…」

毒ならば掠っただけでも効果があるからね…と、女性は分身の俺の言葉を信じて納得するように呟いた。

「とりあえず先生、お願い」

「分かりました」

「…え…？まさか…！」

分身の俺が女性を指差しながら指示すると分身のお姉さんは詠唱してから回復魔法を使い…

回復させられた女性は自分の状態を確認するように驚愕する。

「じゃあコイツ拘束したら王都に戻ろうか」

「はい」

「…こんな高位の回復魔法を…！？感謝するよ！ありがとう！」

元気になった女性を見て分身の俺が男をロープで拘束しながら言うと女性はバッと分身のお姉さんに頭を下げながらお礼を言った。